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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第90回 「地方創生」の本丸は「人材」「組織」~早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すもの(1) (2019/10/31 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : 人材育成 公務員 地方創生 

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第90回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

2017年度人マネ参加者集合写真

2017年度人マネ参加者集合写真

「地方創生」の本丸は、「人材」「組織」

 筆者が幹事を務める早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(以下:部会)は、地域の可能性を発見し、従来の枠にとらわれない発想でそれらを強力に活かしていく「地方創生」時代の自治体職員や組織を創ることをミッションとしている。

 我々の考える「人材マネジメント」とは、「人の持ち味を見つけ出し、それを活かし、到達したいゴールに導くこと」。2006年に17団体からスタートした部会だが、2019年度の参加自治体は98団体(延べ参加自治体175自治体)。プログラムの修了生(「マネ友」)は1700人を超えている。

 部会は、「研修」の場ではなく、「研究」の場である。参加者自身の学びはもちろん重要だが、それだけではなく、所属自治体が抱える現実の課題を見極め、どう対応していくか実践的に研究していく。職員の努力を、地域の成果へとつなげられる自治体組織をどのように実現するか(「組織課題」)。「生活者起点(住民目線とは違い、生活者の立ち位置から考えること)」で発想し、関係者と共に未来を創っていける職員をどう育てるか(「人材課題」)。この2つが、部会の大きな研究テーマである。

 また部会では、「立ち位置を変える(生活者起点で物事を考える)」「価値前提で考える(ありたい姿から今を考える)」「一人称で捉え語る(自分事に引き寄せて考える)」「ドミナント・ロジックを転換する(誤った思い込みを捨てる)」の4つのキーワードを大切にしている。そして、参加者自らが行動変容を起こし、組織、地域を変えるために一歩前に踏み出すことを期待している。

 計5回の研究会や夏の組織変革に向けたシナリオ作成の課題に取り組むことを通して、単なる知識の記憶ではなく、自らで考え語り合い、実践の試行錯誤を繰り返し、それを仲間と振り返る中から、現状を変革する具体な策を見つけていく。

 「地方創生」を実現するには、自治体の「人材」と「組織」が鍵になる。今回から複数回にわたり、早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すものや、その価値観等について紹介していく。

2019年度の第3回研究会の様子

2019年度の第3回研究会の様子

「技術的な問題」と「適応を必要とする問題」

 今、我々は誰も正解が分からない時代を生きている。ICTの進展で、以前に比べ情報量が圧倒的に増え、変化のスピードが加速している。AI、IOT、ロボット、ドローン等の科学技術の進化も日進月歩である。不確実なことが多く未来を予測することが難しい。また、社会の複雑性が増大している。影響関係の複雑性が増し、簡単に因果関係を特定することができなくなっている。万能の打ち手などはなく、いかなる打ち手にもトレードオフがつきまとう。社会の多様性も高まっている。見解の相違や利害対立も多い。価値観、考え方の違う人が理解し合い、共に社会を創るにはどうするか。実践のトライアンドエラーを積み重ねていくしか答えにはたどり着けない。

 そんな中、行政の良くある課題への対応の仕方は、これまでやってきたことをもっとやる。トップや担当者の思い付きで新しいプロジェクトを始める。どこかの自治体で上手くいったような事例をまねる。その結果、現場は仕事だけが増え、多忙感が蔓延し、残念ながら上手くいかずに終わっているケースが多い。そろそろ我々は、正解を当てる、教えてもらうという思考から脱却しなければならない。

 アインシュタインの格言で、「今日我々が直面する重要な問題は、その問題を作った時と同じ思考レベルでは解決できない」というものがある。正解を探し、直ぐに何か解決策に飛びつくのではなく、一歩引いて、じっくり戦略的に考える必要がある。

 ハーバードケネディースクールのロナルドハイフェッツ教授は、著書「最前線のリーダーシップ」の中で、組織や社会が抱える問題を、「技術的な問題」と「適応を必要とする問題」の二つに分類している。「技術的な問題」は、既存の知識を適用することで解決することができるもの。そして、誰か上に立つ人、権威ある人が解決するもの。

 一方、「適応を必要とする問題」は、その道の権威でも専門家でも、既存の手段では解決できないもの。組織や地域社会の至る所で、実験的な取り組み、新たな発見、そしてそれに基づく行動の修正が必要なものだと。解決の担い手は、問題を抱える人たち自身で、価値観、考え方、日々の行動を見直さなければならず、解決の難易度は高い。先行きが不透明な今、「適応を必要とする問題」が地域には山積している。

 自治体組織の中にも適応を必要とする問題はたくさんある。ある自治体の管理職研修で、職場の課題を上げてもらったところ、時間外勤務の削減、効果的、効率的な仕事のあり方、課や係を超えての連携方法、部下の育成の仕方、相談しやすい職場環境作り、再任用職員のマネジメント、臨時職員や非常勤職員への対応、市民のクレームへの対処法、等があがった。これらすべて、適応を必要とする問題である。

東北会場での研究会の様子

東北会場での研究会の様子

人や組織はなぜ変われないのか

 価値観、考え方、日々の行動を見直す、と言うのは簡単だが、実践するのは難儀である。アメリカのアーノルド・ミンデルが創始した、個人やグループ、組織の変容を促す「プロセス志向心理学(プロセスワーク)」の中に、「エッジ」という概念がある。その人の慣れ親しんだ感覚に近い体験、よく知っている体験の領域、自分が知っている自分(「1次プロセス」)と、その人が不慣れな感覚に近い体験、未知の体験の領域、自分が知らない自分(「2次プロセス」)とを分断している境界がエッジである。エッジは切り立つ崖のようなものである。エッジには、これまでの人生経験から学んだ価値観や信念、思い込み、囚われが大きく影響している。

 人が変わるには時間が必要だ。そもそも、人は変化に抵抗するのではなく、変えられることに抵抗する。また、変われない人には変われない理由がある。何か大切なものを失う恐れ。誤解や信頼の欠如。変革の必要性やそのメリットに対する考え方の違い。変革に対する個人の耐性の低さ。様々である。

 組織にもエッジがある。善かれ悪しかれその組織が持つ組織文化といったものが1次プロセスであり、その組織のメンバーが抵抗を感じる思考、行動パターンが2次プロセスである。この間にも高いエッジが存在する。どうしても、現状の居心地の良さを享受し続け手放したくないと思い、また変化に伴う痛みを怖れてしまう。

 エッジを越えるには、2つの方法が考えられる。一つは、エッジの手前、既知の状態、慣れ親しんだ状況に留まることによる個人、組織の損失を深く感じ、気付くことである。もう一つは、エッジを越えた先、未知のものを明確に意識し、その可能性を信じワクワクするような未来を描くことである。部会でも、組織の現状を探求すること、組織と地域のありたい姿をはっきりと描くことをプログラムの核に位置付けている。

東北会場の参加自治体と対話する筆者

東北会場の参加自治体と対話する筆者

「組織開発」と「対話」

 最近、職場や組織を良くしていきたいと思う人たちの間で、「組織開発」という言葉が注目されている。「組織開発」の定義には様々あるが、立教大学経営学部の中原淳教授は、「組織を機能させるための、内外からの働きかけ」としている。

 多くの自治体の現場では、内外の環境変化に伴い、絶対的な業務量が増え、職員は疲弊し、組織に「やらされ感」が蔓延している。正に組織が機能していない状態だ。また、組織コンサルタントの加藤雅則さんは、「経営トップから現場職員に至るまで、対話を重ねていき、自分たちの見方や前提を見直し探求することで、一人一人の行動や考え方が変わること」とより具体的に定義している。部会でも、組織内での「対話」を重視している。

 「対話」というと、じっくり話し合うことと思われることが多いが、より深い意味がある。「対話(ダイアローグ)」とは、「意味付け」を確認し、「新しい関係性」を構築するプロセスである。この考え方は、哲学の「社会構成主義」に基づく。

 「社会構成主義」の前提は、物事の意味とは客観的な事実ではなく、社会的な構成物であるということ。つまり、人々は客観的な事実ではなく、それぞれが客観的な事実への「意味付け」を通して世界を理解している。それぞれの「意味付け」が違うと、同じものを見ていても見え方が違い、誤解や混乱が生じてしまう。相互に理解するためには、物事を一緒に意味づけるプロセスである「対話」が重要になる。

 「対話」は、共感的な聴き方で違いに耳を傾け、意見の多様性を受け入れ、内省を通して思い込みを手放し、新しい意味付けを発見し、新しい関係を創り出す営みである。組織や職場の問題も、メンバーの「対話」により共通の意味付けがされなければ、問題として提起されず、改善への取り組みはスタートしない。また、「対話」を通したメンバーの関わりが増えなければ、組織にポジテイブな変化は起きない。
(次回に続く)

組織変革のシナリオに関する幹事との意見交換の様子

組織変革のシナリオに関する幹事との意見交換の様子

 

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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