第103回 マネ友によるオフサイトの場面での勇気ある実践例~早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すもの(8)  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第103回 マネ友によるオフサイトの場面での勇気ある実践例~早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すもの(8) (2021/1/29 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : 人材育成 公務員 

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第103回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

     ◇

 これまで7回に渡り、早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すものについて書いてきた。ここからは、部会に参加時、または参加後に、マネ友(部会のプログラム修了者)が実践した勇気ある実践の取り組みを、個人のオフサイトの活動、個人の業務での活動、組織における研修改善の取り組み、全庁的に組織に影響を与える意欲的な実践の4パターンに整理し、4回に分けて紹介する。まずは、マネ友によるオフサイトの場面での勇気ある実践例である。

2015年度部会集合写真

2015年度部会集合写真

オフサイトミーティング「部長と語りたイーナ」の開催(長野県伊那市)

 長野県伊那市の2013年度部会に参加した3人のメンバーが、市役所の組織変革のためにまず取り組んだのは、「研修通信」を発行すること。部会で学んだことを、メンバー間での対話により自分たちの言葉で整理してA4の紙1枚にまとめて、庁内のイントラネットの掲示板に掲載した。

 研修通信は1年間で10回発行し、その内容に賛同する職員も多く出てきたという。また、変革への思いを持ち、活動に協力してくれそうなキーパーソンとなる職員を50人ピックアップし、アンケートを実施した。アンケート結果から、優先順位をつけて、キーパーソンとの個別の対話を実施し、ありたい伊那市役所の姿や、現状認識を共有し、活動への支持や賛同を地道に勝ち取っていった。

 伊那市役所の課題として、部長と職員とのコミュニケーション不足を感じていたメンバーは、既に2008年から庁内にあった「職員自己啓発学習ゼミナール(SUIゼミ:Step Up Ina)」を活用することにした。SUIゼミは、総務課人事係が事務局を務め、毎月1回、業務後に1時間、30~40人の職員が参加して開催されている職員の自己啓発勉強会。このSUIゼミで、部長と職員が気楽に真面目な話をするダイアローグを行ってみよう。そのため、マネ友のメンバーは実施要項をまとめ、既にキーパーソンとして思いを共有していた部長に協力いただき、役所の経営会議の場である庁議において思いと覚悟を伝えて、全部長の了解をいただいた。部長とダイアローグをするSUIゼミは、「部長と語りたイーナ」とネーミングされ、2013年度、副市長とのダイアローグを含め6回実施された。

 「部長と語りたイーナ」は、部長からの講話、講話を聞いた感想をグループで対話、その内容を全体で共有する形で進められる。参加した職員からは、「良い職場を作るにはダイアローグが必要だ」「対話、コミュニケーションが活発になる雰囲気を作れる上司になりたい」などの感想が挙げられた。また部長からも、「職員との会話が少ないと感じていたので、積極的にコミュニケーションを取っていきたい」「仕事の中でもこうした腹を割ったダイアローグができたら良い」等といった、前向きな感想があった(第16回「ダイアローグ(対話)により組織変革のムーブメントを作る」)

退職部長ダイアローグの開催(熊本県庁)

 熊本県庁のマネ友の和田大志さんは。部会の参加時に、変革の第一歩として、職員の自主活動グループの立ち上げをコミットメント(約束)した。そして2010年9月、県民に笑顔を届けるために、まずは県庁職員が笑顔で誇りを持って仕事ができるようにしたいと考え、有志による自主活動グループ「くまもとSMILEネット」を立ち上げた。若手を中心に部局の枠を越えた約40人がメンバーとして参加し、定期的に集まって対話の中で生まれたアイデアについて、プロジェクトとして自分たちで一歩踏み出して取り組んでいる。

 その一つのプロジェクトが、年度末に退職予定者からのメッセージを若手職員が伝承する「ワールドカフェ」の開催だ。近年、団塊世代の退職者の増加により、先輩職員の豊かな経験が後輩職員に語り継がれることが少なくなってきている。そうした現状に問題意識を感じたメンバーが、先輩職員から後輩職員への、マニュアルにはできない、長い経験に裏付けられた「暗黙知」の伝承を行う場を提案、2012年度から開かれている。

 語られなければ消えていってしまう「暗黙知」の伝承の場について、若手職員からは「1つ1つの言葉に重みがある。もっとこうした機会が欲しい」、退職予定者からは「真剣な目で聞いてくれる若手職員が多く、安心して県の将来を次の世代に託すことができた」と好評を得ている。

 また、その内容を参加者だけのものにするのではなく、当日のエッセンスをまとめた動画を作成し、庁内イントラに掲載して職員全員で共有するようにしている(第13回「気づきの連鎖を作り自治体職員のやる気に火をつける」)

職員とJCメンバーのワールドカフェの開催(青森県五所川原市)

 部会に参加する五所川原市役所職員が主導して2019年2月、市役所若手職員と五所川原青年会議所(JC)メンバーとのワールドカフェが開催された。若手職員とJCメンバーは同世代、同じく地域のまちづくりを考えているのだが、残念ながら接点がほとんどない地域が多い。

 今回は「地域福祉計画」策定のタイミングであったため、「五所川原市の福祉のありたい姿を考えよう」というテーマで開催された。JCメンバーは財政面等役所の状況が理解でき、職員は市民の悩み、思いを直接確認する有意義な企画になった。佐々木孝昌市長にも参加いただき、終了後は懇親会も開催、今後の連携が期待される場となった(第84回「対話の要諦は混ぜる!!」)

「SIMULATION熊本20030」の開発と普及(熊本県庁)

 熊本県庁のマネ友の和田大志さんは、有志と立ち上げた自主活動グループ「くまもとSMILEネット」の活動の一環として、2013年8月から「2030年問題」に関する検討を始め、2014年1月には、2030年までの予想される課題と対立を体験できる対話型シミュレーションゲーム「SIMULATION熊本2030」を自主開発した。

 6人1チームを「1つの市と各部長」に見立てて、2030年までの5年ごとに立ちふさがる課題を、100億円の予算を配分して財政破綻を回避しながら解決・判断していくというものである。当然、解決策には予算が必要となり、各部の既定予算からの捻出が必要になる。しかし、人口減少・超高齢化社会では、税収減と社会保障費の増加は避けられない。その中で、何を大事にし、何を目指して予算配分を行って理想のまちを創っていくのかというゲームであり、参加者それぞれの価値観・判断力・対話力が問われる。

 オリジナル版を体験した参加者にはデータ一式を無償で提供。それぞれの地域・自治体での開催やカスタマイズが可能とすることで、財政の問題を分かりやすく体験できるということで、全国にご当地版が普及している。自治体職員のみならず、住民の皆さんにも財政の問題を考えるきっかけを提供している(マネ友連載第3回「一歩踏み出せば世界の見え方が変わる」)

自主勉強活動グループ「アフターファイブ講演会」(佐賀県庁)

 2009年、佐賀県庁のマネ友円城寺雄介さんは、民間企業で仕事が終わった後に自主勉強会が開催されているといった新聞記事をヒントに、係長未満の若手職員を対象に、アフターファイブの自主勉強会グループ「TAF(Team-After-Five)」を立ち上げた。成果を求められる公的な研修会と、雑談が多い職場の飲み会との中間の場を作りたいといった思いがきっかけだった。

 職場を離れて気楽に真面目な話をする場、「オフサイトミーティング」だ。何か結論、結果を出すといったノルマもなく、新しいアイデア、行動を生み出す創造の場である。形式は、月1回ゲストスピーカーを招き、講演を聞き、その後に講師も含めて参加者で対話をするといったスタイルだ。

 講師の選定は、円城寺さんの人脈で、お金がかからないように熱意を持って頼み込む。部会の鬼澤幹事や、部会のゲストスピーカーでもあるNPO法人テラルネッサンスの鬼丸昌也さん等も講師になっている。この活動に触発され、また、円城寺さんのサポートなどで、佐賀県庁内には、いくつかの自主勉強グループが生まれた。

 しかし、1年ほどすると、円城寺さんは県庁職員だけでは発想が内向きになってしまうことに危機感を感じて、新しい自主勉強グループ「アフターファイブ講演会」を2012年に新たに立ち上げた。今回は、県庁以外の民間企業の社員、学生もメンバーに加え、定期的な開催にもこだわっていない。その回ごとに声掛けをするので、固定メンバーがいるわけでもない。スタイルは1部の講演会と2部の対話と、「TAF(Team-After-Five)」と同じ形だが、県庁職員以外の人も参加するので対話に厚みが出る。

 円城寺さんは、自主勉強グループのメリットとして「交流により、気楽な情報交換ができる、刺激を受け視野が広がり、業務でのコラボレーションができる、そして何よりも仕事に対するモチベーションが上がる」と話す(第15回「職員の意識改革の第一歩として、職員自主勉強グループの立ち上げを!!」)

自主研究活動グループ「しずマニ」(静岡県静岡市)

しずマニのイベント

しずマニのイベント

 2014年に立ちあがった「しずマニ」は、部会に参加した静岡県静岡市職員のマネ友の自主研究活動グループである。当初は、「知名度ナシ、信用ナシ、資金ナシ」のごく小さなオフサイト(業務外)のネットワークだったが、今では対話型財政シミュレーションゲーム「SIMULATIONしぞ~か2030」など複数のコンテンツを所有し積極的に活動している。各メンバーがテーマと講師を見つけては、職員向けの夜間講座を開催し、また自ら近隣市町の自治体職員ミーティングに参加するなどして認知と信用を得ている。

 現在、「SIMULATIONしぞ~か2030」は静岡市の公式事業として、2018年度に事務事業評価の担当者の研修ツール、2019年度は人事課の採用2年目職員研修メニューに採用され、目標としていた「オフサイト活動からオフィシャルに食い込む」という、ひとつのゴールの到達をみることとなった。活動にあたっては、「まずはオフサイトから小さく始める」「失敗してもいいから最後までやりきる」というポリシーをメンバー間で共有しながら取り組んでいる(マネ友連載第52回「やり切る。つながる。オフサイトからオフィシャルへ」)

 

佐藤淳氏早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)を務め、現在は早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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