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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第37回 これまでの経験が「次はどうやろう」と考える原動力~玉名市 公共施設省エネ化の取り組み (2018/1/4 熊本県玉名市建設部営繕課 亀丸 翼)

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

「営繕課」への異動

 市役所に入って初めての異動を経験したのは、熊本地震のあった2016年度。それまでは秘書課で広報広聴業務を担当していましたが、異動先では市の建築関係を所管する営繕課という部署に異動になり、そこで「公共施設マネジメント」を推進する係へ配置されました。

 「公共施設マネジメント」という言葉、行政関係の皆さんならよく耳にすると思われます。高度経済成長期に一気に建設されてきた公共施設が、今度は一斉に更新時期を迎えだしたのです。現状の公共施設の総量をそのまま維持しようとすると、待っているのは自治体の財政破たん…。そこで、公共施設のより良い姿を考えようというのが公共施設マネジメントです。

 その中で、私の担当業務は、施設の運営にかかる費用を減らすこと。つまり、「公共施設をいかに少ないエネルギーで使いやすい建物とするか」「いかに省エネ化させることができるか」を考える業務です。

異動したてのころ

異動したてのころ

公共施設の省エネ化の必要性

 ところで、公共施設で消費するエネルギーは、電力が主になります。電力は発電所で作られますが、原料の採掘の際に、また火力発電なら発電時に、二酸化炭素が排出されます。つまり電力を使用することは二酸化炭素を生み出すということになります。

 地球温暖化の原因となる二酸化炭素。世界で5番目に二酸化炭素排出量の多い日本は、2015年、フランス・パリにおいて、京都議定書以来となる、国際的な合意「パリ協定」を結びました。それに基づき政府は、日本が出す温室効果ガスの量を、2030年度までに2013年度比で26%減とする約束草案を定めました。それに併せ、国内の企業などそれぞれの分野で目標値が定められ、自治体が管理する公共施設においては、2030年度までに40%削減することを目標として掲げられています。つまり、公共施設での電力などのエネルギー消費について、現在の半分程度までにする必要があります。

 老朽化問題については、本市の現在の財政状況からすると、公共施設の総面積を40%削減しなくてはならない。また温暖化対策の問題については、これまで使っていた電気などのエネルギーを40%削減しなくてはならないという状況です。

 皆さんの自宅で想像してみてください。家の面積を6割程度に減築する必要があり、なおかつこれまで使っていた電気やガソリンの燃料代を6割程度まで節約する……どれだけ困難な問題が私たちに迫ってきているか、伝わるでしょうか。しかもこれを自治体という、様々な立場の人たちが暮らす大きな集まりの中で実践していく必要があります。

 私たちの部署では、これらの背景を踏まえ市の施設のありかたを検討し、その中で、私は市の公共施設の省エネ化を検討しています。

劣化が進んだ空調設備などは、コストパフォーマンスも悪く省エネを妨げます

劣化が進んだ空調設備などは、コストパフォーマンスも悪く省エネを妨げます

「意義は理解できるけど…」

 しかし業務を進めるにあたり、現在大きな課題があります。それは「環境問題」として一括りで人に伝わってしまい、職員の関心を引けないこと、逆に遠ざけられてしまうということです。公共施設マネジメントと温暖化対策という複数の分野にわたる話は、なかなかとっつきづらく、聞きなれた「環境問題」として受け取られてしまうようです。

 そして環境問題となったとたん、「意義は理解できるけど、環境関係は環境問題担当の部署がやればよい」だとか「環境問題の改善には、何か辛抱しないといけないのだろう」とか、敬遠されてしまいます。その原因は、環境問題という漠然したイメージが「自分の業務とは無関係だな」と感じさせているのだと思われます。

 老朽化問題や温暖化対策などの背景から、施設にかかるエネルギー管理がどんな建物でも必要となった今、いかに職員へその重要性と理解を促すか。そこで私は、人材マネジメント部会で学んだことを意識して取り組んでみることにしました。

老朽化が進む公共施設。時にはこんな状態の箇所も

老朽化が進む公共施設。時にはこんな状態の箇所も

 まずは、「市の施設を将来どうしたいのか」という取り組みのビジョンを、自分の中で考えることとしました。そして考えたのが、冒頭でも述べましたが「少ないエネルギーで使いやすい建物としたい!」というシンプル、かつ温暖化というワードをいったん除いたものにしました。

 まずビジョンを定めようと思ったのは、専門で取り組んでいる自分がビジョンを描けないのであれば、話を聞く職員も目的がイメージできずに、結局は「環境問題」「我慢」といった漠然としたイメージしかできないと思うからです。また自分のビジョンがはっきりしていれば、話をしている相手は「何に抵抗を感じているのか、理解が難しいと感じているのか」といった課題も浮かびやすくなります。

 特にこのエネルギー管理という分野は大変広く、またさまざまな分野と重なる話であるため、こちらが「こういう点に重きを置いている」ということをはっきり伝えることができなければ、お互い違う場所で話をしている、すれ違いが起きてしまいます。「こういう目的」に対して「こう皆で取り組んでいきたい」という具体的な取り組みのビジョンを持っておくことが、人と一緒に物事を進める際に重要になると思います。

 また温暖化というワードをあえて外したのも、環境問題という思い込みを避けることと、やりたいことを単純化したかったのでそうしてみました。特に温暖化という言葉については、ほかの職員から「なぜ営繕課が環境課みたいなことをやっているの?」と聞かれることもあったため、はたから見てもわかりやすくしたかったという気持ちもあります。

自分の経験を活かし啓発紙を活用

 また自分のこれまでの経験で活かせるものがないか、というのも考えてみました。「自分ならこういうやりかたができる!」というものを考える際、ちょうど係で、職員向けの施設管理の啓発を始めようと思っていたところであったため、前部署で広報紙作成を担当してきた経験が生かせるのではと思いました。

 情報発信の重要性は、広報広聴担当だった際に十分に理解しているつもりです。そんな自分なら、建物というとっつきづらい話を、読みやすい紙面にすることができるのではないか。単に公共施設の維持管理の啓発を行うだけでなく「自分たちはこういう業務を行っているんだ!」ということを、ほかの職員に広めることができるのではないか、と考えました。

 実際に啓発紙を作り、庁内LANで公開したところ、多くの職員から声をかけてもらえました。現在も定期的に発行しており、自分らの業務を知ってもらうことで、人を巻き込みやすい土壌を作るきっかけにできていると思います。

啓発紙

経験を活かして作成した啓発紙

これまでの経験が「次はどんなふうにやってみようかな」と考える原動力

 こういった取り組みを行っていく中で、少しずつですが、他の課の職員の方に、自分の業務がどういうものかということが伝わって行っていると感じています。しかし、課題ももちろんあります。ここまでに挙げたことをすべて実践できているかというと、まだまだ到底目標には届いていません。むしろ逆に中途半端になってしまい、誤解を与えかけてしまったこともあります。また、いまだに環境問題として一括りでとらえられてしまい、職員を巻き込むことに失敗が続いたりと、順調とは言い難い状況ではあります。

 ただ、部会で学んだこれまでの経験が、私の中で「次はどんなふうにやってみようかな」と選択肢を考え続けるよい原動力となっています。建物に環境という幅広い分野の話を人に伝え、協力してもらい、施設をマネジメントしていく。そのためには、よい手法や発想を考え続けることが必要なのではと感じています。結果としては少ないエネルギーで使いやすい建物を目指すことで、老朽化問題や温暖化対策を乗り越えたいと考えているわけですが、そのためには施設の所管課である職員との関係づくりや他職員への理解の浸透など、決して建物のことばかりを考えればよいわけではなく、当然ながら関係者同士の関係性のマネジメントが重要になります。こちらの考えだけを通そうと思っても、決してそれは通ることはありません。そのために、様々な方法やアプローチを考えることが大切で、それには部会で学んだことが生かせるはずだと実践しているところです。

熊本県玉名市建設部営繕課 亀丸 翼さん

熊本県玉名市建設部営繕課 亀丸 翼さん

 現在、私は温暖化対策に関して計画策定を行っているところですが、こちらもほかの職員の協力が欠かせません。さまざまな資料を集めて、調整して、計画を作って進めていく。そのためには、私の市ではどんな方法なら、職員を巻き込んでよい結果を残すことができるのかを考えていく必要があります。

 この部会に参加させてもらった自分が、公共施設マネジメントという部署に配属されたことは、自分にとってきっと何か授かりもののようなものだと感じています。この業務をとおして、部会で学んだことをいかに生かせるかを課題として、私自身、日々考えながらチャレンジしていきたいと思います。

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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