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なぜ横浜にカジノはいらないのか―長島有里 逗子市議 (2017/1/10 逗子市議会議員 長島有里)

インバウンド対策は大切だが・・・

 「外国人観光客って嫌だな。だってこの前パン屋さんで、外国人観光客がパンを手づかみでとって、その後そのパンをまた手で戻したんだよ?信じられない!」

 先日、外国人観光客でごった返すテーマパークで、日本人女性が交わしていた会話だ。

 どこの観光地でも外国人の姿が普通に見られるようになってきて、かなり多くの日本人がインバウンド時代に突入したなと感じ始めているのではないか。そんな中で、日本にはまだ文化や風習が違う外国人を十分に受け入れる体制が追いついてはいないようだ。先ほどの会話のことでいえば、パン屋が張り紙で“トングをお使いください”という注意書きを外国語で貼っていれば何も問題は生じなかったはず。だが、観光地でも外国語のメニューすら置いてない店が多い中で、細やかなインバウンド対策が普及していないのが現状だ。

 そんな中、国ではカジノを目玉とする統合型リゾート施設(IR)整備推進法案が成立した。政府やIR議員連盟などの関係者は、2020年の東京五輪の開催までに、全国に複数のIRのオープンを目指すと意気込んでいる。

 人口が年々減っていく日本。GDPを成長させていくために、どんどん外国人観光客を受け入れて外貨を獲得し、国内の雇用も活発化させて、人口が減ってもトータルでちゃんとお金が回るようにしよう!というのは自然な流れといえる。特に、日本のGDPにおける観光産業の割合は5%以下。世界を見渡せば日本はまだまだ観光後進国である。だが、日本は、治安の良さ、美味しい食事、おもてなし文化、どれをとっても世界に誇れるものであり、観光大国になれるポテンシャルは間違いなく秘めているのだ。今後の観光政策が重要なのは言うまでもない。

主要国の国際観光収入のGDPに占める割合(2007年)

(経済産業省HPより抜粋)

横浜市はIR誘致で61億円の増収を見込む

 さて、話を統合型リゾート整備推進法案に戻そう。いわゆるカジノ法案と呼ばれているが、IR施設全体のうちカジノ部分はごく一部に過ぎない。ただし、その施設全体の収益はカジノが集中的に売上をたたきだす仕組みだという。経済効果に期待を込める声が聞かれる。現在、関東近辺では、横浜市の山下埠頭やみなとみらいなどの臨海部が有力な候補地として挙がってきている。横浜市はIR事業の誘致により、そこで働く従業員の個人市民税と、そこで事業を営む法人市民税合わせて年間約61億円の税収が増えると試算した。ラスベガスやシンガポールに見られるように、カジノに加えエンタテイメント性の高いホテルのショーやアトラクションも集客力を上げると見込んでいる。

シンガポールの夜景

シンガポールの夜景

マイナスの経済試算をすべきだ

 なるほど。プラス面の経済試算は理解した。ならば、マイナス面の経済試算はどうだろう。厚生労働省の研究班の調査によれば、「国民(成人)の4.8%にあたる536万人がギャンブル依存症」という結果がある。ギャンブル依存症により消費者金融、いわゆる高利のサラ金に手を出して生活がまわらなくなり、生活苦に陥り、生活保護を受ける世帯もある。

 カジノ誘致を検討している横浜市の場合では、生活保護世帯が約52,000世帯存在する。一世帯当たりのコストは約240万円。もしこれが仮に1%、520世帯が増えたとしよう。コストは約12億円強の増。5%になれば約63億円だ。横浜市が見込む経済効果はこの時点で相殺されるどころか、マイナスになる可能性もある。

 今回、この法案を通した国会議員の中にどれだけギャンブル依存症の人と深く関わったことのある人がいるだろうか。国や県と違い市民に一番近い存在である地方議員のもとには、他人に言えないありとあらゆる相談が持ち込まれる。ギャンブル依存症も然りだ。

 私はギャンブル依存症の母親を持つ子どもに頼まれて、その女性がもうこれ以上クレジットカードを利用できないよう信販会社協会に手続きを取ったこともある。息子に怒鳴られる年老いた母親は泣きながら謝るのだが、それでもまたギャンブルに出かけてしまうのだ。

 貧困の連鎖についてはここでは詳細は省くが、こういうしわ寄せは、社会の一番弱い立場の人のところに回ってくるのだということだけは強調しておきたい。税収が61億円入るからといって、ギャンブル依存症患者の輩出や暴力団などの関与リスクに目をつぶってよいということにはならないはずだ。

行政は何のための存在なのだろう

 そもそも民間が利益を追求するならば、行政は市民の幸せを追求すべき存在ではないか。そんな存在がカジノ事業者と手を組んで、市民を不幸にするような種を蒔いてよいものだろうか。横浜市民のみならず、私が市議会議員を務めている逗子市など近隣自治体の市民も大きく影響を受ける切実な社会問題になるだろう。逗子市は税収が増えないどころか生活保護者だけが増えるリスクを孕む。近隣自治体にとってはデメリットしかない。

 さらに外国資本でカジノが入ってきても、日本人の雇用創出につながるかは疑わしい。政府はカジノへの入場規制を強めるとしているが、アジアにはカジノが次々とできている中で外国人観光客をさほど見込むことができないとなれば餌食になるのは日本人だろう。仮に、外国人観光客だけしか入場できないようにしたとしても、筋のよい外国人観光客だけをターゲットにできる保証はどこにもないのだ。今回のカジノ法案の審議では提案者の議員が事業者からの献金を否定していなかったが、政治や行政、そして自治が利権で歪められるようなことは決してあってはならない。

 待機児童問題や女性の就労支援などの問題は未解決のまま、少子化による人口減少に歯止めがかからないからといって、外国人にギャンブルをしに来てもらってそのお金を税収にあてましょう、というのではあまりに万策尽きた感が否めないではないか。

 目的はあくまでもわが国の国際観光振興にあり、観光立国化だというならば、街並みを美しい景観に保つ、電線類を地下化し、乱開発から緑を守ること。歴史的建造物を保存し、文化の薫る美しい街並みをつくりだすこと。例えば、長野県山ノ内町の地獄谷野猿公苑には温泉に入る猿がいて、その可愛らしい姿はSNSで連日世界中に拡散され外国人観光客が引きも切らない。私も昨年訪れたが、つぶれかかった古い旅館がインバウンド向けにリノベーションされ、フランス人の家族連れが卓球をしたり温泉を楽しんだりしていた。

地獄谷野猿公苑の猿

地獄谷野猿公苑の猿

 他にも野沢温泉の道祖神祭りなど、日本全国には地域創生に地道に取り組み成果を上げ日本の良さを世界中に伝えている人達がいる。シンガポールのマリーナベイサンズもラスベガスもかつて訪れたことがあるが、シンガポールのきらびやかな高層ホテルの裏にはスラムとまではいかないが決して豊かではない公営住宅街があった。ラスベガスにいたってはカジノ施設の外を一歩出るとそこは砂漠なのだ。日本はまだ賭博以外にも取るべき道はある。

長島有里 逗子市議会議員

著者プロフィール
長島 有里(ながしま ゆり)
 [ホームページ]
神奈川県逗子市議会議員 1978年生まれ。立教大学法学部卒。横浜市立大学大学院都市社会文化研究科修了(学術修士)。2006年市議会議員に当選現在3期目。全国初のオールタブレット議会は『逗子市議会ICT推進部会』として第8回マニフェスト大賞「優秀ネット選挙・コミュニケーション戦略賞」を受賞。2014年児童養護施設の子どもたちの就学・就労支援を目的とするNPO法人KANATANを立ち上げ大学生の家庭教師派遣やキャリア教育に力を入れている。NPO法人KANATAN副理事長。2児の母。
長島 有里氏プロフィールページ

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