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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第44回 「まちの元気はまず職員から」~地方創生時代における藤枝市の「人財育成」 (2018/9/28 静岡県藤枝市 産業振興部 中山間地域活性化推進課 係長 河原崎慎也ほか)

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「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

◇        ◇

私たちは、2017年度に人材マネジメント部会(以下、「人材マネジメント部会」)に参加した3人で、現在もチームとして活動を継続している。

人材マネジメント部会に参加した3人

人材マネジメント部会に参加した3人

藤枝市の現状

 藤枝市は、北村正平市長の市政がスタートして10年。人口減少が進む社会にあって、10年連続で転入超過を達成している。藤枝駅を核とした中心市街地の活性化と、市民生活の基本となる「健康」「教育」「環境」「危機管理」の「4K施策」を重点的に取り組んできた成果だ。日経BPが公表している「シティブランド・ランキング―住みよい街2017―」でも県内1位になるなど、「選ばれるまち」へと歩みを進めている。

 これは、市長が掲げた「まちの元気はまず職員から」の理念により、市職員を財産と位置付け、職員の熱い志と創意工夫を引き出し、やる気を育む人“財”育成が図られてきたことによる。2011年には、人財育成基本方針が策定されて研修事業自己啓発制度が充実し、キャリアデザインの支援が行われるなど、自らが望めば成長・活躍できるチャンスが格段に増えた。また、職員は、それら機会を活用し、気づきと学びの場を得て成長するきっかけとしてきた。

 10年前の本市は、市立病院の経営不振や、市債残高の増加による財政圧迫など、市全体がまちの将来に対して閉塞感を感じていた。この時に抱いていた危機感が、その後の変革を促したといえる。現在、本市の魅力を高める様々な施策の展開と情報発信により、着実に成果を生み出し、多くの職員が目的を達成するための力と自信を得てきているとも感じている。

 しかし、日本社会全体が少子高齢化、人口減少などの課題と、急速なICTの進展という大きな転換期を迎え、本市においても更なる組織変革が求められている。

 この未曽有の時代に、組織全体から見れば小さな活動であるが、私たちが組織変革に向けて続けているチャレンジを報告させていただく。

採用2年目職員との対話

 組織課題は、職場内の関係性(コミュニケーション)、管理職のマネジメント、事業の適切化、ワークライフバランスなど、本市においても顕在化しており、職員それぞれが組織の抱える課題に向きあっている。実際に、本音を話す場になれば、孤立や不安を感じ、努力すべき方向を迷っていることを語る職員がいる。

 そうした中で、私たちが、人事課と連携して2年目職員に対してフォローする機会を作れたのは、人財育成に注力する本市の強みでもある。これは、私たちが人材マネジメント部会に参加して得た「気づき」を実行し、また、その「気づき」を2年目職員に研修の機会を通じて伝えたものだ。

 採用2年目職員を対象としたのは、「入庁前と入庁1年後で、ギャップを感じている職員が多いのではないか」という仮説を立てたからだ。この仮説から研修の狙いを次の3つとした。

  1. 「職場を良くしたいという思いは、誰もが同じであるということ」の共有
  2. 「組織変革は、自分の小さな一歩から始まるということ」の気づき
  3. 先輩職員との「ななめの関係」を築き前向きな気持ちを生み出すこと

 研修は、職場(組織)の「ありたい姿」を創造する重要性、およびそれを実現するための方策について、自分自身で考え、また、そのことについて同じ境遇の仲間と対話することにより、「お互いに刺激・協力しあう関係性を生み出し、全体的な底上げにより成長できる」と考え、次の構成とした。

  1. ボールワークによる気づき(目標による思考と行動の変化)
  2. 入庁後1年経過して(ワールドカフェ:振り返りと共有)
  3. 理想の職場と出来ること(グループワーク:ビジョンの構築、対策)
  4. 行動することの決意表明(個人ワーク:決意表明)

 この研修に参加した職員が得た気づきは、私たちの想定を超えていた。また、お互いの意見に向き合い、探求したとき、自分たちが進むべき行動(決意)に力強さが生まれた。

 以下は、2年目職員の振り返り(抜粋)である。
※なお、研修の詳細は、人材マネジメント部会の2017年参加者論文に掲載されているので、ご覧いただきたい(http://www.maniken.jp/jinzai/bunken/)。

研修の様子

研修の様子

<参加者の研修の振り返りの内容>
【Aさん】
職場の姿、それを実現させるために決意したことを語り合えるのはとても新鮮で、自分の知らない同期の姿を垣間見られたように思いました。若手だからこそ気づく点があると思います。変えるべきところを下の立場からも積極的に提言することで、自発的に環境を変えられるよう心掛けたいと思います。

【Bさん】
「今の部署では市民と接する機会がほとんどない。今はこれでよいかもしれないが、今後の異動のことを考えると市民対応の経験不足は非常に不安であり、危機感を感じている。」と言った同期の職員がいた。そこまでの意識や危機感もなく働いていたので、私も見習っていかねばならない。

【Cさん】
人によって成長の度合いが異なると感じた事です。グループワークが進む中で話をしなかった人が積極的に意見し、話すことが苦手な人がメモに要点をまとめてから話すなど、自分の成長のために工夫を行っていたからです。この研修で刺激を受けたことは、同期たちの成長した姿、または成長しようと改善する姿が見られて、自分自身も負けていられないと思ったことです。

【Dさん】
今まで、同期と失敗談や不安なこと、職場の強み弱みを議論するような場はあまりなかった。今回の研修で、心構えやあるべき姿の情報を共有できたことで、自分が恵まれた環境にいること、これから職場環境が変わっていっても前向きに仕事に取り組む必要があることを再認識できた。

【Eさん】
「大変な思い=成長であり、成長できる人は限られている」という言葉が印象に残りました。大変というネガティブな言葉をポジティブな考え方に変えているところに共感が持てました。自ら挨拶をして雰囲気の良い環境を作ることや、仕事が忙しそうな職員に対して自らが声をかけて仕事を手伝い、新規採用職員が質問をしやすい雰囲気を作ることを心掛けていきたいです。

 このような関係性を生み出すコミュニケーションが組織内に生まれたとき、その組織が人財とともに発展・成長できる可能性を感じた。私たちの活動の方向性として、手応えを感じた瞬間でもある。

「仕事と子育ての両立について考える」オフサイトミーティング

 働きやすい職場の実現を目指して、多くの職員が家庭を持ち、妊娠から出産、子育ての過程を経る中で、「仕事と子育ての両立で悩んでいる職員がいる」、「子育てのための休暇が取りにくい職場がある」という仮説のもと、育休中の父親・母親職員をメインターゲットにオフサイトミーティングを実施した。

オフサイトミーティングの模様

オフサイトミーティングの模様

 当日は、育児中の職員に加え、子育て先輩職員、未婚・子どものいない職員にも参加していただき、育休から仕事へ復帰する際の不安や悩み、同僚が産休・育休を取得する際の対応、そもそもの子育ての悩みなど、あらゆる立場から多種多様な対話が行われた。

 職員の子ども達も参加した和やかな雰囲気の中、休暇を取得する側の背景、あるいは、休暇中に仕事をやりくりする同僚・上司の受け止める想い等、お互いの理解が進んだという意見をいただいた。

これから目指すのは、プラスαの小さな活動

 今年度は、本市2期目の人材マネジメント部会参加者3名と共に2年目職員研修を実施した。年内には、オフサイトミーティングも実施する計画である。

 本市は、人財育成基本方針に基づいた職員の育成を支援する取り組みや、活躍の場の創出により、職員の成長が支えられているが、私たちの小さな活動からも職員が育ち、北川正恭先生(早稲田大学名誉教授、早稲田大学マニフェスト研究所顧問)の言う「北京の蝶々」となって、より住みやすい藤枝市への進化を支える人づくりが進んでいくかもしれない。

 組織内の関係性が希薄化した時、目の前の仕事を指示どおりに遂行して「自身の役割を果たした」と考える職員が増えることが懸念される。また、組織内の対話の機会が減った時、思い込みで目標を設定してしまうことも考えられる。

 私たちは、この活動をきっかけにして、組織内の関係性がより良くなり、「行動の質」が向上することを信じて、今後も活動を続けていきたい。

静岡県藤枝市 産業振興部 中山間地域活性化推進課 係長 河原崎慎也
健康福祉部 自立支援課 主任主査 山口雅義
産業振興部 農林課 主任主査 榛葉隆浩

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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