特集「ネット選挙元年2013」
ネット選挙解禁でどう変わるのか?<候補者、政治家編>1/2
前回、ネット選挙の基礎知識から、導入で足かせになっているものや、有権者が何に注意するべきかなどを解説しました。今回は、候補者や政治家はこの変化にどう対応すべきか、戦略はどう変わるかのか、さらに選挙費用はどうなのかなどの具体例を交え、選挙プランナーの松田馨氏が解説します。
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ネット選挙で選挙費用は安くなるか
ネット選挙解禁の利点としてよく挙げられるのが、選挙費用が安くなるという点。私は、選挙費用は高くなるだろう、と予想しています。ネットでの選挙運動だけを行うのであれば費用を抑えることはできますが、候補者からすれば、「当選するために1票でも多く獲得したい」「できることは何でもやりたい」と思うもの。法律で認められたポスターやビラはこれまで通り活用しながら、ネットでの選挙運動も展開していくことになります。しばらくは、これまで行われてきた選挙運動とネット選挙運動の「ハイブリッド」になるでしょう。
また2012年に公職選挙法の新たな運用基準を公表し、ネット選挙運動が全面的に解禁された韓国では、各候補の選挙事務所に専門のネット選挙対策・SNS対策チームが置かれ、人手と費用を割いて対応していました。2012年のアメリカ大統領選挙において、オバマ選対では「ニューメディア」「テクノロジー」「データ」というIT関連だけで3つのチームを設置するなど、その位置づけは非常に大きなものとなっています。
アメリカや韓国は大統領選ですから規模も違いますが、日本でも本格的にネットでの選挙運動を展開しようと思えば、そのために一定数のスタッフや資金が必要なります。こういったことから、短期的には選挙運動にかかるコストや人手は増えると考えています。
ネット献金の普及に期待
オバマ米大統領が、2008年の大統領選挙においてネット経由で日本円にして約450億円、2期目の2012年には同約650億円の献金を集めるなど、「ネット献金」が政治資金の流れを大きく変える可能性を秘めているのは間違いありません。
日本でも『楽天LOVE JAPAN』が2009年7月27日から日本初のクレジットカードによるネット献金をスタートさせましたが、2013年2月26日時点で献金申し込みは4,015件、総額は5,052万126円に留まっています。アメリカと違って政治献金がまだまだ身近なものではないことや、VISAやMASTERCARDといったクレジットカード会社大手が参入していないこともあって、献金数も金額も、まだまだ多くはありません。
しかしネット選挙運動の解禁によって、ネット献金がこれから増えていくのは間違いありません。日本でも、候補者の工夫次第で、ネット上で献金を集めて選挙戦の資金をまかなえる時代が必ず来ると思います。
ネット選挙運動の解禁は当落を左右するか
ネット選挙運動の解禁に伴って、選挙戦の戦い方が変わっていくことは確かです。ただ、すべての選挙には「選挙区」があります。今夏の参議院選挙では、都道府県別の選挙区と、全国比例区という2つの選挙区があります。前者に関して、例えば大阪選挙区であれば大阪府内が選挙区であり、府内在住の有権者だけが投票できます。大阪選挙区で立候補をしている候補者がワイドショーで話題になり、ホームページにアクセスが殺到しても、アクセス数=1票ではありません。東京都の有権者は投票できませんし、未成年者や永住外国人など、投票権のない方からのアクセスがあることも考慮しなければなりません。
ネット選挙と最も親和性が高いのは、参議院の全国比例区です。日本全国どこに住んでいても、有権者であれば1票を投じることができます。全国比例区で「ネット選挙運動で当選した議員」が誕生すれば、選挙運動におけるネットのプライオリティも上がっていくと思います。ネットでの選挙運動に特化して勝負をかけるような候補者が出てくると、とても面白いだろうと期待しています。
個人的には、ネット選挙運動の解禁に大きな可能性を感じていますが、選挙プランナーという立場からすると、クライアントの当選を最大の目標にしたときに、そのプライオリティは現段階ではそれほど高くない、というのが正直な感想です。
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