【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第8回 議会と市民のコミュニケーションの在り方 ~あきる野市議会 「手に取ってもらえる議会だより」へのリニューアル~ (2013/10/10 早大マニフェスト研究所)
5月からスタートした早稲田大学マニフェスト研究所による新コラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第8回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。今回は、『議会と市民のコミュニケーションの在り方 ~あきる野市議会 「手に取ってもらえる議会だより」へのリニューアル~』をお届けします。
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議会と市民のコミュニケーション・ツール
「議会、議員は何をやっているか分からない」。市民からよく聞かれる声です。そうした声を払しょくして、「開かれた議会」を実現していくためには、議会の情報公開、議会への住民参加、つまり、議会と市民とのコミュニケーションが重要になります。議会と市民とのコミュニケーションのツール、手法にもさまざまあります。分類すると、1つは、議会傍聴や、議会報告会、陳情・請願者の意見陳述の場など、実際に議会、議員とリアルに会うことから、紙媒体の議会だよりも含めた従来型のアナログ的な手法。もう1つは、議会の映像公開、ホームページ、ツイッターやフェイスブック、ラインなどのソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)を活用した情報発信、双方向の交流など新しいデジタル的な手法があります。
今回はその中でも、従来型のアナログなコミュニケーション・ツールである議会だよりを活用した市民とのコミュニケーションについて、東京都のあきる野市議会の議会だよりのリニューアルの取り組みを事例に考えたいと思います。
成功の要因は丁寧な合意形成
あきる野市議会の議会だよりのリニューアルは、当時の議会だよりを見て、「誰も手に取りたいと思えない」「手に取られないならば読まれない」、そんな思いを持つ若手の事務局職員や議員たちの問題意識がスタートでした。そこから、議員と議会事務局と連携しながら議会だよりのリニューアルの取り組みが始まりました。当時のあきる野市議会は、合併前の旧五日市町議会の議会だよりが、町村議会広報全国コンクールで優秀賞を受賞したこともあり、リニューアルの必要性が感じられていなかったようです。
2011年、議会内での合意形成を大事にしながら、議会だよりを改善するために調査・研究を行うことを目的に、事務局提案で、議会報編集特別委員会の中に小委員会的な「議会報調査研究グループ」を設置しました。研究グループでは、全国各地の先進的かつ特徴的な議会だより、広報誌を取り寄せて、見せ方や構成などを調査分析しました。表紙、議案審議、一般質問、視察報告などページごとに比較、研究し、それぞれの見やすいレイアウトについて具体的に検討しました。
ある程度リニューアルの具体案は固まってきましたが、変える必要がないという議会内の勢力にも理解してもらうため、その年の12月に、市民アンケートを実施することにしました。市役所1階のロビーに、全国から集めた特徴的な議会だより、広報誌の9誌と、現行のあきる野市議会だよりの計10誌を貼り出し、手に取りたい表紙はどれか市民に投票してもらいました。結果は10誌中の8番目、4%の人しか手に取りたいと思ってくれませんでした。この結果には、変更の必要性を感じていなかった議員も現状が理解出来て、リニューアルの方向で議会は動いていくことになりました。
その後も、研究グループでは、方向性が固まるたびに議会報編集特別委員会、会派代表者会議に諮り、了承をもらいながら丁寧に合意形成を得る手順を踏み、2013年の2月に、リニューアルされた議会だよりが発行されました。発行日には、議員が市内の駅頭に立ち、市民の皆さんに直接新しい議会だよりを手渡しました。
手に取ってもらえる議会だよりとは
では、何がどのようにリニューアルされたのでしょうか。
何といっても、フリーペーパーのような表紙が印象的です。裁ち切り(余分な白地が無い)の大きなカラー写真はインパクトがあります。「何だこれは?」と思わせ、目が留まる「ギカイの時間」というネーミングと合わせて、手に取って見たくなる表紙になっています。
次に、巻頭特集ページの創設です。議会だよりは市民全員を読者としているので、焦点が定まらず、その結果どの世代にも手に取ってもらえないものでした。そこで、いろいろな世代に手に取ってもらう仕組みとして、巻頭の特集ページ(座談会)を活用し、号ごとに「子育てママ」や「大学生」など幅広い世代に登場してもらうことにしました。同様な狙いで、裏表紙には小学生が夢を語るコーナーを新設し、号ごとに市内の小学校を順番にリレーする形にして、小学校区という特定のエリアの人に手に取ってもらえる仕掛けを入れています。
また、議会だよりは、どうしても限られた誌面にたくさんの情報を詰め込みたいと、活字が多くなりがちです。そんなことから、記事に関しても、詰め込み過ぎない、読みやすい誌面作りを心がけています。あえてホワイト(余白)を多く活用しているのもそのためです。誌面全体の統一感を持たせるために、ボランティアで協力してくれるデザイナーを確保し、誌面全体のトータルバランスを指南してもらっています。誌面が硬くならないように、市のマスコットキャラクターなどイラストも活用しています。
気になるのはコストだと思いますが、表紙をカラーにした分、紙の質を少し落としたり、穴あけをやめることなどで、従来の年400万円の予算に収まっています。
リニューアル後の効果測定として、市役所来庁者200人に市民アンケートを実施しましたが、85%の市民の方がリニューアル後の議会だよりを支持してくれました。
コミュニケーションにはアナログとデジタル両方大事
議会報調査研究グループの1人である子籠敏人議員は、「ネットがいくら進んでも、やっぱり紙媒体も大事。手に取ってもらえる、そして読んでもらえる議会だよりを作り、市民とのコミュニケーションを取っていくことは重要だ」と語っています。冒頭でも書きましたが、議会と市民とのコミュニケーションのツール、手法には種類がいくつもあります。紙媒体の議会だより以外にも 、議会傍聴や、議会報告会などのアナログ的な手法、議会の映像公開、ホームページ、SNSなどのデジタル的な手法などさまざまです。大事なのは、あらゆる層、ニーズの市民に対応するために多様なコミュニケーションのツールを確保することです。そして、市民目線でそのツールの使い勝手をよくしていくことだと思います。
あきる野市議会の議会だよりのリニューアルは、従来の議会だよりの在り方を抜本的に見直し、手に取ってもらえる議会だより、読みやすい議会だよりを目指して改善を行った素晴らしい取り組みだと思います。善政競争、こうした取り組みが、全国に広がっていってもらいたいと思います。
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青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
- 関連リンク
- 早稲田大学マニフェスト研究所ホームページ
- Twitterアカウント(@wmaniken)
- 第53回 やっぱり紙媒体も大事!あきる野市議会の議会報リニューアルと今後
(東京都あきる野市議会議員 子籠敏人氏/LM推進地議連会員)
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