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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第29回 評価と検証が「議会基本条例」の実効性を担保する~北海道福島町議会の「議会・議員評価」などの取り組みから~ (2015/3/19 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第29回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「評価と検証が「議会基本条例」の実効性を担保する~北海道福島町議会の『議会・議員評価』などの取り組みから~」をお届けします。

(写真)福島町議会の議場の様子

福島町議会の議場の様子

「したふり議会」にならないために

 「市民と議員の条例作り交流会議」の調べによると、「議会基本条例」の制定状況は、2014年9月現在、571議会、全国の約3割の議会が制定したことになります。新技術、新流行は、普及率16%超えると急激に拡がっていくというマーケテイングの「キャズム理論」からも、この流れは止められないと思います。

 こうした中、今、全国の議会は、大きく4つに分類できると思います。うちはできている、議会改革なんて必要ないという「居眠り議会」。改革の必要性に気付き、議会基本条例を制定しようと動き出した「目覚めた議会」。「議会基本条例」を制定したことで満足して、議会改革は終わったつもりになっている「(改革)したふり議会」。そして、まだ少数ですが、議会基本条例の実効性を高めるために不断の努力をして、住民福祉の向上といった成果を出そうとしている「真の改革議会」の4種類です。

 「議会基本条例」を制定した議会が増えるに従い、危惧(ぐ)しているのが、「したふり議会」の増加です。条例に、議会図書室の充実をうたっているのに、図書室が物置状態になっている議会。改選後速やかに研修を実施することが決められているのに、半年以上たっても実施されていない議会。全国にそんな「したふり議会」が増えています。

 今回は、「議会基本条例」の実効性を担保するために必要な議会改革の評価と、条例の検証、見直しの仕組みに関して、北海道福島町で行われている「議会・議員評価」の取り組み、「議会基本条例見直しによる行動計画書」を事例に考えたいと思います。

議会基本条例に規定されている評価、検証の項目

 岩手県久慈市議会の議会基本条例には、「議会は、この条例の目的が達成されているかどうか不断に検証する」という条文があり、それに基づき、議会改革推進会議で早稲田大学マニフェスト研究所(以下早大マニ研)の「議会改革PDCAシート」を活用して改革の評価に挑戦しています。岩手県滝沢市議会の議会基本条例には、「議会は議会評価を1年毎に行い、評価の結果を市民に公開する」「それを行う場合は、市民も参加できるよう努めるものとする」といった、少し踏み込んだ内容になっています。それに基づき滝沢市議会では、現在、その制度設計の議論をスタートさせています。

 実は、こうした評価、検証の具体的な規定が盛り込まれた「議会基本条例」は少数派で、多くの「議会基本条例」では、「市民の意見、社会情勢の変化などを勘案、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、所要の措置を講ずる」といった曖昧な見直し手続きの文言が書かれているものが多いです。

 福島町議会の「議会基本条例」では、「議会は、町民に議会・議員の活動内容を周知し、情報を共有することにより、議会活動の活性化を図るため、しつかりと現状を把握し議会の基礎的な資料・情報、議会・議員の評価等を1年毎に調製し、議会白書として町民に公表する」「議会は、一般選挙を経た任期開始後、速やかに、この条例の目的が達成されているかどうか検討する」となっています。毎年の議会・議員の評価とそれをまとめた「議会白書」の発行を義務付けているほか、条例の見直しのルールも明確にしています。

(写真)福島町議会の「議会白書」

福島町議会の「議会白書」

福島町議会の「議会・議員評価」

 福島町議会では、2009年に「議会基本条例」を制定していますが、それ以前の2005年から、議会と議員の2本立てで評価を実施しています。4年に一度の選挙だけではなく、真の町民代表として資質向上と責務を果たすためといった高い理想のもと、果敢に評価手法の開発を行ってきました。

 議会評価は、(1)議会の活性度(2)議会の公開度(3)議会の報告度(4)住民の参加度(5)議会の民主度(6)議会の監視度(7)議会の専門度(8)事務局の充実度(9)適正な議会機能(10)研修活動の充実強化と、議会活動を主要10項目に整理し、それを細分化した36項目に分けて、評価しています。

 評価の分類は、「○=概ね一定の水準にある」「△=一部水準に達成していない」「▲=取り組みが必要」の3段階となっています。評価は、議会運営委員会で行われ、その結果をもとに、条例に基づき設置されている付属機関である「議会基本条例諮問会議(公募2人、議員推薦2人、学識経験者1人)」から意見をもらうことになっています。

 議員評価は、議員個人の公約への自己評価になっています(ただし全議員が自己評価を行っているわけではありません)。選挙の際の公約(マニフェスト)、選挙公報を起点に、(1)行政(2)財政(3)経済(4)福祉(5)教育(6)その他、といった6分野に合わせて毎年独自に項目を設定して、「取り組み」と「結果」を評価しています。評価の分類は、「○=ほぼ満足」「△=努力が必要」「▲=さらに努力が必要」、の3段階となっています。それぞれの評価結果は、HPで閲覧できるほか、「議会基本条例」で毎年の発行が義務付けられている「議会白書」で、そのほかの資料(議会による行政評価、議会報告会、諮問会議の答申、政務活動費など)とともに公表されています。

(写真)議員の自己評価

議員の自己評価

福島町議会の「議会基本条例見直しによる行動計画書」

 福島町議会では、「議会基本条例」制定後初めての改選があった2011年に、前述の条例の見直し手続きに基づき、条例の全条文ごとに「現状・課題」、そして「改善策」を議会運営委員会で整理しました。例えば、第15条(議員研修会の充実強化)の条文に関しては、「現状・課題」として、各種の視察研修は実施しているが、議会独自での議員研修会が少ないとの課題認識から、「改善策」として視察・研修の報告会を開催することが決められました。

 こうした全条文の取り組み内容の検証の結果を受けて、「福島町議会基本条例見直しによる行動計画書」がまとめられています。この計画書も「議会基本条例諮問会議」に諮問され意見をもらい、「議会白書」で公開されています。行動計画書は、策定後毎年、計画に対する実施状況、今後の取り組みが確認され、議会基本条例の実効性を高める継続的な改善の取り組みが行われています。このように、福島町議会では、「議会基本条例」を作って終わりではなく、絶えず条例通りに議会が運営されているか、しっかりとPDCAサイクルが回される仕組みを整えています。

 福島町議会の溝部幸基議長は、福島町議会で実践している評価と検証の意義を次のように語っています。「議会、議員の活動を振り返りしっかり検証、評価をし、次年度へ連動させることが大切です。住民へ、まだまだ理解されていない活動状況を周知する事も重要です。『住民が実感できる政策を提言する議会』を目指してさらに改革を進めていきたい。改革を後退させてはならないとの強い思いもあります」。

(写真)基本条例の見直し結果について掲載された議会だより

基本条例の見直し結果について掲載された議会だより

議会改革の評価と検証を「議会基本条例」の標準装備に

 議会改革の評価と検証は、「真の改革議会」の一部で緒に就いたばかりです。山梨学院大学の江藤俊昭先生は、議会・議員評価にあたって3つの軸があると話されています。

 まず、事前評価と事後評価の軸。事前評価は選挙の際の公約を想定、事後評価は、定例会ごと、通任(4年)ごとといった時間軸での評価です。次に、議員個人と議会の評価の軸。議員評価は、議員の公約や年間の自己目標の達成度、議会評価は、議会としての活動が評価されます。3つめに、活動指標(何をやっているかという活動を示す:アウトプット)と成果指標(活動によって達成された成果:アウトカム)の評価の軸です。

 当然誰が、この3つの軸で評価するか(自己評価、第三者評価)といったことも問題になります。活動指標、アウトプットは、早大マニ研のPDCAシートのように、目標を設定して「議会基本条例」通りに運用されているかをチェックすれば良いので比較的簡単です。しかし、難しいのは、成果指標、アウトカムでの評価です。住民福祉の向上といった議会改革の目標を、どういった指標でどのように評価するかといった議論が必要です。「真の改革議会」を中心に、早期に評価モデルが作成される必要があります。それと同時に、評価、検証の項目を「議会基本条例」の必須条件、標準装備にすることも重要です。具体的な評価、検証の仕組みがあることで、「議会基本条例」の実効性がしっかりと担保されることとなるからです。

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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