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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第87回 「議会改革サイクル」を回し「(改革)したふり議会」を卒業する (2019/7/30 早大マニフェスト研究所)

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第87回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

「議会改革サイクル」を回す議会を目指して

 議会改革は今、第2ステージに入っている(第86回「チーム議会で成熟した議会を目指す」)。「議会基本条例(以下、基本条例)」を制定した議会も800を超え、議会改革の「形式要件」は整ってきた。新しいステージでは、地域課題を解決する議会、住民福祉の向上に貢献する議会となり、「実質要件」を満たす取り組みが求められている。

 「議会改革第2ステージ」では、回さなければならないサイクルが2つある。一つは「政策サイクル」(第76回「議員間討議で政策サイクルを回す 1」 第77回「議員間討議で政策サイクルを回す 2」)である。執行部の監視の役割だけではなく、市民の声を起点に政策を考え、提言する議会になることだ。

六戸町議会の全員協議会での評価の様子

六戸町議会の全員協議会での評価の様子

 もう一つが「議会改革サイクル」である。基本条例は議会、議員のありたい姿とその実現のための具体的な議会の組織、運営方法を定めたものであり、「議会のマニフェスト」である。市民との約束であるマニフェストが守られているかどうか、評価、検証する必要がある。これまでの議会改革の取り組みを振り返り、行動計画を立てて、ありたい議会の姿に近づいていく。それが、「議会改革サイクル」だ。

 今回は、議会改革の実効性を高めるために不可欠な、「議会改革サイクル」について考えてみたい。

危惧される「したふり議会」

 基本条例を制定した議会が増えているが、筆者が危惧しているのが、基本条例を制定したことで満足し、改革は終わったつもりになっている「したふり議会」が増えていることである。筆者は、研修、講演等で全国の議会にお邪魔する機会が多いが、訪問した議会が「したふり議会」なのか見分ける方法として、「議会図書室」を見せてもらうことにしている。なぜなら、基本条例に議会図書室の充実を謳っている議会がほとんどだが、図書室が物置や応接室として使われ、図書費の割り当てもほとんど無い議会が多いからである。

「したふり議会」の議会図書室_

「したふり議会」の議会図書室

 そんな中、筆者がアドバイザーを務める宮城県柴田町議会のように、毎年13万円の図書費を確保し、基本条例に書かれた議会図書室の充実の約束を守ろうとしている議会もある。議会図書室以外でも、基本条例の条文通りの議会運営が行われていない議会は多い。条文に書かれているが、議員間討議が一切行われていない議会、政策提言の議論もされていない議会等々である。

 「したふり議会」にならないためには、本来、基本条例に評価、検証の具体的な規定が盛り込まれているべきである(第29回「評価と検証が議会基本条例の実効性を担保する」)。柴田町の基本条例にも、「議会は、この条例の制定後も、常に町民の意見、社会情勢の変化等を勘案し、2年ごとに条例の目的が達成されているかを議会運営委員会において検証する」と書かれている。そしてこの条文に基づき、「議会改革サイクル」を回している。しかし、柴田町議会のように見直し手続きが明確な議会は少数派で、「市民の意見、社会情勢の変化などを勘案、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、所要の措置を講ずる」と言った曖昧な見直し手続きの文言が書かれている基本条例が多い。

柴田町の議会図書室

柴田町の議会図書室

 早稲田大学マニフェスト研究所の「議会改革度ランキング2018」によると、基本条例の検証状況について、自己評価を実施している議会が258議会(毎年実施81議会、2年に一度実施40議会、4年に一度実施137議会)、実施していない議会が599議会と、評価を実施していない議会が圧倒的に多い。また、議会改革に関する実行計画を作成している議会は、105議会と少数だ。

六戸町議会の「議会改革サイクル」の取り組み

 筆者が制定にも関わった青森県六戸町議会の基本条例には、「議会は、この条例が社会情勢の変化及び町民の声に対応しているかどうかを議会運営委員会において、2年ごとに検証するものとする」と謳われている。この条文に基づき、六戸町議会では、基本条例の条文ごとに議会運営の評価を行っている。その流れは以下の通りである。

六戸町議会での研修会の様子

六戸町議会での研修会の様子

議員研修会開催
筆者が講師となり、基本条例の評価、検証の意義とやり方に関する研修会を開催。期日を決めて、基本条例の条文ごとに5段階(5:目的が十分達成されている 4:目的がかなり達成されている 3:目的がそこそこ達成されている 2:目的があまり達成されていない 1:目的が達成されていない)で、個人の自己評価を行う。
個人評価のとりまとめ
議会事務局で、個人の自己評価を全員分、機械的に取りまとめて集計。
議会としての自己評価の確定
全員協議会に報告された個人評価の集計をもとに、議会としての自己評価を議員間討議により確定。安易に平均点の四捨五入にならないようにしっかり議論をする。
行動計画の作成
自己評価をもとに、課題を抽出し、残任期2年間の行動計画を作成。今回は、議員間討議の試行や、政策提言を行う議会を目指すことに。
議会改革振り返りのワークショップ
筆者がファシリテーターとなり、ワールドカフェにより、これまでの議会改革の振り返り(上手くできていること、上手くできていないこと、これから挑戦したいこと)を行い、思いを共有。
情報公開
評価、検証の結果を「ギカイの通信簿」として、議会だより、HPで町民に積極的に公開。
六戸町議会の「ギカイの通信簿」

六戸町議会の「ギカイの通信簿」

 今回実施した評価、検証の成果の一つとして、2の評価になった、9条「一般質問に対する町の回答について経過等を検証する」について、その後早速全員協議会で話し合われ、10項目について町側から回答を求めることとした。「議会改革サイクル」により、議会機能が強化されたこととなる。

 なお、同様なやり方で基本条例の条文ごとに議会運営の評価を行った青森県八戸市議会では、個人評価のとりまとめの部分でタブレット端末を活用し、入力と集計の効率化を図っている。

「負けを認め」進化発展する議会へ

 「議会改革サイクル」として、今回は基本条例の条文ごとに議会運営を評価する方法について紹介した。それ以外にも、岩手県滝沢市議会では、「市民参加度」「課題解決能力」「意思決定能力」「透明性」の4つの独自の指標に基づき、5段階で議会改革の評価を行っている。滋賀県大津市議会では、任期中の議会運営の目標とその実現のための行程表として「ミッションロードマップ」を作成し、毎年進捗状況を評価、検証している。

 また今後、「政策サイクル」に挑戦する議会が増えてくれば、提言した政策のアウトプットや、その政策の効果等のアウトカムの評価も必要になるだろう。手法は様々だが、大事なのは、「PDCA」を回し、より良いものにしていこうとする営みである。

六戸町議会の議会改革振り返りのワールドカフェ

六戸町議会の議会改革振り返りのワールドカフェ

 基本条例の条文ごとの評価は手法としては難しくない。評価、検証する上で、一番大事なのは、「負けを認める」謙虚な姿勢である。評価を通して、基本条例に書かれたありたい姿と現状とのギャップに気付き、そのギャップを良い意味で改革の力にする。「議会改革第2ステージ」、地域課題を解決する議会、住民福祉の向上に貢献する議会になるには、「議会改革サイクル」を回し、「負けを認め」進化発展する議会になることが求められている。

 

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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