市民が議員を評価する(前編)「私の議会の質問を評価してください」 (2014/4/8 東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美)
日本評価学会春季第10回全国大会(2013年5月)において、「地方議員の活動評価実施時に求められる評価対象の峻別」が日本評価学会奨励賞を受賞した本田正美氏に、議員の評価に関して寄稿いただきました。今回は前編の「市民が議員を評価する『私の議会の質問を評価してください』」をお届けします。
きっかけは現職議員からの依頼
「私の議会での質問を外部の専門家として評価してくれませんか」
友人でもある村崎浩史(長崎県大村市議会議員)さんから依頼を受けたのは、2012年の3月頃だったと記憶している。私自身、2011年11月の日本評価学会第12回全国大会で「地方議会による活動の自己評価に関する事例研究」と題する研究発表を行うなど、地方議会や地方議員の活動に対する評価方法の開発を研究テーマのひとつとしていたが、現職議員から「自分自身を評価してほしい」と依頼される事態は想定していなかった。
最終的に評価をするのは市民の皆さん
当初の村崎さんの意向は、私が議会での質問を評価して報告書を提出し、それをWebサイト上で公開するというものだった。しかし、彼の議員としての活動に対して最終的に評価を下すべきは、外部の評価者ではなく、有権者である大村市民の皆さんである。そこで、私が事前に外部評価者として暫定評価を行い、その報告書も参考にしながら、市民を交えて村崎さんの議会質問を検証する会を開催することにした。
政治的スタンスの影響を排除するための評価軸
新たに評価軸を設定する上で参照したのは、大村市議会が制定していた議会基本条例の第9条である。その条文は、以下のようになっている。
議会は、議会審議を行うに当たっては、論点情報を形成し、その政策水準を高めるため、次に掲げる事項に着眼し政策議論を行うものとする。
(1)政策の発生源
(2)提案に至るまでの経緯
(3)他の自治体の類似する政策との比較検討
(4)市民参加の実施の有無とその内容
(5)総合計画との整合性
(6)財源措置及び将来にわたるコスト計算
(7)政策の効果
市民団体などが議員の議会での活動を評価するという事例も存在している。しかし、それらの評価では、どうしても評価者の政治的なスタンスなどが評価に影響を及ぼし、特定の会派や議員を批判するために評価という手法を用いているように見えてしまうことがある。あるいは、客観的な評価にこだわるあまり、議会での質問の回数など、単純に数値化できる事柄の比較に重きが置かれ、果ては議会における議員の居眠りの回数などを調べるということまでされている。そのような評価では、議員活動の質の向上や地方自治の深化につながっていかないだろうと考え、村崎さんの議会での質問を評価するにあたっては、事後に他の第三者が同様の評価を改めて行うことも可能となるように、彼の所属する大村市議会が定めていた条例に根拠を求めることにしたのである。
会議録と録画映像を見て暫定評価報告書を策定
実際の作業としては、村崎さんが2012年6月定例会と9月定例会の本会議で行った一般質問について、公開されている会議録と録画映像を見ながら、大村市議会基本条例第9条に掲げられた各点に照らし合わせて、どの点が言及され、どの点が言及されていないのか確認するということを行った。外部評価者は、議員が行った質問について、その過不足を明確にする。これが評価過程の第一歩であり、この外部評価者による暫定評価に基づき、市民の方が議員の議会での質問の良し悪しを評価するというのが評価の最終段階となる。
実際に市民に最終評価をしていただく
そうして、2012年11月に第1回議会質問検証会を開催することになった。このときは、村崎さんが経営している学習塾の教室を使用しての開催であり、参加者は10人弱であった。熊本県人吉市議会議員など県外からの参加者もあって、必ずしも大村市の市民のみによる最終評価というかたちにはならなかったが、村崎さんが議会での質問の趣旨を説明し、その質問に対して私から暫定評価を示した上で、参加者との意見交換を行うことができた。そして、最後にアンケートに記入をお願いするというかたちで、「最終評価」を行ってもらった。この議会質問検証会の実施については、この政治山に村崎さんがコラムを寄せた際にも言及されているので、そちらを参考にしてほしい(参照:「議会不信からの巻き返し──『チーム大村市議会』の着実な歩み」2012/12/19)。
(後編「市民の私の評価はいかほどか」へつづく)
- 東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美
1978年生まれ。東京大学法学部卒。2013年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院情報学環交流研究員。専門は、社会情報学・行政学。特に電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。共著本に『市民が主役の自治リノベーション』(ぎょうせい刊)がある。
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