ホットスポット・パトロールのすすめ―青パトフォーラム2016開催 (2016/10/12 日本財団)
「犯罪が起こりやすい場所」重点的に
全国青パトフォーラム2016開催
「地域の安心安全は自分たちの手で守る」という自主防犯の青パト(青色回転灯装備車)活動に携わる人たちが10月1日午後、東京・赤坂に集まり「全国青パトフォーラム2016」を開きました。主催したのは青パトの配備支援を続けている日本財団です。今年は「青パト活動の誤解と真実」をテーマに掲げ、犯罪社会学の専門家の講演・指導の下、ホットスポットと呼ばれる「犯罪が起こりやすい場所」を重点的に回るパトロール手法「ホットスポット・パトロール」について学び、今後の活動に生かしていくことを確認し合いました。
青パト活動とは、青色回転灯を装備する自動車を使用し、青色回転灯を点灯させて行う自主防犯パトロールのことをいいます。日本財団は登下校時の子どもの見守りや犯罪防止を目的に2008年度から、自主防犯活動に取り組む団体や、まちづくり協議会を対象に、青パトの配備支援を行っています。8月25日現在の支援実績は計226台。日本財団の青パト専用車は、警察庁の協力で白黒塗装の許可を得ています。
車両配備と併行して、安全・安心なまちづくりを支援するために年1回のフォーラムも開催しています。フォーラムは全国で青パトによる防犯活動に関わる方々や、これから活動を始めたいと考えている方々を対象に、よりよいパトロールの手法を提供することで、地域の防犯活動の効果を向上させ、各地で安心安全な街づくり活動の拡大発展に寄与することを目的にしています。この日は日本財団ビル2階大会議室の会場に、北は青森県から南は沖縄県まで全国各地から約160人にも上る皆さんが駆け付け、フォーラムを後援する警察庁、警視庁からも計5人の来賓参加を得ました。
主催者を代表して尾形武寿・日本財団理事長が「少しでも安心・安全に暮らせる街づくり、老若男女、障害のある人ない人、みんなが普通に暮らせる、そういう社会づくりの一環だと思ってこの事業を行っています。青パトを全国に配備してきましたが、まだまだ足りないと思っています。今後もこれを続けていきます。けっして独り善がりな、自分だけがいい子になるような社会ではなくて、お互いがお互いを助け合えるような街づくりのために、今後も努力していくつもりです。皆さんの街づくりに私どももお手伝いをします。本日は十分に議論をされて、いろんな情報を仕入れてお持ち帰りください」とあいさつしました。
続いて犯罪社会学と犯罪心理学に詳しい小宮信夫・立正大学文学部社会学科教授(犯罪学)が「日本の防犯常識のウソ:真に効果的な防犯対策とは」と題して基調講演をしました。
小宮先生の著作で日本財団が編集・発行した資料「Hotspot Patrol」によると、犯罪学では、人に注目する立場を「犯罪原因論」、場所に注目する立場を「犯罪機会論」と呼んでいます。犯罪原因論は、犯罪の原因を明らかにしようとする「なぜあの人が?」という犯罪者を重視するアプローチです。これに対し犯罪機会論は、犯罪原因を抱えた人がいても、犯罪の機会(チャンス)がなければ犯罪は実行されないと考え、機会を生む、場所や状況など犯行現場を重視する「なぜここで?」というアプローチです。
海外では、犯行の機会の有無によって未来の犯罪を予測する犯罪機会論が、防犯の基礎理論になっています。しかし日本では犯罪機会論は全くと言っていいほど普及していません。犯罪が成功しそうな雰囲気を醸し出すのは、場所であり、状況であり、環境です。犯罪が成功しそうな雰囲気を作り出す場所・状況・環境には何らかの特徴があるはずで、その特徴こそ、犯罪の動機を抱えた人に犯罪が成功しそうだと思わせてしまう条件なのです。
日本ではパトロールと言えば、ルートを固定せず、パトロールを行うたびに、異なるルートで実施する「ランダム・パトロール」が一般的な方法です。しかし「ランダム・パトロール」は防犯効果が低いことが研究結果から明らかになっており、世界的には主流ではなくなっていますが、日本では数多く行われています。これに対し、より高い防犯効果があるとされるのが「ホットスポット・パトロール」です。
犯罪者が好む場所、言い換えれば犯罪が起こりやすい場所を見極めるための基準として「入りやすい」「見えにくい」というキーワードを意識することが防犯上まず必要です。犯罪機会論の中核的な概念のこの2つのキーワードを地域レベルで、集団的防犯としてフル活用するのがホットスポット・パトロールです。小宮先生はフォーラムで、この点を繰り返し、かみ砕いて説明しました。
午前中に少数希望者で実施したフィールドワークのまとめを、参加者を代表して大分県社会福祉事業団の久保田明義さんが発表しました。フィールドワークは日本財団近辺のコンビニ、駐車場、駐輪場、ガードレール、狭い道路、街灯、ビルの避難階段などを小宮先生の先導で見て回り、犯罪リスクの高い場所や、効果的なパトロールの方法を学びました。
久保田さんは、どういう条件の下だと犯罪が起きやすいか、逆にガラス張りの多用や道路と歩道との間のガードレールの導入、犯罪集団の打ち合わせ場所などに使用されやすい駐車場入り口の鎖1本の大切さなどを学習事例として報告し「日ごろ目にする景観に危険が潜んでいることを知りました。私が勤める社会福祉施設は地域の皆さんに支えられながら見守っていただいています。今後、当法人としても青パトを配備してパトロール活動を通して地域貢献できればと考えています。併せて犯罪者にプレッシャーをかけていきたいと思っています」と話しました。
最後に参加者全員でワークショップを実施しました。あらためて小宮先生の指導で、暗いトンネルや子どもたちが遊ぶ公園などの写真を見ながら、犯罪が起きやすい条件になっているかどうか、問題点を指摘し合いながら、この日学んだことの再確認や日ごろの青パト活動について情報交換を行いました。
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