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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第40回 市民総参加型映画で「地域の未来をつくる人をつくる」みしまびと (2018/3/23 一般財団法人地域活性化センター=静岡県三島市より派遣 小嶋敦夫)

関連ワード : 三島市 人材育成 公務員 静岡 

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

映画を通じてひとがつながる場づくり

 「映像を切り口にまちづくりを!」

 地域の仲間と模索し始めたのが2014年の初頭。ショートフィルムのコンテスト開催など、様々なアイデアが浮かんでは消えるなか、映像業界で名を馳せたあるテレビ関係者から「素人が撮った映像は、自己満足や内輪受けの域をなかなか超えられないもの。いっそのこと、プロと組んで映画を作ってみたらどうか」とプロの矜持ともいえるアドバイスを受けたのです。

 仲間のなかに、地域を巻き込み制作された映画『ふるさとがえり』の自主上映会をしたことがある者がおり、そのつてで相談してみようということになりました。その映画の監督こそ、後にタッグを組むことになる林弘樹監督です。ちょうど監督たちも長編映画の制作の機会をうかがっていたこともあり、話はとんとん拍子に進みました。

 私はというと、仕事やプライベートで地域に関わる中で、三島市の市民活動がとても盛んな土地柄である一方で、様々な取り組みがぶつ切りとなっているところ、また地域で自己完結しようとするあまり、活動がやや小さくまとまっている点が気になっていました。

 もっと、市内外の“ひととひと”“ひとと団体”“団体と団体”が交流する場があってもいい。映画制作という強烈に人を引き付けるコンテンツが、そのきっかけにならないものかと考えました。でも、それは後付けの理由に近く(笑)、本当のところは、純粋に、「映画を作るなんて、今を逃したら一生できない経験だろうな、なにより面白そうだ!」と思ったのです。根がミーハーなもので…。長所なのか欠点なのかわかりませんが、私は、リスクに対する想像力も欠けているところがあり、その後、とてつもない苦労が待ちうけていることに、まったく思いは至りませんでした。

参加者1万人超えの「みしまびとプロジェクト」

 こうして偶然が偶然を呼び、思いもしなかった市民総参加型の映画づくりにチャレンジすることとなったのです。10人にも満たない仲間と始めたこの「みしまびとプロジェクト」は、2015年のNPOの設立を経て、延べ参加者1万人以上という大きなうねりに発展していきました。映画づくりは地域づくりの手段としながらも、作品のクオリティにもこだわり、全国でのロードショーや、国際映画祭のレッドカーペットを歩くことを目標に、地域一丸となって取り組みました。

ロケで交通整理中!

ロケで交通整理中!

 「みしまびと」の最大の特徴と魅力は多様性です。高校生からリタイア世代まで幅広い年代の、学生、主婦、サラリーマン、経営者、公務員など多様なバックグラウンドを持つメンバーがつながっています。

 とはいえ、私たちは映画制作については、まったくの素人です。そのため、映画づくりのコアな部分は少数精鋭のプロに委ね、それをプロジェクトメンバーがサポートするスタイルをとりました。仲間づくりや協賛金の募集、脚本作り、ロケハン、必要物品集め、ロケ弁づくり…。できるだけお金を使わず、一つひとつ、クリアしていきました。また、脚本、企画ありきの商業映画と異なり、多くの市民の参画により地域資源を掘り起こし、テーマ、脚本をゼロから練り上げたことで、いわゆるご当地映画とは一味違う、家族がテーマの物語性の高い作品となりました。

 構想段階から丸2年かかって完成した映画『惑う After the Rain』は、念願かなって、2016年に全国の主要都市でロードショーされるとともに、5つの国際映画祭に正式招待されました。なんとロサンゼルスのユニバーサル多文化映画祭では栄えあるグランプリを受賞するというサプライズも。

映画「惑う_After_the_Rain」ポスター

映画「惑う_After_the_Rain」ポスター

 私は、この映画を20回以上見ましたが、好きなシーンはエンドロールです。関わった仲間の名前を見ると、こみあげるものを抑えることができません。私たち凡人には、ゼロイチで派手にイノベーションを引き起こすことなど、まず不可能です。面倒で時間がかかること(多くの場合、誰もやらないこと)に、愚直に取り組むことでしか、他に真似できない本物の価値を生み出すことはできないのだとつくづく思います。

 みしまびとのビジョンは「地域の未来をつくる人をつくる」こと。次世代育成というと、若い世代を対象に事業を行うイメージがありますが、むしろ暗い話題ばかりで夢を持ちにくい世の中だからこそ、“大人が本気で楽しんでいる姿を見せること”そのものが、最高の次世代育成になると考えています。映画が評価されることはもちろんありがたいのですが、この“大人の部活”ともいえる活動を通じて、若い世代が10年後、20年後の自分をイメージできるようになったとしたならば、こんなにうれしいことはありません。

みしまびとのこれから

 国際映画祭出品や劇場公開がひと段落した現在は、各地での自主上映会の開催を通じて映画とその制作プロセスを発信するとともに、次のプロジェクトに注力しています。目下、三島のまちなかにある廃園となった市立幼稚園をリノベーションし、コワーキングスペース、キッチン付きレンタルスペースやカフェ、学生の活動拠点などからなる交流の場「みしま未来研究所」の整備に向け準備中です。

 映画は、ひとがつながるソフト的な場づくりでしたが、次のステップであるハードとソフトを融合したこの常設の拠点が、さらに多くの多様な人材が集い、交流する触媒となればいいなと思っています。

ロケ集合写真

ロケ集合写真

地域づくりは「お風呂に入ること」と似ている

 みしまびとプロジェクトのスタート時、私は三島市健康づくり課の所属で、プライベートの地域活動として関わっていました。ところが、事業が具体化するうちに、市制75周年記念事業として市も支援することが決まり、商工観光課に異動し市側の担当も兼ねることになりました。時に板挟みに葛藤することもありましたが、どちらの立場で関わっているのか、上手く区別できない状態こそが自分が関わる価値だと割り切って楽しむことにしました。

 少し変な例えですが、地域づくりは「お風呂に入ること」と似ています。私はお風呂が大好きなのですが、疲れていたりすると、面倒くさく、先送りにしてしまうこともあります。でも、いざ入ると心地よく、「もっと早く入ればよかった」と思うことこそあれ、「入らなければよかった」と後悔することはありません。やって後悔することより、やらずに後悔することの方が、ダメージは大きいもの。失敗は、時が経てば笑い話に昇華したり、酒の肴になったりしますが、やらなかったことは、心の澱(おり)やコンプレックスにしかなりません。まずは、小さな一歩を踏み出してみることです。

 最近、公務員の副業や地域活動を後押しする制度の整備や機運醸成の議論が盛り上がり、とても喜ばしい流れだなと思います。ただ、最終的には、一歩踏み出す自分自身のハートの問題です。ひとりで難しければ、思いを共有できる仲間とともに、ぜひ地域づくりという“湯船”にどっぷりとつかってみてはいかがでしょう。

公務員のイメージを変えよう

 私程度のレベルでも、よく「公務員っぽくないね」とか「市役所の人じゃないみたい」などと言われます。素直に喜んでいた時期もありましたが、最近はむしろ、誉め言葉の文脈でそんな言われ方をする公務員業界を悲しく思うのです。

 あくまで私見ですが、役所の仕事の7~8割は、市民の生活を守る大切なルーティンワークで変えにくい部分だけど、残りの2~3割は、単なる前例踏襲の繰り返しではないかと思います。やり方を変えたり、やめてしまうべきだったりと、改善の余地があるはずです。

 例えば、ここにゴミ箱があると邪魔だから、あっちに動かそうでもいいのです。そこにあるのが当たり前と思ってしまうと思考停止し、何も始まりません。変えることばかりが仕事ではありませんが、評論家にならず、常に当事者として課題意識を持ち、その解決にチャレンジし、小さな成功体験を積み重ね、皆で共有していくこと。その喜びは、いわば脳内麻薬のようなモチベーションとなり、段々と大きなチャレンジにつながっていき、いつか本物のイノベーションを生み出すことができるはずです。そんな取り組みの輪が広がることで、行政や公務員に対するイメージも徐々に変わっていくことを願ってやみません。

“横串人材”を目指そう

 現在、私は、一般財団法人地域活性化センターに派遣され、北は北海道、南は鹿児島からの自治体から集った仲間とともに仕事をしています。主な担当業務は、地方創生に向けた地域づくりの担い手の人材育成です。

一般財団法人地域活性化センター(静岡県三島市より派遣) 小嶋敦夫さん

一般財団法人地域活性化センター(静岡県三島市より派遣) 小嶋敦夫さん

 自治体における人材育成は、入庁年次や役職ごとの階層研修、分野ごとの専門研修を中心に進められてきました。しかしながら、地域における課題が多様化、複雑化するなか、従来の縦割り、前例踏襲による対応では、成果を生み出しにくくなってきています。こうしたなか、地域のヒト・モノ・コトを横につないで、小さなイノベーションを積み重ねていける人材(地域活性化センターでは“横串人材”と呼んでいます)の育成こそ重要だということで、セミナーの企画や個別自治体の人材育成のお手伝いなどをしています。

 この仕事では、人材マネジメント部会での多くの仲間との対話を通じて、行政組織の在り方や公務員の仕事の在り方を深く考えたことが、とても役立っています。これまで現場のプレイヤーとして仕事や活動をしてきて、中間支援的な立場は初めてなので、戸惑うことも多いですが、ファシリテーター、コーディネーターになるための良い経験と思い、日々奮闘中です。

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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