第106回 マネ友による組織全体を巻き込んでの勇気ある実践例~早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すもの(11)  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第106回 マネ友による組織全体を巻き込んでの勇気ある実践例~早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すもの(11) (2021/3/11 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : 人材育成 公務員 

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第106回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

2018年度部会集合写真

2018年度部会集合写真

 早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会への参加時、または参加後に、マネ友(部会のプログラム修了者)が実践した勇気ある実践の取り組みを紹介する。今回は、全庁的に組織に影響を与える意欲的な実践例である。

全班長による「サーベイフィードバック」実施(宮城県柴田町)

 宮城県柴田町の2018年度の部会参加のメンバーは、組織・人材の現状を確認するため、役場職員291人を対象に、アンケート用紙による選択式および自由記述のアンケート調査を実施し、277人の回答を得た(回答率95.2%)。集計結果は、業務内容などの違いを考慮し、行政職、保育職に分けて、各階層別の比較を行った。

 分析の結果、一番気になったのが班長職のモチベーション低下。「業務量が多いと感じるか?」「自分の役職に見合った職務を果たしているか?」「仕事を楽しいと感じているか?」等の項目で、他の階層に比べて特異な数値結果が出た。メンバーは分析結果を町長に報告、班長を対象とした「サーベイフィードバック」を研修と位置付けて実施する了解をもらい、筆者がファシリテーターとなり「サーベイフィードバック」を行った。

 実際の「サーベイフィードバック」では、まず部会のメンバーが、アンケートの分析結果を報告、ワールドカフェによって結果に関する意味付け、捉え方について、班長同士で対話を行ってもらった。ワールドカフェは3ラウンド、次の3つの問いで話し合われた。「アンケートの結果を聞いて、共感すること、違和感を持つことは何ですか?」「こうしたアンケート結果が出る原因は何だと思いますか?」「現状を変えるために、班長自身として、組織として、取り組まなければならないことは何だと思いますか?」。

 ワールドカフェの中では、事業を廃止する仕組み、班長同士の情報共有の場の必要性に関する意見が多く出た。実施後のアンケートでは、9割の参加者が「サーベイフィードバック」に参加して、自分の考えや意見が言えたと好評価だった。
(第89回「サーベイフィードバックで組織の現状を見える化し組織開発の起点に」)

対話型人材育成基本方針作成(福島県相馬市)

 福島県相馬市のマネ友の自主活動グループ「チーム絆」では、2014年度の取り組みとして、課長補佐・係長を対象に、2回の対話型研修を実施した。「課長補佐・係長になって感じたことは?」「課長補佐・係長としてのありたい姿は?」を問いに対話を行った。

 「これまで同じ職種の職員とこんなまじめなテーマで意見を交わすことはなかった」「実はほかの係長(課長補佐)はどう思っているか気になっていた」「自分だけの悩みじゃないことが分かった」等の意見が終了後にたくさん出てきた。世間話ではなく、まじめなテーマを話しやすい雰囲気の中で語り合う良さと、同じ職層の人との対話を通し、日ごろ考えていることを話し合い、気付きを得ることを体感してもらうといった当初の目的は達成できた。

 2015年度にはそれを発展させて、部長・課長職層に対しては出馬部会長が、課長補佐・係長職層に対しては「チーム絆」のメンバーがファシリテーターとなり、それぞれの職層としての役割と行動指針のたたき台について考える職層別対話型研修を行った。部長・課長職層については、「改めて部課長が果たすべき役割とは何か?」「部課長の役割を果たす上で難しいのは何か?」「仕事の管理として、優先順位付けと組織の編成はどうあるべきか?」「人材の管理として、持ち味の見極めと適所配置をどう考えるか?」「課長としての行動指針はどうあるべきか?」のそれぞれのテーマで計5回。

 課長補佐・係長職層でも、「課長補佐・係長の現状は?組織全体の現状は?」「課長補佐・係長のありたい姿は?」「ありたい姿実現のための課題は何か?どのように行動すべきか?」「課長補佐・係長としての行動指針はどうあるべきか?」のそれぞれのテーマで計5回、じっくり対話を行った。

 研修の効果として、各課係内の垣根を越えて、本音で相談、話し合える環境が整い始めてきた。また、周りを気遣える雰囲気も出てきた。関係課長が話し合える「関係課長会議」等が開催されるといった、内発的な変化も起きてきた。

 最終年度の2016年度は、それぞれの職層のワーキンググループが中心になり、一般的なものではなく自分たちの言葉で、相馬市オリジナルの、それぞれの職層の役割と行動指針をまとめあげる作業を行った。
(第51回「職員自らが対話型研修で作る職員行動指針」)

相馬市チーム絆のメンバー

相馬市チーム絆のメンバー

全職員による「自分成長基本方針」作成(長野県須坂市)

 長野県須坂市のマネ友の自主活動グループ、SAT(Suzaka Active Team)が中心となって、2016年、2000年3月に作られた「人材育成に関する基本方針」を見直し改定し、「自分成長基本方針」を策定しようというプロジェクトが始まった。「成長方針」というネーミングに拘り、自分たちの成長方針なのだから、職員みんなで作ることを目標にした。

 SATはそれまでオフサイトで活動していたグループだったが、今回は、基本方針を所管する部署と相談し、所管課とSAT両者にメリットがあると考え、職員の提案から始めて全職員で取り組むという面をできるだけ強く出すために、SATと所管課が一緒になって取り組むことにした。

 2017年6月、「自分成長基本方針」の策定が本格的にスタート。まずは経営層である市長、副市長、教育長や部課長に思いを理解し、応援してもらう必要があると考え、部課長を対象にキックオフミーティングを開催した。1回の開催だったが、部課長級の職員の内の約8割となる44人が参加した。ここでは、想いを直接伝えるため、提案した職員が自分の言葉で伝えることに重点を置いた。部会の幹事の出馬部会長にもその重要性や有効性をお話しいただいた。

 次のステップでは、全職員を対象とした対話形式のワークショップを2017年9月から2018年2月に開催した。職層毎に部課長級・保育園長、課長補佐・係長級、主幹・主査以下の3つに分けてそれぞれ2回ずつ開催し、延べ650人が参加した。

 ここでは、部会の伊藤史紀幹事の力をお借りし、「須坂市のあるべき姿は?」「須坂市の現状は?」「市民が求める職員像は?」「それぞれの職層はどうあるべきか?」といったい「問い」で対話を行った。このステップでは、SATのメンバーは運営側として、ワークショップの準備や出された意見の取りまとめを行いながら、「自分成長基本方針」のイメージを作っていった。

 ワークショップで出てきた意見の集約は、SATと一般職員有志が担当し、章立てや記載すべき情報の絞り込みを含めて検討した。一度目を通して終わってしまうようなものではなく、年に一度は読み返して、自分の将来の姿について見つめ直す機会を持てるようにしたいと考えた。

 当初、2018年度末に公開する予定だったが、アンケート形式で再度全職員に意見を聞く機会を設けるなど、職員一人ひとりに自分のものとして感じてもらうためのステップを追加したこともあり、公表時期が2019年度末にずれ込んだが、策定した「自分成長基本方針」は、部課長会議を通じて全職員に公開された。
(マネ友連載第53回「全職員対話で作った自分成長基本方針」)

対話型地方版総合戦略作成(静岡県牧之原市)

 静岡県牧之原市では、2013年度から2015年度を始期とする「第2次総合計画」の策定作業を、マネ友の一人が事務局のメンバーの中心となりスタートさせた。この策定のプロセスにも、部会で学んだ対話の基本理念はしっかりと位置付けられている。

 アンケートによる市民意識調査(988人回答)。市内の173団体から513人が参加し、ワークショップ形式で協議する市民団体との意見交換会。庁内での課題検討会議。こうした1500人以上の市民の意見と、市役所内部での課題分析を踏まえて、総合計画案の策定に係る基礎資料となる「市民討議資料」が作成された。

 次に、市内団体から選出した人に公募参加者を加えた27人(平均年齢43歳、女性約4割)で組織された「NEXTまきのはら」を立ち上げ、有識者のアドバイスをもらいながら、市民討議資料を基に施策の優先順位や方向性、将来都市像などを検討した「NEXTまきのはら」の話し合いも、対話型のワークショップ形式で進め、「NEXTまきのはらの計画案」がまとめられた。総合計画審議会では、これまでの策定状況や計画案の内容を審議し市長に答申、2014年9月計画は議会で議決された。

 幅広い市民の意見を合意形成により積み上げていく対話型の総合計画だ。完成後のタイミングで策定を求められた地方創生の「地方版総合戦略」に関しては、国が求める「多くの市民、団体を巻き込んで策定する」という要件を満たしているとして、第2次総合計画の基本構想および重点プログラムを総合戦略と位置付け2015年2月、全国に先駆けて策定された。
(第38回「対話が創る地方創生」)

対話型公共施設マネジメント計画作成(岩手県花巻市)

  2016年度に部会に参加した岩手県花巻市公共施設計画策定室のマネ友は、人マネで培った知識と人脈を活用して、市民、職員を巻き込みながら、花巻市公共施設マネジメント計画を策定した。

 計画策定で先行していた部会に参加する静岡県牧之原市のマネ友からのアドバイスをもらいながら、まずは、まちづくりに関心を持つ人財は市内に必ずいるという思いから、市内のNPOの職員と若者のまちづくり団体のメンバーを口説き、仲間に入ってもらった。また、同じように市役所の他部署に所属する思いあるファシリテーションや、ファシリテーショングラフィックのスキルを持つ若手職員を見つけ出し、市民と職員の協働チームを立ち上げた。この「マチツク花巻!」のメンバーが、計画策定の鍵となるワークショップのプロセスデザインを担った。

 ワークショップを運営するにあたり拘ったのは、ワークショップの企画、運営を市民と一緒にデザインする。ファシリテーター、グラフィッカーは市民が担うということ。ワークショップによる市民との対話を重ねて2016年12月、出された意見をまとめあげて花巻市公共施設マネジメント計画【基本方針編】が完成させた。その後庁内では、公共施設マネジメントの取り組みを参考としたようなワークショップが開催されるようになり、計画策定に市民の声、思いを反映させようという変化が起き始めている。
(マネ友連載第32回「受け継がれる協働の絆」)

市長マニフェストを起点に組織の縦割りの打破(長野県塩尻市)

 2014年度に部会に参加した長野県塩尻市の家庭支援課に所属するマネ友は、市長のマニフェストに「子育てしたくなるまち日本一を目指して」が掲げられたことから、部会で学んだことを、業務の中で実践する時だと感じた。

 所属する家庭支援課は、0歳から18歳までの子どもとその保護者を対象とした、子育て、教育、児童福祉を担っている。しかし、子どもに関連する事業は、いくつもの課にまたがっており、いわゆる「縦割り」のなかで、特に母子保健との連携には課題を感じていた。縦割りを打破し「子育て」をキーワードに庁内のネットワークを構築しようと、「子育て支援庁内ネットワーク会議」を2015年6月に立ち上げた。

 家庭支援課、こども課、健康づくり課、子育て支援センターに企画課を加えた庁内5課が横に繋がり、対話を重ねながら塩尻市に合った子育て施策を検討することになった。具体的には、子育て支援の充実のために先進地の視察を行い、どんな仕組みが必要なのか、課やそれぞれの立場を超えて真摯に対話を重ねていった。その中で、目指すべき方向が共有でき、それぞれの果たすべき役割が明確になり、チームとして機能している実感が持てるようになった。

 その結果、妊娠から出産、子育てを切れ目なく包括的に支援するフィンランドの「ネウボラ」的な仕組みを創り上げ、課題であった母子保健との連携についても、月1回の子育て支援連絡会を開催し、関係機関で情報共有する仕組みも併せて構築した。

 子育て支援庁内ネットワーク会議では、新規事業の提案だけではなく、事業の見直し、役割分担の変更などにも切り込み、経費の削減など一定の成果を上げている。この子育て支援庁内ネットワーク会議は、現在では「子ども」キーワードに12課による「こどもの未来応援会議」として、ネットワークをさらに広げ、子どもの支援施策の充実を図っている。
(マネ友連載第45回「縦割りではない横に繋がるチームで子育てしたくなるまち日本一を目指す」)

 

佐藤淳氏早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)を務め、現在は早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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