【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第73回 なり手不足の問題から地方議会のあり方を考える~北海道浦幌町議会の取り組みから (2018/5/31 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第73回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
「町村議会のあり方に関する研究会 報告書」と現場のかい離
2018年3月、総務省「町村議会のあり方に関する研究会 報告書」が示された。この研究会は、深刻な小規模議会におけるなり手不足の現状と、高知県大川村による町村総会の検討の動向を考慮して設置された。
この報告書では、住民が一堂に会する町村総会は実効的な開催は困難と考えられるとした上で、現行の制度に加え、少数の専業議員で構成する「集中専門型議会」や、多数の非専業議員で構成する「多数参画型議会」も選択出来る制度の新設を提案している。
これに対して、専門家や地方議会の現場からは、批判的、消極的な評価が多い。国からの押し付け改革だ、現場の動向が尊重されていない、議会機能が低下する、実現性が乏しい等が主な意見である。筆者も同じ立場で、議論のスタートの材料としては良いが、これが正解、これで決まりではないと思う。特に、現制度の中、議会改革を積極的に進める小規模議会の取り組みはもっと尊重されるべきである。
今回は、議員のなり手不足の問題に本気で取り組み、2017年3月、国に対して「地方議員のなり手不足を解消するための環境整備を求める意見書」を提出した北海道浦幌町議会の取り組みを紹介する。浦幌町議会の取り組みは、2017年「第12回マニフェスト大賞」で最優秀成果賞を受賞している。
町民からの不信感克服、なり手不足解消が改革のエンジン
北海道十勝にある人口約4800人の浦幌町議会では、2011年から議会改革の取り組みがスタートしている(「第1次議会の活性化」)。そのきっかけは、町民の議会に対する不信感、町民からの議員定数削減、報酬の日当制導入の陳情からであったという。
陳情は不採択となったが、議員は議会の活動が町民に伝わっていないことを痛感した。その後、議会運営委員会で、検討項目として55項目を設定し議論を重ね、2012年12月には「議会基本条例」が制定された。
2015年4月の選挙では、議員定数を2人減の11人にして行ったものの、立候補者が10人に留まり無投票となった(1人欠員)。公職選挙法110条では、立候補者の不足数が6分の1を超えた場合は、不足分の選挙(いわゆる再選挙)を50日以内に行わなければならない、としている。
浦幌町議会の場合は、2人の欠員で再選挙になる。告示日直前まで、田村寛邦議長を中心に、有望な人物に立候補する様、説得して回ったという。こうした状況から、なり手不足の問題に強い危機感を持った浦幌町議会では、改革のギアが一段上がることになった。
強い危機感に突き動かされた本気の改革
改選後、2019年までの任期を「第2次議会の活性化」と位置付け、(1)地方議会の役割(議員定数・議員報酬)、(2)監視・評価機能の強化、(3)調査、研修、政策立案機能の充実、(4)議会組織、議会運営のあり方、(5)町民に身近な・開かれた・町民参加の議会の5項目を視点として検討することを決定。この内視点1に「議員のなり手不足」を位置付け、本格的に検証を行うことにした。
町民参加の議会として、気楽に議員と町民が懇談する「まちなかカフェDE議会」「まちなかおじゃまDE議会」が開催されている。また、議員報酬に関しては、北海道福島町議会の取り組みを参考に、独自の「浦幌方式」で議員報酬を算定することに挑戦している。
「浦幌方式」では、各種行事の出席等「表に現れる議会活動」と、一般質問・議案の調査や住民との接触等「表に現れない議会活動」を確認し、標準とするべき年間活動日数を整理。議員の活動日数(110日)と町長の職務遂行日数(330日)の比率を出し(33%)、町長の給与(70万円)を乗じた額を議員の月額にすることを示した。
「浦幌方式」によると標準とするべき月額は議員で23万1千円(現状17万5千円)となる。現在、住民との懇談を行い、「浦幌方式」の採用を含めた最終調整中で、2018年12月までに結論を出す予定だ。
なり手不足については、(1)選挙制度、(2)議員報酬、(3)選挙費用、(4)議員活動、(5)地域割、(6)しごと(兼業等)、(7)若者・女性、(8)後継者、(9)人口減少(少子高齢化)、(10)政治の無関心、(11)その他、の11項目に課題を整理し、多角的に検討してきた。50回に及ぶ議論の結果を2017年3月、「第2次議会の活性化・議員のなり手不足検証最終報告書」をまとめた。
その中で、制度改革が必要な項目については国に要望することとして、「地方議会議員のなり手不足を解消するための環境整備を求める意見書」を全会一致で可決し、国に提出した。意見書では、被選挙権を18歳以上に引き下げ、議員に欠員が生じた場合の補欠選挙は同一自治体のみならず衆参議員選挙等「他の選挙が行われるとき」にも執行可能にする、町村議会議員選挙における選挙公営の拡大、議員への「若者手当」「育児手当」の支給を可能とする、企業側を支援する「(仮称)議会議員チャレンジ奨励金」の制度化等、10項目について要望している。
小規模議会の進むべき道
町村議員のなり手不足の問題は深刻だ。2015年の統一地方選挙で、町村議員のうち4割は立候補者が定数を上回らず、無投票で当選した。全国の小規模議会が置かれている状況は、浦幌町議会と同じである。2017年1月現在、人口が1万未満の市町村数が505(全体の29.0%)となっている。人口規模の小さい市町村における議員は、平均年齢が高く、女性の割合が低い等、一般的に多様性が不足している。市町村行政は、複雑化、専門化されてきている中、小規模議会は今後どうあるべきか。
2018年3月、筆者は浦幌町議会にお邪魔した。強い危機感からスタートした取り組みが、「チーム議会」となり、議員と議会事務局が一体となって議会改革に挑む熱量を感じた。浦幌町議会では、2019年の選挙に向けて、2018年度、議員になりたい、政治に興味がある町民向けの5回シリーズの「個人研修会」を開催するという。議員のなり手不足の問題はそこまで追い込まれている。
議員のなり手不足の解決策は、議会、議員の仕事を魅力的にすることと、選挙に出やすい、議員として活動しやすい制度、仕組みを整備することだと思う。小規模議会の現場でできることは、まずは前者である。議会、議員のありたい姿を「議会基本条例」で明確にし、基本条例の実効性を高める活動をし、具体的な成果を出す。その結果、住民福祉が向上し、議会、議員への信頼が高まり、議会、議員の仕事の魅力がアップする。このサイクルを回すには、積極的な情報発信と、住民参加の舞台を用意することがもちろん不可欠だ。
現状制度の中から、自分達の出来ることを試行錯誤し、もがき苦しむ取り組みから、イノベーションが起き、小規模議会の進むべき道は切り開かれていく。浦幌町議会の取り組みはそれを示している。
◇ ◇ ◇
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。