第3回 一歩踏み出せば世界の見え方が変わる~部会での「気づき」と熊本県庁での「実践」  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第3回 一歩踏み出せば世界の見え方が変わる~部会での「気づき」と熊本県庁での「実践」 (2015/1/29 熊本県環境生活部水俣病保健課主任主事 和田大志)

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的にリーダー育成する、自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。第3回は熊本県環境生活部水俣病保健課主任主事 和田大志さんによる「一歩踏み出せば世界の見え方が変わる~部会での『気づき』と熊本県庁での『実践』」をお届けします。

人材マネジメント部会との出会いと夏合宿でのコミット

 2010年4月に部会へ参加。自身も30歳を迎える節目の年であった。

 組織や人材のありたい姿を対話(ダイアローグ)する同部会では、「こうなったらいいな」ではなく「あなたが何をやるか」を1人称で語っていくことになる。その最たるものが各自治体の変革プランを発表する「夏合宿」であり、ここでのコミットメントが参加者にとって大きな転換点となる。

 私自身も当時のことは今でも覚えている。2010年の熊本県は部会に参加したての頃で、まだまだ組織内での同志・考えの浸透が不足していると感じていた。そこで、翌年の夏合宿誘致に立候補することを決意。幹事会での選定会議に向けたPR動画へ知事出演を企画。周りの「知事はそういうのが嫌いだからやめておけ!」という助言(?)を受けながらも直談判。結果、知事は「いいよ、やろうよ。いつ撮影する?」と快く協力してくださった。まさしく一歩踏み出せた瞬間であり、この成功体験がその後の活動の礎(いしずえ)となっている。

自主活動グループ「くまもとSMILEネット」での実践

 ほかにも、夏合宿の変革プランでは、まずは自分から変化を起こそうと自主活動グループの設立を宣言。2010年9月に県職員有志の自主活動グループ「くまもとSMILEネット」を設立。定期的な勉強会のほか、対話の中から生まれるプロジェクトを展開している。

2015年1月5日(月) 5年連続5回目のハイタッチで新年スタート

5年連続5回目のハイタッチで新年スタート(2015年1月5日)

 「一歩踏み出せば世界の見え方が変わる」これは踏み出したことのある人にしか分からないものかもしれない。だからこそ、その変化を感じてもらうために続けているのが、年初1月の仕事始めに職員を出迎える「ハイタッチ」の活動である。下を向いて登庁しがちな仕事始めに、上を向いて楽しく仕事に向かう「笑顔のきっかけ」をハイタッチとともに届けようと始めたものである。

 始めたころは「何やってんの?」と言われることもあったが、「机でくすっと笑ってもらうだけでもいい。苦笑いも笑顔のうち」を合言葉に、2015年で5年連続5回目を迎え、参加メンバーや趣旨を理解してゆるキャラを派遣してくださる課・団体も徐々に増えてきた。

 この活動を紹介した県広報課のFacebook(「気になる!くまもと」)には県内外から3,500を越える「いいね!」をいただき、「こんな仕事始めなら職場に行ってみたくなる!」「熊本県庁が羨ましい!」といったコメントも寄せられている。

ハイタッチで自然と笑顔に。その瞬間を見られるのがハイタッチ隊の醍醐味です

ハイタッチで自然と笑顔に。その瞬間を見られるのがハイタッチ隊の醍醐味です

 職員のモチベーションアップのために始めたこの取り組みも、最近では、いつも頑張っている同僚職員に「感謝」の気持ちを届けたいという意味合いに変化してきている。ハイタッチに応じてくれた職員からも「年度始めの4月1日もやってほしい」「笑顔になるので、仕事始めに登庁するのが楽しみになった」といった感想をいただき、熊本県庁の仕事始めの風物詩になっている。

※SMILEネットのその他の活動は、以前にも紹介いただいた記事があるのでそちらをご覧ください。
「気づき」の連鎖を作り自治体職員のやる気に火をつける ~熊本県庁の自主活動グループの実践と職員研修プログラム「チャレンジ塾」~

「SIM熊本2030」を通した対話の実践

 この活動は職員だけではなく、「住民との対話」に向けた新たな展開も始まっている。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に突入するのが2025~2030年ごろとされているが、これからの迫りくる人口減少・超高齢化社会では「あれもこれも」ではなく「あれかこれか」という選択を迫られる。そして、その選択の中には「対立」が潜んでおり、それをいかに「対話」で乗り越えるかが、これからの時代には求められるのである。

 そこで、2013年8月から「2030年問題」に関する検討を始め、2014年1月には、2030年までの予想される課題と対立を体験できる対話型シミュレーションゲーム「SIM熊本2030」をSMILEネットで自主開発した。

 6人1チームを「1つの市と各部長」に見立てて、2030年までの5年ごとに立ちふさがる課題を、100億円の予算を配分して財政破綻を回避しながら解決・判断していくというものである。

 当然、解決策には予算が必要となり、各部の既定予算からの捻出が必要になる。しかし、人口減少・超高齢化社会では、税収減と社会保障費の増は避けられない。その中で、何を大事にし、何を目指して予算配分を行って理想のまちを創っていくのかというゲームであり、参加者それぞれの価値観・判断力・対話力が問われる。

 オリジナル版を体験した参加者にはデータ一式を無償で提供しており、それぞれの地域・自治体での開催やカスタマイズが可能である。既に「SIM熊本2030」は、長崎県の諫早市役所、福岡市役所、熊本県内でも熊本市役所、人吉市役所、市民大学マチナカレッジ、そして、1月24日のマネ友(人マネ修了生)の九州地域OB会でも開催するなど広がりを見せており、この「SIM熊本2030」を行政と住民、あるいは住民間で行えるようにカスタマイズし、いかに対話を各地域・組織に標準装備していくかが今後の課題である。

マチナカレッジと共催の様子。各世代・官民産学での対話となった(2014年11月24日)

マチナカレッジと共催の様子。各世代・官民産学での対話となった(2014年11月24日)

 この「SIM熊本2030」には随所に部会の考えが盛り込まれている。ありたい姿から考える「価値前提」や、相手の意見を尊重し「対話(心のキャッチボール)」ができているか、などである。こうしたところに、やはり私自身に部会の考えが染み付いていると感じるとともに、あらためて部会での学びが大切なことであると気づかされた。

部会後の「私」と「周り・組織」の変化

 自分たちの組織の変革を考えるとき、「自分の組織はダメだ」「あの組織のことが羨ましい」という初期診断を安易に下してしまうことがある。しかし、本当にそうだろうか。少なくとも、熊本県庁においては、そうではなかった。2014年4月に熊本県内で発生した鳥インフルエンザウイルスの封じ込め作業では、72時間以内に11万羽を越える鶏の殺処分・消毒作業を行うという困難なミッションを完了し、県庁職員に一体感と達成感が確かにあったし、こうしたことができる組織なのだと感じる瞬間でもあった。

 もちろん、日々のメンテナンス(経過観察・処置)は必要であるが、それぞれの職員の中にある「貢献意欲」や「利他の心」に気づき、その表出が上手くいくように実践できれば、組織は変わっていく。そのためには、まず自分から惜しみない愛情・思いを同僚・組織に向けることができるかどうか。つまりは、どこまで自分の同僚・組織を「好き」になれるかである。

 好きでなければ、他人に責任を転嫁する「他責」から脱却し、「自分に指を向ける」ことはできない。すべてはそこから始まるのだと部会で教えてもらったように思う。

 部会での経験を広めることで、熊本県庁には多くの仲間ができ、仕事や組織の変革を目指す同志も増えてきた。現在は、その同志たちがプロジェクトチームを組んで、職場外からもモバイル端末で自分の職場パソコンに接続できる「リモートアクセス」を導入し、職員が机から現場に飛び出すための支援を進めたり、ホワイトボードを活用した会議の見える化・効率化など様々なプロジェクトが始まっている。

 今後も、部会で学んできたことを形に変え、そしてその過程や成果の中からさらに学んでいきたいと思う。おそらくそれが、部会で学ぶ意味であり、部会が部会だけでは終わらないゆえんであると思う。まさに「終わりなき旅」の途中にいるのだと。

熊本県環境生活部水俣病保健課 主任主事 和田大志さん(左)

熊本県環境生活部水俣病保健課 主任主事 和田大志さん(左)

■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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