自殺対策は“生きることの包括的な支援”―江戸川区でモデル構築へ (2017/9/8 政治山 市ノ澤充)
自殺総合対策大綱は、自殺対策基本法に基づき、政府が推進すべき自殺対策の指針として定めるもので、2016(平成28)年の自殺対策基本法改正の趣旨や我が国の自殺の実態を踏まえて2017年7月25日、「自殺総合対策大綱~誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して~」が閣議決定されました。
法改正ならびに大綱では、地域における取り組みが重視されており、すべての自治体に自殺対策の計画策定が義務付けられるとともに、実践的な推進が求められています。
これまでにも自殺対策に取り組んできた江戸川区では2016年7月、自殺対策に実績のある公益財団法人日本財団(東京都港区、笹川陽平会長)とNPO法人ライフリンク(東京都千代田区、清水康之代表)と協定を結び、三者が連携して「生きることの包括的な支援」の実践および地域モデルの構築を進めています。
【協定内容】
- 自治体内に設置する首長主導の「自殺対策戦略会議」への参画
- 地域の自殺実態分析に基づいた総合戦略の立案支援
- 自殺対策に関わる自治体職員や地域住民等への研修支援
- 自殺対策のための地域ネットワークの強化支援
- 地域住民への啓発、メディア発信等を通じた全国への啓発
協定締結から1年を経て、江戸川区ではどのような取り組みを行っているのか、同区保健予防課いのちの支援係の岡田久仁子係長にお話をうかがいました。
33課からヒアリング、区長を先頭に全庁的な取り組みへ
岡田さん: 江戸川区においては、当事者支援として総合相談会や自殺未遂者支援、自殺防止連絡協議会によるネットワークづくり、人材育成としていのち見守り隊養成講座(ゲートキーパー研修)、さらには「自殺防止!えどがわキャンペーン」やモバイル版ストレスセルフチェック「こころの体温計」による啓発など、多数の事業を展開しています。
今年の4月には区長をトップとした戦略会議が発足し、部長級の管理職をメンバーとして全庁的に自殺対策を進めています。まずは自殺にかかわる(可能性のある)すべての事業の棚卸に取り掛かり、8月上旬までに33課からのヒアリングを実施しました。この結果はこれから分析して、自殺対策の計画づくりに反映する予定です。
また、自殺防止連絡協議会を拡大し、公募した区民代表や議員、区立学校の校長も参加して情報を共有しています。
SOSの届け先、区内の中学生に「御守り型リーフレット」配布
岡田さん: とくに若年層の自殺対策には重点的に取り組んでいて、1学期の終わりには区立中学校の全生徒(約1万6千人)に「御守り型リーフレット」を配布しました。
このリーフレットには、家族や友達、学校の悩み、将来の不安等、生きづらさを感じた時の様々な相談先が記載されています。御守り型にしたのは、捨ててしまうことなく、困ったときにいつでも連絡できるというアイデアからです。
これは日本財団とライフリンクの協力を得て、自殺者がもっとも多いとされる9月1日=2学期の始まりの前に、読み返してもらえるように作成しました。
迷ったときや苦しくなったときに、一人で悩まなくていい、相談できる場所があると知ってもらうことが、今はもちろん、これから先にも役立つことを期待しています。地域によっては小学生に対してSOSの発し方を教える授業を実施しているケースもあり、参考にしていきたいと考えています。
国のガイドラインに沿った自殺対策計画を年度内に策定
見直し後の大綱では、(1)地域レベルの実践的な取組の更なる推進、(2)若者の自殺対策、勤務問題による自殺対策の更なる推進、(3)自殺死亡率を先進諸国の現在の水準まで減少することを目指し、平成38年までに平成27年比30%以上減少させる(18.5%→13.0%以下)ことを目標とすることを掲げています。
誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して、新たな大綱のもと自殺対策計画のガイドラインが作成・公表される見通しで、江戸川区ではそのガイドラインに沿った形で年度内に自殺対策計画を策定する予定です。
自治体任せでなく、一人ひとりの関わり方が大事
9月10日は世界自殺予防デー、9月10日から16日は自殺予防週間です。一年前に日本財団が発表した自殺に関する調査結果では、4人に1人が「本気で自殺したいと考えたことがある」と回答、5人に1人が「身近な人を自殺で亡くしている」と答えており、多くの人にとって自殺が身近な問題であることが明らかとなりました(「4人に1人が『自殺したい』―世界自殺予防デー、現実と向き合おう」)。
また、同調査では多くの人が周囲に相談できず、相談したことで自殺を思いとどまった人はほんの一握りに過ぎないという現実も突き付けられました。相談できない人にどのようにして手を差し伸べるのか、声にならない声をどうやって聞き取るのか、自治体任せでなく、私たち一人ひとりの関わり方も問われています。
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