わずか2年で廃止になった通年議会、その背景にあるものとは  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   わずか2年で廃止になった通年議会、その背景にあるものとは

わずか2年で廃止になった通年議会、その背景にあるものとは (2014/5/15 政治山)

関連ワード : 地方議会 本田正美 松島完 長崎 

2014年4月3日松島完長崎県議会議員による「全国初、通年議会の廃止へ」という緊急投稿があり、前編と後編にわたる文章で、長崎県議会における通年議会の廃止の顛末が記されました。この通年議会が廃止になった背景には何があるのか、東京大学大学院情報学環交流研究員の本田正美氏に伺いました。

<緊急寄稿>全国初、通年議会の廃止へ(前編)
<緊急寄稿>全国初、通年議会の廃止へ(後半)

長崎県議会のホームページ

長崎県議会のホームページ

通年議会は会期に縛られず審議ができる

――まず、通年議会について教えてください。

「通年議会について理解するには、地方議会の仕組みについて知っておく必要があります。まず、地方議会には、定例会と臨時会というものがあります。毎年決められた時に開かれるのが定例会、議会の審議が必要になった場合に臨時に開かれるのが臨時会です。一般的な地方議会では、首長が定例会を年4回招集し、閉会中や緊急で議会を招集する時間がない場合は、議会の決定・議決の前に首長が自ら決定します(専決処分)」

「そして、地方自治法第100条で、地方議会を開会するには、首長の招集手続が必要であると定められています。つまり、首長が議会を開こうとしない場合、議会が開かれないこともあるのです。ですから、1年を通して開催する通年議会にすることで、議会を活発化し、災害時などの緊急対応や、専決処分を減らすことができます」

――地方自治法の話が出てきましたが、通年議会は地方自治法に違反したりしないのでしょうか。

「違反ではありません。2012年4月から長崎県議会は自らの工夫により通年議会を実現しましたが、その後の2012年9月の地方自治法の一部改正によって、地方自治法第102条の2で、会期を通年とすることも認められました。さらに、条例で会期を通年と定めた場合、首長が招集しなくても、条例で定めた日が来れば議会が招集されたこととみなすとの改正もありました」

――ということは、それまでは各議会の工夫で通年議会を実現してきたということでしょうか。

「その通りです。全国で最初に通年議会を決定したのは、2008年6月から行っている北海道の白老町議会だとされています。地方自治法改正よりも前に通年議会を実現した議会は、多くの場合、議会基本条例を定めて、その中で会期を1年と定めるなどしてきました。地方自治法改正により、いわば、国が通年議会にお墨付きを与えたかたちです」

議会活動よりも地域活動で選挙に備えたい

――では、なぜ長崎県議会では通年議会を止めてしまうのでしょうか。

「松島完長崎県議会議員のコラムをご覧頂ければ、そこに詳しく顛末が書かれていますが、長崎県議会が全国の都道府県議会に先駆けて通年議会の導入を決定したということ、それ自体に今回の廃止の理由も隠されています」

――最初に始めたから最初に止めてしまうということでしょうか。

「結果として、そうなってしまいましたが、長崎県議会は議会改革の一環として通年議会を導入することにしました。首長の意向を気にせずに、常に議会を開催している状態にする。会期の長さに縛られることも減りますから、議会で十分な議論を行うことも可能になったのです。この議会改革の動きに逆行するのが今回の通年議会の廃止です。松島議員のコラムには怒りが込められていますが、それは議会改革に逆行する自民党会派への怒りです」

――通年議会の廃止は議会改革に逆行するということについて、もう少し詳しく解説をお願いします。

「以前から、『議会改革は票にならない』という声を耳にします。議会改革の主要な要素として通年議会のように、議会での議員の活動を充実させる取り組みが挙げられます。しかし、議会で熱心に議員としての活動をしても、議会への市民の関心が低ければ、その議員に対する評価につながりません。逆に、議会で熱心に活動するあまり、地域での活動が少しでもおろそかになると、『最近、あの議員は地域に顔を見せない』と言われ、評価を落とし、選挙で不利になることさえあるのです」

――議会活動よりも地域活動を優先する方が選挙に有利と考え、通年議会を廃止したということでしょうか。

「通年議会の廃止を主張する側の理由として、議会に拘束される時間が増えると、議員の地域活動の時間が制限されてしまうということが挙げられました。もちろん、地域の方の声に耳を傾けるのは議員として重要な活動ではありますが、多くの場合、地域活動の実態は選挙のための活動でしょう。次の選挙に向けて、支持者を集めたい。議会で熱心に活動するよりも、地域で次の選挙に備える活動をしたい。そう思う議員が過半数を越えてしまったため、長崎県議会では通年議会が廃止されたと言っていいと思います」

本田正美氏【取材協力】
東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美

1978年生まれ。東京大学法学部卒。2013年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院情報学環交流研究員。専門は、社会情報学・行政学。特に電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。共著本に『市民が主役の自治リノベーション』(ぎょうせい刊)がある。
関連記事
<緊急寄稿>全国初、通年議会の廃止へ(後半)(2013/4/4)長崎県議会議員 松島完
<緊急寄稿>全国初、通年議会の廃止へ(前編)(2014/4/3)長崎県議会議員 松島完
地方議会を知ろう
本田正美氏の記事
地域の独自色が出るポエム条例、全国でポエム化は拡がるのか!?(2014/4/18)
市民が議員を評価する(後編)「市民の私の評価はいかほどか」(2014/4/9)
市民が議員を評価する(前編)「私の議会の質問を評価してください」(2014/4/8)
みんな渡辺代表の8億円が政治資金だった場合に守るべき法律(2014/4/1)
関連ワード : 地方議会 本田正美 松島完 長崎