第80回 <緊急寄稿>全国初、通年議会の廃止へ(後編)  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第80回 <緊急寄稿>全国初、通年議会の廃止へ(後編) (2014/4/4 長崎県議会議員 松島完氏/LM推進地議連会員)

関連ワード : 条例 松島完 長崎 

政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。

議論を重ねて導入されたはずの「通年議会」でしたが、くすぶる火種は数回の補選を経て表面化しました。立場が逆転した会派同士の対立の結果、「通年議会」は導入から2年で廃止されることになりました。
〈緊急寄稿〉長崎県議会議員の松島完氏による「全国初、通年議会の廃止へ」の後編です。

前編はこちら ⇒ 第80回 <緊急寄稿>全国初、通年議会の廃止へ(前編)

◇          ◇          ◇

自民党が主張した通年議会の廃止理由(4)

「審査日数の大幅な増加ではなく、議論の質が問われるべき」

 質が問われるのは、誰しも賛同するであろう。しかし、質は量を経ないと高まらないのではないだろうか。また、議論の質については、まず自己変革をすべきであると考える。例えば、議会の質問原稿は自分で書く、委員長報告も自分で書く、まさか職員に書かせるなどゴーストライターに頼っていないか。全聾(ろう)の作曲家として有名であった方が、ゴーストライターに曲を書かせていたとして話題になったが、ウソや偽りは、即刻やめなければならない。職員に質問原稿を書かせるのは、議会審議が自作自演となり、八百長となる。言語道断である。他人や他会派の批判の前に、全議員が自分を見つめるべきである。それが議論の質を高める一番の近道である。

 さらに、議会での質問方法には、一括質問方式と一問一答方式があるが、明らかに一問一答方式の方が聞き手に易しく分かりやすい。しかし、「議論の質が問われるべき」と主張されている自民党会派の方々が、一括質問方式をとられていて、これは堂々たる自己矛盾である。議会基本条例にも、分かりやすい質問の手法をとるよう記載している(表4参照)。

<表4:議会基本条例の抜粋>

(質問等の充実)
第12条 議会は、議場における質疑及び質問を行うに当たり、一問一答方式等により県民にわかりやすく実施するものとする。

 補足だが、通年議会の制度の中で、委員会の審査日数を減らすことは可能である。通年議会を審査日数の大幅増と同義ととるのは間違いである。通年議会の導入とともに、委員会の審査日数の大幅増や一般質問の回数増などの改革を実施したため、通年議会についての誤解を生んだと思われる。

 通年議会とは、議会をいつでも開けるようにして、県民の方々の声を即座に、そして多く届けられるようにし、県政に反映させるというものである。現在は、議会側に議会を開く主導権がなく、首長(知事)側に主導権がある。行政の本質は権力であり、この権力に対して、議会がしっかりと監視をしないといけない。また政策提言をし、より民意を反映させなければならない。議会が本来の役割を果たすためにも、議会側が議会を開く主導権を持つべきであり、通年議会によってそれが可能となるのである。

自民党が主張した通年議会の廃止理由(5)

「議会側が求めた臨時会の招集について、知事が拒否した事例はない」
(通年議会ではなく、臨時会招集で対応可能とするもの)

 知事が拒否した事例はないということは、これまでもこれからも、そうあるべきである。では、今後このことを制度として担保し、もっとスムーズにするにはどうするべきか。答えは自明である。通年議会を導入すればいいのである。もっと言えば、通年議会にすれば、即座に民意を反映できる。県民の方々の利益を守るためには、今後強引な知事の出現も想定しておくべきである。鹿児島県の阿久根市では実際に、議会を開かず専決処分を乱発した首長が出てきたのである。

自民党が主張した通年議会の廃止理由(6)

「専決処分について乱発された状況はなく、むしろ専決処分がなくなれば、自然災害等に対応すべき事態が起きた時、議会対応を優先するあまり現場対応が後回しになり、県民の利益を損なう可能性がある」
(通年議会にすれば専決処分ができなくなるので、通年議会を導入すべきではないとするもの)

 失礼な言い方かもしれないが、議会人の発言というより、理事者側のへ理屈のような意見に感じる。県議会は、県民の方々の代表者で構成されていることを失念していると思われる。

lm20140404_03 分かりやすい事例がある。栃木県議会は、会期以外でも迅速に予算審議ができるよう通年議会を導入した(2012年3月23日可決、4月16日より会期開始)。なぜなら、東日本大震災での反省があったからである。実際に栃木県の議会事務局に問い合わせ説明をいただいた。それによると、東日本大震災の対応で10回に及ぶ補正予算を組んだが、うち3回は知事の専決処分が実施され、トータルで約13億円の専決処分が行われた結果になった。このことに対して、議会側が、予算審議ができず議会の監視が機能しなかったことを反省したのである。つまり、議会側に“気づき”が生まれたのである。議会を経ない専決処分には、民意の反映ができないことに気づいたのである。

 民意を反映させることが第一義である。それが、議会の役割である。民意(議会)を経ない専決処分は極力回避すべきである。通年議会にして、有事の際にすぐに議会を開くことによってこそ、県民の方々の利益に沿った予算執行が可能となる。

 補足として、冒頭のへ理屈のような意見に答えるならば、議会を開いていたら県民の命が脅かされると判断するときは、地方自治法第179条に基づく専決処分を行うことも、たとえ通年議会であっても、可能であると考える。

結び

 どんなに相手が巨大な組織であっても、間違っていることは間違っていると、はっきり言わなければならない。極力、私情の悔しさを挟まず、書きつづろうとしたが、間違っていることは間違っていると言わなければならない。

 通年議会の廃止は、議会人の議会人による歴史的オウンゴールである。相手ゴールではなく、自分のゴールへ得点を決め喜んでいる議会人を見て、その矛盾と自己否定に気づかないことが大きな問題である。

 国の追い風をバックに数の力を得て、通年議会の廃止の次は、何を廃止してくるであろうか。つい先日(2014年3月上旬時点)は、条例制定検討協議会と広聴広報協議会の廃止を自民党会派は提案された。また、議会改革の特別委員会も廃止し、委員会の審査日数も減らす(元に戻す)案と一般質問の回数も減らす(元に戻す)案が提出された(追記だが、2014年3月末に自民党案がすべて可決された)。連立会派が主導した議会改革をすべてゼロに戻すという姿勢のようである。やはり、連立会派の議会改革が強引であったのだろうか。謙虚さが足りなかったのだろうかと自問をする。

 しかし、議会改革とは利益誘導ではなく自らを律する取り組みであり、どの党であれ、どの会派であれ、県民目線に立てば全会一致で必要なことである。議会改革より政局を優先することは、さらなる政治不信を生む。全国5位の議会改革が泣いている。『日経グローカル』(日本経済新聞社、産業地域研究所による発行)2012年11月5月号で発表された全国の議会改革度で、長崎県は全国5位にランクインしたのである。議会改革後進県の圏外からのランクインに特集記事も組まれていた。やっとここから成果を生み出す土台ができたばっかりであった。

 県民の皆様に分かりやすく伝わるようにと、大ナタをふるった県議会だより(新聞)の改革もナシにされるのだろうか。時間をかけて積み上げた議会報告会の開催もナシにされそうである。委員会のインターネット中継もナシにし、また密室政治に戻るのだろうか。県議会フェイスブックのテスト配信でさえ難色を示された時は、何という隠ぺい体質なのだろうかと思った。隠すからこそ、不信が生まれる。

 総務省主催の地方議会シンポジウムに参加した折、約300人の地方議員を前に、東京大学の牧原出教授は以下のように発言された。「首長と議論を重ねて一致点を見出していくには、会期を気にしない通年議会が必要だ」と。また、同じ場所で駒澤大学の大山礼子教授は、「行政をしっかり監視していく上でも通年議会は大事だ」と述べられた。

 長崎県議会には議会の憲法とも言うべき「議会基本条例」がある。この条例は最高規範とされており、つまり最も大事であるということを意味する(表5参照)。この最も大事な条例が自民党会派に無視され続けている。通年議会の廃止はこのことが無視されたものと言える(表6参照)。議会基本条例に基づいてつくられた広聴広報協議会も廃止されるとなれば、さらにこの最も大事な条例が無視されていくことになる。議会報告会の開催をせず、また、多様な媒体による情報発信もやめるのであれば、全会一致で可決した議会基本条例は一体何なのであろうか(表7参照)。

<表5:議会基本条例の抜粋>

(最高規範性)
第25条 この条例は、議会における最高規範として議会に関する基本的な事項を定めるものであり、議会に関する他の条例等を制定又は改廃するときは、この条例の趣旨を十分に尊重しなければならない。

<表6:議会基本条例の抜粋>

(議会の会期)
第16条 議会は、県政の課題に的確かつ柔軟に対応するため、年間を通じて適切に本会議を開くことができるよう、会期を定めるものとする。

<表7:議会基本条例の抜粋>

(広聴広報機能の充実)
第8条 議会は、多様な媒体を活用し、県民の意向把握及び県民への情報発信に努めるものとする。
2 議会は、広聴広報に係る機能の充実を図るため、広聴広報に関する委員会を設置することができる。
3 議会は、県民に対し、その役割と活動をわかりやすく全世代に伝えるよう努めるものとする。
4 議会は、議会報告会、特定の課題に関する移動委員会等を活用し、県民に身近に感じられるよう努めるものとする。

 今から1年半近く前の2012年12月に、この政治山ホームページのコラム(「地域政党・長崎ちゃんぽん党!?」)で、私は以下のように書いている。「確実に言えることは、長崎県議会で自民党一党支配があのまま続いていたならば、議会基本条例も通年議会も広聴広報の改革も生まれていない。自民党の良し悪しや議員個人の良し悪しではなく、やはり改革とは内部から生まれにくいのではないか。談合政治から脱却した長崎県議会は、次のステージへ進まねばならない。真価が問われるのはこれからである。」

 今後は最大会派である自民党主導によって県政の舵がとられるわけだが、どのような議会改革を実施していくのかを注視しなければならない。「継続的に議会改革に取り組むものとする」と、議会基本条例には明記されている(表8参照)。このことまでも無視することは許されない。無視するなら、議会基本条例をなくす提案をすべきである。議会基本条例が泣いている。最高規範が泣いている。

<表8:議会基本条例の抜粋>

(議会改革の推進)
第22条 議会は、地方分権・地域主権の時代にふさわしい役割を担うため、継続的に議会改革に取り組むものとする。
2 議会は、継続的に議会改革に取り組むため、議会改革に関する委員会を設置することができる。

長崎県議会議員 松島完氏

長崎県議会議員 松島完氏

 権力争い、やられたらやり返す、倍返しだと言われるのかもしれない、それも政治であろう。しかし、大事なことは、目の前の政敵ではなく地域衰退という大きな敵を直視しなければならないということである。大事なことを見失ってはならない。

 今一度、議会の最高規範である議会基本条例に立ち返るべきである。誰のための議会か?党のためではない。誰のための議会か?自分の選挙区のみのためではない。議会基本条例第1条には、県民の幸福へ寄与することを目的とすると書かれている*2。第4条には、県民全体の幸福を目指して活動することと書かれている*3。誰のための議会か?県民の皆様のための議会である。今こそ、この問いを。

*2 議会基本条例 第1条 この条例は、長崎県議会(以下「議会」という。)における最高規範として、議会及び長崎県議会議員(以下「議員」という。)の役割等を明らかにするとともに、県民と議会との関係、議会と知事その他の執行機関(以下「知事等」という。)との関係その他の議会に関する基本的事項を定めることにより、県民の負託にこたえ、身近で信頼できる議会を確立し、もって県民の幸福へ寄与することを目的とする。(傍線は筆者)

*3 議会基本条例 第4条
(2)議員は、個別的な事案の解決に努めるのみならず、県民全体の幸福を目指して活動すること。(傍線は筆者)

松島 完(まつしま かん):1979年長崎県南島原市生まれ。明治大学(政経学部)卒、英国ブラッドフォード大学大学院(公共政策専攻)留学、早稲田大学大学院(公共経営研究科)修了。27歳で長崎県議会議員に初当選。現在、2期目。無所属。第6回マニフェスト大賞優秀コミュニケーション賞受賞。著書『経済成長から社会再生の時代へ―長崎県へ”人と人とのつながり(ソーシャル・キャピタル)を豊かにする政策”の提言―』文芸社(2010)。
HP:長崎県議会議員 松島かん オフィシャルウェブサイト
Facebook:kan.matsushima
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