【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第104回 マネ友による自分の職場での勇気ある実践例~早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すもの(9) (2021/2/12 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第104回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
全救急車にタブレッド端末導入(佐賀県庁)
2008年度部会に参加した佐賀県職員の円城寺雄介さんは、部会参加後、医務課に異動になり、佐賀県内の救急車すべてにタブレット型端末を搭載し、全国初となる仕組み「99さがネット」を構築した。これは救急現場から端末でインターネットに接続し、各医療機関の搬送受け入れ可否情報を閲覧できる仕組みで、これにより救急医療の世界では不可能と言われていた搬送時間の短縮(平均1分)を実現した。この短縮は救急患者の生存率アップに大きく貢献するもので、取り組みは全国の自治体に広がった。
県庁の机で考えるのではなく、救急現場に出て、そこで見て、働く人の立場に立って物事を考える。救急救命センターに泊り込み、当初は反発していた現場に本気で頼み込み、実際に救急車に一日同乗。そこで見たのは、携帯電話で必死に搬送先を探す救急隊員の姿、立て続けに電話が鳴る救命救急センターの現状だった。
これは救急医療の現場のあるべき姿ではないと感じ、救急現場の本来あるべき姿を考え描き、搬送受入可否情報だけではなく、県内でいつ救急搬送が発生し、どこの医療機関に搬送されたのかといった情報が、救急車と医療機関、行政、医師会が共有できる仕組みを構築した。
(第10回「人材マネジメントで地方政府を実現する」)
議員と職員とのワールドカフェ開催(宮城県登米市)
登米市議会では、これまで議会報告会を対面式で開催しており、参加者の主体性や創造性が発揮される前向きな場になっていないといった課題があった。それに問題意識を持っていた議会事務局のマネ友が2019年2月、議会報告会をワークショップ、ワールドカフェ形式で開催するための体験研修会を、市役所の若手職員を練習相手に開催した。
当日は議員24人と若手職員24人でワールドカフェを行った。議員と部長、課長は関わりがあるが、若手職員は普段接点がほとんどない。若手職員はどちらかというと議員を避ける傾向すらある。そうした両者が、「10年後の登米市のありたい姿」をテーマに、お互いの意見を聴き合い、気付きと学び合う場になった。終了後に同じメンバーで懇親会も開かれこちらも盛り上がった。本番の議会と市民のワールドカフェではマネ友がファシリテーターとなり、市内の学校のあり方について、前向きな議論が行われた。
(第84回「対話の要諦は混ぜる!!」)
議員と高校生とのワールドカフェ開催(宮城県村田町)
2019年2月、村田町議会の議会事務局に務めるマネ友が中心になり、村田町議会議員と町内にある県立村田高校の3年生とのワールドカフェが開催された。議員と高校生の対話の場は全国的に広がっている。近隣議会でも開催されていることに問題意識を感じたマネ友が議会を後押しした。
ワールドカフェの冒頭、高校生に議員に対するイメージを聞いたところ、ある生徒が「卒業式に来る人」と発言、場が笑いで包まれた。このように、高校生は「現代社会」や「政治経済」の授業で習ってはいるが、地方議員の仕事を現実感持って理解していないのが現状だ。議員と高校生が混じり合って対話をすることで、理解が進み、双方に気付きの多い場となった。
なお、今回の開催に先立ち、ワールドカフェの練習ラウンドも兼ねて、上記の登米市議会同様、議員と若手職員のワールドカフェを2018年12月に開催している。
(第84回「対話の要諦は混ぜる!!」)
医療、介護、行政分野の他職種連携ワークショップ開催(岩手県久慈市)
2019年3月、久慈市役所の保健師のマネ友が中心となって、「医療と介護の顔の見える連携会」をワークショップ形式で開催した。医療、介護の分野では、「多職種連携」というキーワードがよく言われているが、それぞれが本音で話し合う場が作れていないため、掛け声倒れで終わっている場合が多い。それがマネ友の問題意識だった。
今回は、(1)病院(医師、看護師)、(2)訪問系事業者、(3)小規模多機能ホーム、(4)デイサービス、(5)介護施設、(6)ケアマネージャー、(7)地域包括支援センター(久慈市直営)、50人で専門職の垣根を超えて、「在宅移行支援」をテーマに、対話を行った。お互いの本音、立場を確認し合う、今後の連携、次につながる話し合いの場になった。
(第84回「対話の要諦は混ぜる!!」)
マンガ版公共施設等総合管理計画作成(静岡県御前崎市)
2014年度部会に参加した御前崎市役所財政課行政改革係で公共施設マネジメントを担当するマネ友は、公共施設は「市役所のもの」ではなく「市民のもの」であるにもかかわらず、作成した「公共施設白書」が「作っただけ」「配っただけ」のものになっていないか、担当者として強い問題意識を感じていた。
公共施設の問題に関心を持つ市民を増やしたい。計画に納得して共感し行動してくれる市民を増やしたい。特に、将来公共施設を利用していく若い人に当事者意識を持ってもらいたいと思っていた。若者から、親しみやすさ、共感を得るには「マンガ」ではないかと考え、市内唯一の高校である静岡県立池新田高校の美術部の協力を得ながら、2015年7月から「マンガ版公共施設等総合管理計画」の作成を開始した。
キックオフとして、マンガのストーリーをイメージしてもらうため、美術部の部員20人と市職員で「高校生が考えた公共施設を取り巻く課題やありたい姿」をテーマにワークショップを実施した。職員からの御前崎市の公共施設の現状と課題の説明の後、「Q.知っている公共施設は?」「Q.公共施設の良いところは?」「Q.公共施設がもっとこうなったらいいことは?」という3つの問いで対話が行われた。高校生からは、「建物ではなくて、場があればいい」等といった意見も出て、職員もハッと気づかされた。
ワークショップでイメージを膨らませ、8カ月かかって2016年2月、A4版22ページのマンガ「未来につなぐ公共施設」が完成した。1年生が表紙を担当し、2、3年生がマンガを制作した。高校生が考えたマンガのストーリーは、未来の御前崎市から来た男性が公共施設の問題を解説、当初は関心が無かった女子高生たちもその問題に気付き、御前崎市の公共施設を残すために立ち上がるといったもの。市内に全戸配布されたほか、市内の中学3年、高校3年の授業で活用されている。
(第45回「高校生徒と協働で公共施設の問題を考える」)
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)を務め、現在は早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。