【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第68回 八戸に残りたい―「対話」が育む地方創生の担い手~「高校生地域づくり実践プロジェクト」 (2017/12/27 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第68回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
高校生の人材育成は圏域の市町村で支える
このコラムでは、静岡県牧之原市の実践等により、地域での「対話」の場、地域と高校との連携が、地方創生には不可欠だと訴えてきた。牧之原市の取り組みに伴走してきて、筆者には2つの問題意識が生まれている。
1つは、学校が地域とつながるには、教育委員会ではなく首長部局が窓口になる方がやりやすく、子どもたちの学びの効果が高いのではないかということ。なぜかというと、教育委員会ではなく、首長部局こそが地域の様々な分野の課題解決を直接担う当事者であり、地域の各種団体とのネットワークを有しているからである。また、子どもたちに、リアルな地域課題の情報を提供し、それに実践的に関わるプログラムも提供することもできる。そもそも、そうした主体的な市民を増やしていくのは、首長部局の担当部署の主要なミッションである。
2つ目は、高校生段階での地域の担い手、リーダー育成は、誰が責任を持ってやるのかということである。これまでこの問題には誰も意識が向かず、責任の所在も不明確だった。原因は、高校を所管する都道府県と市町村の縦割りだ。地域には、教育は、学校、教育委員会にのみ責任があるという「ドミナント・ロジック(思い込み)」がある。
地方創生時代、地域では総力戦が必要になる。学校、教育委員会が、子どもたちを囲い込むのではなく、教科指導以外の部分は思い切って地域に任せ、その受け皿を市町村の首長部局も主体的に担うべきではないのか。ただし、高校生の生活には自治体の境界線は関係ない。当該市に所在する高校に、近隣の市町村の生徒が通学している場合もあれば、逆に当該市の市民の生徒が近隣の市町村の高校に通っているケースもある。となると、この問題は、広域の市町村で対応するのがベストなのではないかという仮説が生まれる。
今回は、地域の未来を担う高校生の人材育成を、首長部局が広域で行う事例として、青森県八戸市の「高校生地域づくり実践プロジェクト」を事例に考えてみたいと思う。
八戸市の「高校生地域づくり実践プロジェクト」
八戸市の「高校生地域づくり実践プロジェクト」は、2017年度から始まった市民連携推進課が担当する事業である。地方創生と八戸市を中心とした八戸圏域連携中枢都市圏(八戸市、三戸町、五戸町、田子町、南部町、階上町、新郷村、おいらせ町)内の連携を目的としている。郷土に愛着と誇りを持った八戸圏域の将来を担う人材の育成を図るためには、高校が拠点となって行う地域づくりを支援するスキームを、圏域が主体となって構築する必要性があるとの問題意識が事業のスタートである。
具体的には、2つの事業からなる。1つは、「高等学校地域活動促進事業助成金」、高校生が圏域内で取り組む地域振興や地域貢献に関する事業または活動に対して、1校につき20万円を上限に助成金を交付する。2017年度は、圏域内の高等学校等22校の内5校が活用している。八戸商業高校では、地元IT企業等からAndroidアプリの開発の手法を学び、八戸市の観光や特産品、イベントの魅力を県内外へ発信するアプリを開発した。もう1つは、「高校生×地域連携交流会」で、高校生と多様な世代の地域住民が、自分達の住む八戸圏域について対話するワールドカフェの開催である。地域の未来を担う高校生の人材育成を、積極的に首長部局が広域で担おうとする先駆的な取り組みである。
八戸工業大学第二高校での高校生ファシリテーター育成
次に、「高等学校地域活動促進事業助成金」を活用して行われた八戸工業大学第二高校の「はちのへ高校生SUMMIT in NIKO」について具体的に紹介する。この取り組みは、地域と地域に生きる自分自身の今・未来や、どの様な地域を創っていきたいか等について一般市民との対話を通じて考えることで、将来の地域を担う人材の育成を図ることを目的としている。内容は、対話を理解するためのファシリテーションの研修と、その学びを活かしての地域の大人を交えての対話の実践からなる。
10月に、希望した生徒30人を対象として、筆者が対話の重要性とワールドカフェのファシリテーションの研修を、サステナビリテイダイアローグの牧原ゆりえさんが、対話の内容を絵等で可視化していくグラフィックハーベステイング(第50回「グラフィックであなたもまちづくりの担い手に」)の研修を行った。11月には、3人の高校生ファシリテーター、4人の高校生グラフィッカーがデビュー。高校生90人、卒業生や保護者、青年会議所メンバー等30人の大人とで、「20年後、我々は地域でどんな仕事、暮らしをしているのか」をテーマにワールドカフェを行った。大人は自らの経験を語り、高校生は将来の夢について考えを深め、地域のありたい姿について一緒に対話した。高校生からは「地域に仕事はないと思っていたが、人材不足で困っている企業がたくさんあることを知った」等の意見があり、高校生が地域の現状に気付き、視野を広げる貴重な場になった。
「対話」が創る地方創生時代の学校と地域の未来
「高校生地域づくり実践プロジェクト」の集大成として、11月、「高校生×地域連携交流会」が八戸市公民館で開催された。圏域内の5校から高校生21人、20~60代の市民23人が参加した。まず、地域おこしに取り組むゲストスピーカー3人が、話題提供として経歴や活動内容を紹介した。その後、筆者がファシリテーターとなり、「将来、高校生がこのマチに戻りたくなるために」をテーマに、高校生と大人がワールドカフェを行った。高校生には、20年後に地元で暮らす、地元と関係を持ち続ける自分をイメージしてもらいながら、大人との「対話」を楽しんでもらった。高校生から最後に、「これまで漠然と都会に憧れていたが、地域のために頑張っている人たちの話を聴き、八戸に残りたいと思った」といった嬉しい意見も出た。
青森県内では2017年度、八戸市の「高校生地域づくり実践プロジェクト」以外にも、高校生の人材育成を、首長部局が広域で担う取り組みとして、青森県中南地域県民局による「対話による高校生と地元企業の理解促進事業」が行われている。この事業は、県外就職の割合が高い工業高校生の県内就職につなげようと、青森県庁の出先機関である中南地域県民局が広域で企画したものである。広域で開催された以外の特徴としては、高校の生徒と企業担当者による意見交換を、ワールドカフェの要素を取り入れた「対話」で行ったことである。五所川原工業高校、弘前工業高校の2校で開催され、ファシリテーターは、津屋崎ブランチの山口覚さん(第36回「対話をプラットフォームにした地方創生のカタチ」)が務めた。参加した高校生からは、「県内の企業もいいなと思った。将来の仕事の選択肢が広がった」という前向きな感想があった。
2015年12月、中央教育審議会から、「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」の答申が出された。その中では、時代の変化に伴う学校と地域の在り方として、子どもたちを社会の主体的な一員として受け入れ、子どもも大人も含め、より多くの、より幅広い層の地域住民が参画し、地域課題や地域の将来の姿などについて議論を重ね、住民の意思を形成し、様々な実践へつなげていくことが重要だと書かれている。
全国で、様々な挑戦は生まれているが、まだまだ大きな流れになっていないのが現状ではないか。鍵を握るのは地域での多様な主体の「対話」の場である。八戸市の「高校生地域づくり実践プロジェクト」等の様な、地域の未来を担う高校生の人材育成を、首長部局が広域で担う取り組みが全国に広がることを期待したい。
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青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。