【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第7回 青年会議所が担うマニフェスト・サイクル~黒石JCの公開討論会、評価検証大会の取り組み~ (2013/9/26 早大マニフェスト研究所)
5月からスタートした早稲田大学マニフェスト研究所による新コラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第7回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、『青年会議所が担うマニフェスト・サイクル~黒石JCの公開討論会、評価検証大会の取り組み~』をお届けします。
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マニフェスト運動と青年会議所
明るい豊かな社会の実現を目指し活動する20〜40歳の青年の集まりである青年会議所(以下JC)は、2003年に日本でマニフェスト運動がスタートした当初から、早稲田大学マニフェスト研究所などと連携しながら、全国各地でマニフェスト運動を展開しています。具体的には、国政選挙、地方選挙におけるマニフェスト型公開討論会の開催、マニフェスト評価検証大会の開催などを、各地域のJCが事業として行っています。2013年4月現在、全国に698ある各地域のJCの運営の総合調整機関である日本JCでは、2013年度も各地域のJCに重点的に依頼する運動・事業として、「選挙におけるマニフェスト型公開討論会の推進」を挙げ、積極的に活動しています。そうしたこともあり、7月に実施された参院選でも、全国52カ所で公開討論会を開催し、1万5千人の有権者が参加しました。また、WEBサイトを活用して、動画で立候補者の生の声を配信する「e-みらせん」という事業も行われました。
青森県内のJCもマニフェスト運動を積極的に行っています。国政選挙に際して、2009年8月の衆院選では、解散が急であったため公開討論会の開催を断念しましたが、都道府県単位の連携調整機関である青森ブロック協議会が主催し、立候補者16人全員の動画を撮影、ネット上で公開する「e-国政青森」を立ち上げました。この取り組みが発展して全国的な「e-みらせん」になりました。
2010年7月の参院選では、青森ブロック協議会が主催で公開討論会を開催。2012年12月の衆院選でも、年末の急な解散で慌ただしかった中、県内4小選挙区のうち3選挙区で公開討論会を行いました。2013年7月の参院選でも公開討論会を実施し、国政選挙におけるJCの公開討論会開催は、青森県内では確実に定着してきています。
地方選挙に際しても、2009年10月の八戸市長選挙では八戸JCが、2010年6月の黒石市長選挙では黒石JCが、2013年4月の青森市長選挙では青森JCが、それぞれマニフェスト型公開討論会を開催しました。また、市長のマニフェスト評価検証大会も、2011年11月に八戸JCが県内で初めて行い、2012年11月には黒石JCが実施するなど、県内のJCのマニフェスト・サイクルへの関わりの幅も広がってきています。
青森ブロック協議会の2013年度会長である佐藤一尚氏は、JCが公開討論会や評価検証大会などでマニフェスト・サイクルに関わる意義について、「まちづくり・ひとづくりを通して意識変革を行う団体として公平中立な立場であるJCが、公開討論会や評価検証大会を行うことは大きな意義がある。責任世代であるJCメンバーはこのサイクルに積極的に関わる必要がある」と話しています。
以下、黒石JCの公開討論会、評価検証大会の事例を紹介するとともに、JCが担うマニフェスト・サイクルについて考えていきたいと思います。
無投票だからこそ公開討論会を
黒石JCはメンバーが40人程度と、県内でも中規模なJCです。黒石JCでは、2010年6月の市長選挙に向け、マニフェスト型公開討論会の開催を準備していましたが、事前の状勢から、出馬は現職の鳴海広道市長のみというのが確実となっていました。地域の方々からは、無投票では公開討論会はなじまないのではないか、討論にならないのであまり意味がないのでは、などの声が挙がっていましたが、当時の村元慎治理事長の「無投票でも、市長候補者が4年間のビジョンを示し、市民が政治に意識を向ける“気づき”の場としても公開討論会は必要だ」との強い思いから、開催されることとなりました。
討論会はマニフェスト型ということで、事前に鳴海市長に、(1)黒石の現状認識と将来ビジョン、(2)すぐに行う3つの重要施策、(3)4年間で行う3つの重要施策、(4)行財政改革の具体策、(5)経済活性化の具体策、(6)農業活性化の具体策、をマニフェストとして所定の書式で示してもらいました。討論会には90人の市民が参加、JCメンバーが実施した市民アンケートの発表のあと、マニフェストに基づきそれぞれの項目を市長が説明、JCメンバー、コーディネーター、市民の参加者から質疑を受ける形で進行され、最後に2年後のJCによるマニフェスト評価の実施が約束されました。無投票でも公開討論会を開催し、市民の前で思いと政策を語ってもらい、マニフェスト、活字として記録を残したことは、その後のマニフェスト評価を行う上でも大きな意味がありました。
評価を通して市政への気づきが起きる
2年後の2012年、黒石JCでは、公開討論会での約束通り、市長のマニフェスト評価検証大会の開催に向けて活動を開始しました。年始の挨拶で市長に実施の快諾を得て、7月には市の幹部とその手法に関しての打ち合わせを行い、公開討論会のマニフェストの項目に基づき、2年間の取り組みと自己評価をまとめた評価シートの作成を依頼しました。その評価シートをもとに、JC内に立ち上げた評価委員会で議論を行い、市の担当者との半日に及ぶ評価ヒアリングを実施して、事業の有効性に焦点を当てて、各事業を「大きな成果がある(◎)」から「不満足(×)」まで4段階に分け、事業の改善アイデアを付けたJCの評価をまとめました。
11月に実施された評価検証大会には、60人の市民が参加、2年間の市長のマニフェストの自己評価報告の後、JCの評価が発表され、地域で活動する市民を交えたパネルデイスカッションも行われました。無投票ながらも2年前にマニフェスト型公開討論会を行ったからできた事業です。
公開討論会、評価検証大会と、その中心メンバーとして事業に関わった2013年度黒石JCの福士長年輪副理事長は活動を振り返って次のように話しています。「黒石では市長選以外にも無投票が続いている。市民に、市政に関心を持ってもらいたいという思いから公開討論会、評価検証大会を開催した。JCとしてこの取り組みを継続していきたい」。
マニフェスト・サイクルでのJCの役割
マニフェスト・サイクルの中でJCが果たす役割を次の3つにまとめたいと思います。
1つは選挙の際の公開討論会の開催です。一般の有権者の前で、立候補者が、自分の思い、政策、マニフェストを語る場が設けられることは、民主主義にとって非常に重要です。しかし、公開討論会開催で一番問題になるのが、誰が主催者になるかという点です。つまり、会の運営に公平、公正性を担保できるかということです。その点、JCは、地域でまちづくり活動を継続して行っている青年の集まりであり、公平、公正性が保てます。また、事業運営の機動力も十分あります。
2つ目は、首長マニフェストの評価検証大会の開催です。政策評価を行う自治体は増えてきていますが、第三者がその評価に加わるケースはまだまだ少ないです。マニフェストの評価は、多様な主体が、多様な手法で行うことが重要です。20〜40歳代の働き盛り、子育て世代の評価の視点も自治体運営には欠かせません。また、政策評価を実施していない自治体では、JCのマニフェスト評価が、そのきっかけになる場合もあります。
そして最後は、マニフェストの実行プロセスヘの参画です。公開討論会や評価検証大会の運営を通して、行政に関心を持ったJC世代の青年が、行政に参画、協働していくことは地域の大きな力になります。マニフェスト・サイクルにおけるJCの役割は極めて大きいと思われます。
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青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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