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和食からシェアリングエコノミーまで、インバウンドはアベノミクス希望の星 (2015/11/13 フリーライター 上村吉弘)

 訪日観光(インバウンド)客が予想を上回るペースで伸びています。日本観光局(JNTO)によると、9月までに1448万人を記録。東京五輪が開催される2020年を目標としていた年間2000万人が、今年にも達成可能な数字となりました。アベノミクス関連の数字では、デフレ脱却の指標となる消費者物価指数が上がらず、日銀は上昇率2%目標を来年度の前半から後半に先送りしました。一方で非正規雇用が4割台に乗せるなど、「デフレは脱却できず、実質賃金も上がらない」と一部で失政が囁かれてきましたが、インバウンドだけは明確に右肩上がりを続けています。

訪日外国人数の目標を3000万人引き上げへ

 安倍首相は9日の「観光ビジョン構想会議」の初会合で、「2000万人は通過点だ」と語り、目標値を3000万人に引き上げる議論を始めました。

(グラフ)訪日外国人の推移

訪日外国人の推移(出典:トラベルボイス)

 訪日外国人の増加要因について、JNTOはビザの大幅緩和や消費税免税制度拡充、円安進行による割安感などを指摘していますが、各省庁のPR活動も功を奏していると思われます。具体的には、国交省は2003年から「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を展開し、経産省は2010年から部局を設置している「クール・ジャパン」で日本文化を積極的に宣伝。農水省は和食の魅力を動画でPRするなど広報事業に力を入れています。

和食人気を示したミラノ万博・日本館の大成功

 今年5月から半年間にわたって開催されたイタリア・ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)では、農林水産省、経済産業省を幹事省、国土交通省を副幹事省、日本貿易振興機構(ジェトロ)を参加機関として日本館を出展し和食の魅力をPR。「行列嫌いなイタリア人を10時間並ばせた」と言われるほどの人気を博しました。参加した約140の国と国際機関のパビリオンの中で、「最高に素晴らしい」という評価を現地紙や現地農業団体などから受け、博覧会国際事務局(BIE)が主催する褒賞制度「パビリオンプライズ」も受賞しました。こうした評判が訪日外国人客の増加に寄与していると思われます。

インバウンドは生活環境も変えていく

 安倍首相は「観光は成長の重要なエンジンだ」と強調しています。これまで「実体がない」と言われてきたアベノミクス第3の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」や、第2ステージで掲げたGDP600兆円目標の切り札になろうとしています。人口減少が続く日本にとってインバウンドの増加は、消費減少社会を消費拡大に変えるだけでなく、岩盤規制を崩す構造改革をもたらすスイッチになります。

 実際に、最近のニュースで頻繁に登場する“民泊”や“ライドシェア”などのシェアリングエコノミー関連の話題は、外国人観光客の急増なしには国家戦略特区の主要テーマになり得たかどうかも疑問です。観光客の多くが要望する「無料の公衆無線LAN環境の整備」も今後、本格的なテーマになるとみられます。インバウンドが日本の生活インフラまで動かしつつあると言ってもいいのではないでしょうか。

 観光庁によると、2015年7-9月は訪日外国人の消費額が初めて四半期で1兆円を超え、通年では3兆円台半ばとなる見通しです。11月4日の経済財政諮問会議では、20年の訪日外国人の消費額を7-10兆円程度まで拡大する提言が民間議員から示されました。

今後、訪日外国人ツアーの増加が予想される旅行会社(イメージ写真)

今後、訪日外国人ツアーの増加が予想される旅行会社(イメージ写真)

フランスの観光客は日本の4倍、8000万人超

 観光客増にはまだまだ潜在力があります。世界一の国際観光客数を誇るフランスは年間8370万人で、日本の4倍以上です。ミラノ万博の日本館での人気ぶりを見る限り、目標を3000万人に留めるのはまだまだ控えめの数字ではないでしょうか。

 日本館のテーマだった和食の魅力は、訪日外国人の行動にも表れています。というのも、97%が訪日目的の一つに挙げているからです。農水省の推計では、2020年に「世界の食市場」は680兆円と2009年の2倍に跳ね上がる見込みで、訪日客のグルメツアーが盛んになれば、TPPで自由化競争にさらされる農業分野への力強いサポートになります。若手蔵元たちの努力で新たなブランド価値を生み出しつつある日本酒の人気ぶりは、和食や国産農業が進むべき方向性を示唆しているように思います。

中国経済減速や為替変動など不安も……

 一方で、先行きに不安がないわけではありません。訪日外国人の割合をみると、台湾・韓国・中国からの観光客が過半数を占めており、中国経済が今後大きく低迷すれば、東アジア全体の観光産業にも影響が及ぶ恐れがあります。また、円安の進行がここ数年の訪日外国人急増の一因になったと考えられるので、為替の行方も気になるところです。

 日本文化の特長を世界に発信し、「おもてなし」の心で歓待した結果、「多少割高でもリピーターになりたい」と思ってもらえるか否か。プライスレスな価値の提供こそが、安定的な日本ファンを獲得するための要となるでしょう。

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上村吉弘<著者>
上村 吉弘(うえむら よしひろ)
 フリーライター
1972年生まれ。読売新聞記者、国会議員公設秘書の経験を活かし、永田町の実態を伝えるとともに、政治への関心を高める活動を行っている。
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