第62回 “未来”に向かって“実践”しながら一歩ずつ進める観光地域づくり  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第62回 “未来”に向かって“実践”しながら一歩ずつ進める観光地域づくり (2021/10/13 上越市産業観光交流部観光交流推進課企画係 主任 見波大輔)

関連ワード : 上越市 人材育成 公務員 新潟 

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

     ◇

 2019年に人材マネジメント部会に参加するという機会をいただき、当初は「出張で東京に行けるし、全国の自治体の人とも仲良くなれる」と安易に考えていましたが、初回の部会帰りに「実は大変な会に参加してしまった。これからどうなるのだろう」と急に不安な気持ちに駆られたことを今でも思い出します。

 しかし、元々楽観的な性格もあり、さらに、部会を重ねるにつれ、自身の2019年度のメイン業務だった新たな観光振興計画の策定にかなり役立つ思考法やワーク手法が盛りだくさんであることに気が付き、いつしか前向きに部会に臨んでいる自分がいました。

 今回せっかくこのような機会をいただきましたので、まだまだ道半ばではありますが、「上越市観光交流ビジョン」とそれに基づく取り組みである「観光地域づくり実践未来塾」の事例をご紹介させていただきます。
※あくまでも「私見」が大半ですので、全てが公的な見解ではないことをあらかじめお含みおきください。

“上越新幹線”は上越市を通っていない!?

 そもそも上越市は新潟県のどこにあるのか、どうやって行くのか、皆さんはご存じでしょうか?

地図

 少しこの図をご覧ください。位置やアクセスのほか、私自身が学生時代や旅行会社勤務時代に首都圏の友人やお客さんからよく言われたことと、それに対する“心の声”も書いていますが、もしかしたら皆さんも中にも私の友人のように思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 この“心の声”をつぶやいているうち、“もっと上越市をPRしたい!市の観光に携わりたい!”との思いはじめたことが、旅行会社を経てUターンして転職するきっかけとなり、北陸新幹線開業(2015)を控えた2012年に上越市に転職することとなりました。

 入庁後は、広報対話課で広報上越の作成、新幹線・交通政策課で北陸新幹線の開業、その後、国土交通省自動車局旅客課へ出向し、バスやタクシー分野のインバウンドやMaaS関係に携わり、2019年から観光交流推進課と、ありがたいことに興味のある分野で仕事をさせてもらっていますが、今思えば、この転職を決めたときが自分の人生の中で最初の「踏み出した一歩」だったのかもしれません。

一歩を踏み出し続けたビジョンづくり

 さて、それでは本題に入りたいと思います。

 まず、上越市観光交流ビジョンの策定についてですが、今回は策定プロセスの中で部会に参加したからこそ「一歩踏み出せたこと」「実践したこと」を中心にご紹介できればと思います。

 その前提部分としてのお話ですが、今回新たに策定する計画は、従来の計画のように「行政」がどのような取り組みをするのかということを示すものではなく、市内で観光に取り組む各担い手(プレイヤー)が、共感することのできる理念を共に掲げ、地域一丸となって観光の取り組みを推進できるような“ビジョン”を示すというコンセプトで策定を進めることになりました(ここには記載できずに残念ですが、そこに至るまでに部会で学んだ現状分析の手法を使って、当市の観光を取り巻く環境の分析やありたい姿に関する議論を内部で何度も重ねてきました)。

 そのようなビジョンを示すためには、限られた人数で開催する策定検討委員会とは別にもっと多くのプレイヤーからビジョンづくりに参画してほしいと考え、当初予定になかったワークショップ(以下、WS)を開催し、「何のために観光に取り組むのか」「10 年後どのような観光地域でありたいか」など、そもそもを考えるところから取り組み始めました。

 そして、このWSこそ、自分の中で一歩踏み出したことがたくさん詰まっており、また、部会で学んだことを実践する場となりました。一例は以下の通りです。

やってみたこと

やってみたこと

 このようなことを実践しながらWSを計3回実施していくうちに、ある参加者から「WSで同じグループになった5人くらいで後日集まって、互いの強みを生かしながら連携した事業を企画している」と教えてもらい、その打合せの場にも同席させてもらいました。民間事業者同士で新たな第一歩を踏み出すきっかけづくりができたということは素直にとても嬉しかったと今でも覚えています。

 そして、このWSが母体となり、上越市観光交流ビジョンに基づいて観光に関わるプレイヤーがそれぞれの立場でアクションする、すなわち「実践」する場として、「観光地域づくり実践未来塾」を立ち上げることとなります。

コロナ拡大と共にスタートした観光地域づくり実践未来塾

 それでは続いて、上越市観光交流ビジョンに基づく観光地域づくりのメイン事業のひとつ、観光地域づくり実践未来塾のご紹介をします。
ここではまず、ビジョンと実践未来塾の関係性を“人材マネジメント部会風”に示してみました(令和4年度以降のアクションはあくまでも私案ですが・・・)。

コロナ拡大と共にスタートした観光地域づくり実践未来塾

コロナ拡大と共にスタートした観光地域づくり実践未来塾

 さて、この実践未来塾。令和2年4月にスタートしようとした矢先、いきなり困難にぶち当たります。そう、新型コロナウイルス感染症です。全国どこの地域も観光業は大打撃を受け、自治体の皆さんも本来業務の軌道修正+コロナ対策に尽力をされていることと思います。

 実践未来塾も漏れなくその影響を受け、走り出し当初から軌道修正を余儀なくされました。具体的には、以下のとおりです。

新型コロナウイルス感染症により軌道修正したこと

新型コロナウイルス感染症により軌道修正したこと

 このように軌道修正を余儀なくされ、思うような活動ができずジレンマがありましたが、その中でも進み続けることによって、コロナ禍だからこそ身に付けられたこともありました。その代表的なものが、ZoomとYouTube Liveを組み合わせた「オンライン」(しかもライブ配信)による講座の開催です。

 令和2年度はリアルで開催することが叶わず、オンラインでの講座を2回開催しましたが、他課の先輩が上記手法でオンライン講座にトライしており、幸運にも教えてもらうことができましたし、マネ友スキルアップ講座でオンラインファシリをテーマとしたものがありましたので、それを受講したことで何とか乗り切ることができました。

 そして、令和3年度に入り、今年度のキックオフの講座を8月3日に開催しましたが、約2年ぶりのリアル開催ということもあり、冒頭のイントロダクション部分でマイクを持ち、皆さんの前に立った時、こんな苦しい中でも参加してくれた参加者の皆さんの顔を見て、思わず込み上げてくるものがありました。

 さらに、キックオフということで、コロナ禍により非常にダメージを受けている市内事業者の皆さんが、現状分析をしっかり行い、実践に向けしっかり前を向いて一歩を踏み出せるような内容の講座にしたいと思い、部会で担当してもらうことが多く、大変お世話になった伊藤幹事に講師をお願いしました。残念ながら当日はお越しいただくことが叶わず、オンラインでの開催になりましたが、遠方の講師と当地で連携したワークショップ運営を経験することができ、非常に自分自身も勉強になりましたし、何よりも参加者の皆さんの多くが前向きな気持ちになれたというアンケートをもらえたことが嬉しかったです。

 最後にもうひとつだけ、実践未来塾で工夫していることをご紹介します。

 講座参加者に振り返りをしてもらいたい、また、担当者の素直な気持ち(や裏話)を伝えたい、さらに参加できなかった方にも様子を伝えたいという思いから、今年度からニュースレターを作成したとともに、実践未来塾に親しみを持ってほしいという観点から、オリジナルアイコンも作成しました(ご覧のとおり、ピクトグラムが東京オリンピックの開催式で話題となったので、全力でのっかっています 笑)。

ニュースレター

ニュースレター

今後の展望

 長くなってしまいましたが、「上越市観光交流ビジョン」とそれに基づく取り組みである「観光地域づくり実践未来塾」の事例や、担当者としての思いなどをご紹介してきました。

 この取り組みはまだ道半ばで、特筆できる成果をあげているわけではありませんが、事業者さん同士ですでにいくつか話が進んでいる、新しい仕掛けを考え始めたなどのお話を耳にするなど、芽は出始めていると感じています。

 新型コロナウイルス感染症の影響で観光を取り巻く環境の先行きが全く不透明ではありますが、“観光”という本来であれば、来る人も迎える人も“楽しい”活動を通して、民間事業者の皆さんの“実践”に伴走しながら、この取組を進めていきたいと思いますし、走りながら事業者の皆さんと一緒に最適な解を見つけていきたいと思っています。

 そのためにまずは令和4年度のアクションとして考えた新規事業を“実践”するためにチャレンジ(提案)して、乗り越えたい(予算化したい)と思います!

上越市職員 見波大輔さん

上越市職員 見波大輔さん

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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