難病の子どもと家族を地域でサポート―鳥取の小児在宅支援センターでOJT始動! (2017/5/23 政治山)
医療技術の進歩に伴い、新生児・乳幼児の死亡率は減少傾向にあります。低体重児、未熟児等、救える命が増える一方で、在宅での人口呼吸管理症例は増加傾向にあり、国内には難病の子どもが20万人、医療的ケアが必要な子どもが2.5万人以上存在すると言われています。
2016年11月に鳥取県と日本財団は「難病の子どもと家族の地域生活支援」の一環として、鳥取大学医学部附属病院(鳥取県米子市)に小児在宅支援センターを開設しました。同センターでは難病の子どもと家族の地域生活を支援するため、小児在宅ケアの対応と関連機関との連携ができる人材の養成を目的としています。
今年4月に鳥取県内の医療等に関わる人材の専門性および実践力を強化、小児在宅ケアシステムの構築を推進するためのOJT(On the Job Training)プログラムをスタートし、訪問看護師、理学療法士、ソーシャルワーカーら計10人がエントリーしています。同プログラムでは支援者のニーズに合わせて以下3パターンのトレーニングを提供しています。
- 訪問診療・訪問介護ステーション・訪問リハビリ同行
- 福祉事業所、特別支援学校への訪問支援
- 鳥取大学医学部付属病院脳神経小児科、在宅外来でのトレーニング
同プログラムは6カ月を基本とし、研修者のニーズや課題をもとに研修目標を設定し、達成のためのプロセスを段階的に進める内容になっており、修了後も小児在宅センターのスタッフによるフォローアップを受けることができます。
プログラム開始直前に玉崎章子副センター長と今川由紀子職員にお話をうかがいました。
――研修生がプログラムにエントリーした理由を教えてください。
エントリーしてきた研修生は介護や看護に携わっており、難病を患った子どもの保護者から在宅ケアをしてほしいと相談を受けたようです。小児医療の専門知識なくて引き受けるか困っていた所、小児在宅支援センターの案内をみて応募されたそうです。
――通常の高齢者在宅ケアでは、医療保険、介護保険などの制度が関係します。子どもが対象の場合は児童福祉法、子ども・子育て支援制度、などが関係すると思いますが、どのような知識が求められるのでしょうか。
子どもの場合はライフステージに応じて必要なケアは異なります。例えば子どもや保護者から幼稚園や学校に進学したいと相談された場合、専門家は特別支援学校や特別支援学級の有無や制度を把握していなければ、相談に応じることや関係機関を紹介することができません。医療的な点でいえば点滴等、大人と必要な量が異なりますから、そういった知識になります。
――子どもの進路相談などの担い手としても期待されているのですね。将来的には就職支援などの役割を担うこともあるのでしょうか。
専門家同士が連携することでそれも可能だと思います。障害や症状は患者によって異なりますが、医者は医学的な知識をもとに能力や特性について説明できます。体は不自由でもバリアフリーの設備が整った企業では、なんの支障もなく働くことが可能な子どももいます。しかし、雇用する企業側が同じ見解とは限りませんから、双方がディスカッションし、適切な受け入れ先を紹介することができると良いと思います。そのためには専門家が一人で抱え込むのではなく、各専門家・関係機関と連携できる関係性が必要になります。
――研修生がトレーニングを受けるメリットについて教えてください。
子どもの保護者には、訪問ケアに否定的な方もいます。その理由は小児医療の専門知識のない看護師が在宅ケアをして大丈夫なのか?という不信感によるものが大半です。研修生が鳥取大学医学部附属病院のトレーニングを受けると保護者に説明したところ、安心して子どもを任せられると言われたそうです。
――ニーズや課題をもとにトレーニング内容を組み立てられているとのことですが、研修生やその他医療従事者からはどのようなニーズがあるのでしょうか。
昨年の12月に「地域で一緒につくろう!難病の子どもと家族支援」というシンポジウムを開催しました。その中で医療従事者、患者とご家族が交流するワールドカフェを行い、参加者が感じる地域の課題をテーブルに書き出して、意見交換をしたのですが、そこで車椅子の人は好きなときに外出ができないという課題が挙げられました。
これは予定していなかったのですが、参加者の理学療法士が外出支援をしたいと名乗り出てくれました。課題が全部片付かなくても、個々の課題をサポートしてくれる人を発掘してマッチングする手ごたえを感じました。日本財団のユニバーサルデザインタクシー(※1)を活用して外出支援等もしたいと考えています。
最近は研修生から子どもとのコミュニケーションに悩んでいるという意見がありました。看護師は普段大人を相手にしているので、子どもとの関わり方でつまずいているようです。技術は学校で学べるのですが関わりかたは現場で覚えるしかありません。保護者も家庭では看護師のような役割をしていることもあって、子どもとの遊び方について悩んでいる方も多いのです。遊びがテーマの場合は、保育士やデイサービスとの連携も視野に入れる必要があります。
6月4日に「キッチン610」というバリアフリー設備の整ったカフェで「子どもとの遊び方」をテーマにセミナーを開催します。これから現場から課題やニーズがいろいろと出てくるでしょうから、それらをトレーニングやイベントに組み込みたいと思います。
――小児在宅患者は鳥取県に約500人いるとのことですが、小児在宅支援センターと修了生で県内をカバーできるのでしょうか?
自分たちだけでカバーするのは困難なので、人材の裾野を広げるためにも修了生が専門家を育成する立場になってほしいと思います。隣接する島根県からも訪問介護先に同行してほしい、子ども向けの知識を教えてほしいと要望がきております。在宅ケアが求められている時代なので、鳥取モデルを確立して隣の県へ発信していけると望ましいと思います。大学病院には脳神経小児科があるので、専門医療を提供できますが、バトンを渡せず、広げることができていませんでした。小児在宅センターが立ち上がってから、医療従事者だけでなく地域の様々な方から一緒にやりたいという声を頂いているので、取り組みを広げていきたいと思います。人を育てる=地域づくりであるということを日々感じています。
※1ユニバーサルデザインタクシー(以下、UDタクシー)は「日本一のボランティア先進県」を目指す鳥取県と日本財団の共同プロジェクトのひとつ。2017年1月迄に125台が鳥取県内に配備され、3年間で計200台を配備し県内を走るタクシーの4台に1台がUDタクシーに切り替わる予定。高齢者や障害者だけでなく誰もが安心して利用できる新たな“地域交通のモデル”として期待されている
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