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第5回自治体アンケート「共通投票所は次世代型投票所への一歩」島根大学合同調査より (2016/10/4 政治山)

 18歳選挙権ばかりが注目を集めた2016年6月施行の改正公職選挙法ですが、投票環境の向上に向けて「期日前投票の投票時間の弾力化」と「共通投票所制度の創設」といった大きな制度変更もありました。従来の期日前投票は8時半から20時まででしたが、最長で前後2時間づつ(6時半から22時まで)延長することが可能となりました。この投票時間の弾力化を実施したのは、1741ある自治体のうち70(4.02%)でした。

 共通投票所は、投票日当日に行政区内の有権者なら誰でも投票できる投票所であり、有権者はふだん投票する指定投票所と共通投票所のいずれか都合の良い投票所を選ぶことができます。総務省は設置にかかる費用を負担するなど促進を試み、4月の同省調査では206自治体が「共通投票所を設置すべく検討中」と回答していましたが、実際に設置したのは北海道函館市、青森県平川市、長野県高森町、熊本県南阿蘇村の4自治体(0.22%)にとどまりました。

(表)共通投票所の投票者数

 いずれの施策も多くの自治体に浸透したとは言い難い結果ですが、各選挙管理委員会ではどのような検討がなされたのでしょうか。政治山では、島根大学との共同研究の一環として8月22日から9月15日まで、都道府県を含む1788の選挙管理委員会を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、785件の回答を得ました。今回はその概要を紹介します。

期日前投票の投票時間を延ばしても効果は薄い

 まずはじめに、「期日前投票の投票時間の弾力化」(以下、弾力化)が多くの自治体で実施されなかった理由をたずねたところ、「利用者が見込めない」56.82%がもっとも多く、「選挙事務の負担増」17.58%、「従事者の確保」15.54%と続きました(グラフ1)。

(グラフ1)期日前投票の投票時間の弾力化で、もっとも大きな課題は何だと思いますか?

 次に、弾力化が投票環境の向上にどの程度効果があったかを聞くと、「効果はなかった」8.79%と「どちらかというと効果はなかった」16.05%を合わせた否定的な見方は24.84%で、「効果はあった」2.42%と「どちらかというと効果はあった」9.55%を合わせた11.97%を大きく上回りました(グラフ2)。

(グラフ2)期日前投票の投票時間の弾力化は、投票環境の向上にどの程度効果があったと思いますか?

 続いて、弾力化を拡大していくべきかという問いには、「拡大すべきでない」10.96%と「どちらかというと拡大すべきでない」15.92%を合わせた26.88%が否定的、「拡大すべき」1.66%と「どちらかというと拡大すべき」7.90%を合わせた9.56%が肯定的な見方を示しました(グラフ3)。

(グラフ3)期日前投票の投票時間の弾力化は、これから拡大していくべきと思いますか?

 政府や総務省の進める施策を真っ向から否定するというのは考えにくいことで、弾力化の効果や拡大については6割以上が「どちらともいえない」と回答しています。しかし1問目で「利用者が見込めない」と回答した人と、「その他」と回答した効果に懐疑的な自治体を合わせると、6割近くの自治体が弾力化は効果的な施策ではないと考えていることがうかがえます。

共通投票所には期待も設置に課題

 次に、「共通投票所の設置」(以下、設置)がほとんどの自治体で実現しなかった理由についてたずねたところ、「ネットワーク構築の費用」24.33%がもっとも多く、「不正投票防止の体制作り」18.44%、「選挙事務の負担増」14.75%、「従事者の確保」13.27%と続きました(グラフ4)。

(グラフ4)共通投票所が設置に至らなかった理由は何だと思いますか?

 続いて、設置が投票環境の向上にどの程度効果があるかを聞くと、「効果はある」10.96%と「どちらかというと効果はある」38.60%を合わせた肯定的な見方は49.56%で、「効果はない」2.42%と「どちらかというと効果はない」7.77%を合わせた10.19%を大きく上回りました(グラフ5)。

(グラフ5)共通投票所の設置は投票環境の向上にどの程度効果があると思いますか?

 さらに、設置を拡大していくべきかという問いには、「拡大すべき」4.97%と「どちらかというと拡大すべき」22.29%を合わせた27.26%が肯定的、「拡大すべきでない」4.71%と「どちらかというと拡大すべきでない」8.41%を合わせた13.12%が否定的な見方を示しました(グラフ6)。

(グラフ6)共通投票所の設置はこれから拡大していくべきと思いますか?

 上記の結果から、共通投票所の設置には一定の効果が見込めるものの、二重投票や不正投票を防ぐためのシステムと体制作り、そして費用との兼ね合いといった課題の解決が必要であると考えている自治体が多いことがうかがえます。これらの課題については、7月の参院選で共通投票所を設置した自治体の実績が、解決に役立つのではないでしょうか。

平川市方式は次世代型投票所の嚆矢(こうし)

 二重投票やなりすましを防ぐために共通投票所はネットワークで繋ぐ必要がありますが、函館市と南阿蘇村は従来の「物理的な専用回線」を用いて実施しました。一方、平川市と高森町はインターネット回線の一部を閉域網(特定の拠点間のみで通信可能)として用いるIP-VPNを「仮想的な専用回線」として使用、さらに平川市は無線での接続に踏み切り、事故なく参院選を終えました。

(図)物理的な専用回線と仮想的な専用回線のイメージ

 第一に物理的な専用回線に比べると仮想的な専用回線は導入コストが格段に安いこと、第二に駅や商業施設などに投票所を設ける場合は、専用回線を引くための工事や回線の維持管理について所有者との調整が必要となりますが、無線であればその負担が軽減されることから、平川市方式は次世代型投票所の嚆矢と言えそうです。

本調査レポートについて

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<著者> 市ノ澤 充
株式会社パイプドビッツ 政治山カンパニー シニアマネジャー
政策シンクタンク、国会議員秘書、選挙コンサルを経て、2011年株式会社パイプドビッツ入社。政治と選挙のプラットフォーム「政治山」の運営に携わるとともにネット選挙やネット投票の研究を行う。政治と有権者の距離を縮め、新しいコミュニケーションのあり方を提案するための講演活動も実施している。
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