特集「ネット選挙元年2013」
ネット選挙解禁でどう変わるのか?<候補者、政治家編>2/2 (2013/3/14 松田馨)
候補者や政治家はどのように対応すればいいのか
ネットでの情報発信やフォロワーとのやり取りは、一朝一夕で身につくものではありません。ツイッターは「バカ発見器」と揶揄(やゆ)されたり、芸能人ブログの炎上などが後を絶たないように、不用意に感情的な発言をしてしまうと支持者が離れてしまったり、対立候補に足元をすくわれたりするような事態も予想されます。
多くの候補者陣営にとって、選挙期間中というのは毎日がトラブルの連続。やらなければならないことも多く、人手がいくらあっても足りないような状況です。ネット選挙運動が解禁されて毎日情報発信ができるとなったときに、果たして現場は対応できるのか。特に、ネットの知識があってパソコンの操作に強 いスタッフはなかなかいません。こういった人手を確保できるかどうかも、その陣営のネット選挙運動が成功するかどうか、を左右すると思います。
選挙というのは一種の「押し売り」です。ネット選挙運動が解禁されたからといって、押し売りをネット上でやっても仕方がありません。よく「選挙カーの音がうるさいので、選挙カーでまわってきた候補者には絶対投票しない」という意見を聞きます。ネット選挙運動の解禁によって、一方的な情報発信を候補者が続ければ、ヘタをすると「候補者からフレンド申請がきてうっとうしい」「フェイスブックのメッセージやツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)、メールでの投票依頼が来た候補者には絶対に投票しない」なんてことにもなりかねません。
ネットでの情報発信は、日ごろの積み重ねと戦略が重要になります。選挙前に慌ててホームページやSNSアカウントを開設しても、付け焼刃になってしまい、有権者に“選挙目当て”と見透かされてしまいます。また、動画のアップができるからといって、街頭演説の動画をただ毎日アップしたところで、誰も見てはくれないでしょう。大切なのは有権者への広報戦略、有権者とのコミュニケーション戦略をしっかりと立案し、選挙期間中にどこまで、何を行うか、どんな情報を発信するのかについて事前に検討し、スタッフも含めた準備を進めていくことです。
選挙期間中はこれまで以上に気が抜けない候補者
ネット選挙運動の解禁によって選挙の情報公開が進むと、候補者はこれまで以上に気が抜けない戦いを強いられることになります。
2007年のフランス大統領選において、サルコジ候補(当時)と接戦を演じた新人候補が、自身の集会で失言してしまった動画がYouTubeにアップされ、数万回再生され、支持が失速する一因になったという事例もありました。
日本でも、2009年の総選挙前に「小泉進次郎氏が横粂勝仁氏の握手を拒否」というのがニュースになり、YouTubeにアップされた動画は約25万回再生されるなど、話題になりました。選挙後に撮影者を名乗る人物がアップした編集前の動画を見ると、小泉氏は横粂氏に「頑張りましょう」とあいさつした上で、お祭りでの有権者へのあいさつ回りを続けていたので無視していたわけではなかったのですが、当初は「握手を拒否した=無視した」という点が強調され、小泉氏が批判されました。
ほかにもある市議会議員が、地元の有権者に「市議会議員の◯◯が電車内で漫画を読んでいた」とツイートされ、支持者に注意されたという話もあります。いまやスマートフォンで写真や動画を撮影し、SNSに投稿するというのが当たり前になっていますので、ネット選挙運動の解禁によって、候補者やスタッフの失言、態度の悪さなどが写真や動画付きでネット上にアップされ、批判されるような事態が予想されます。
参議院選挙は17日間と選挙期間が長く、夏の選挙ということもあって候補者の体調管理やスタッフの士気を保つことも容易ではありません。私がこれまで関わった選挙では、高齢の候補者が体調を崩して個人演説会を欠席したり、選挙カーに乗れなかったり、選挙戦の疲れから街頭演説でろれつが回らなかった り、といった事態がありました。ネット選挙運動が解禁されれば、候補者の体調不良の情報はあっという間に広がります。上記した動画の事例も含めて、今後は選挙期間中に、ネットでの情報拡散によって潮目が変わる事態も予想されます。
ネットでの「双方向のやり取り」は可能か
では、よく言われる「双方向のやり取り」はどうでしょうか。例えば2008年のアメリカ大統領選挙で当選したオバマ大統領の政権移行チームは、公式サイトなどを通じて、政策についてのアイディアを広く募りました。まさにネットを介した双方向のやり取りを試みたのですが、あまりにも膨大な意見が寄せられたため、ほとんどの意見は読まれることなく放置されているのではないか、という指摘もあるようです。
ネットを介して候補者と有権者が双方向でやり取りをする、というのは理想のカタチではありますが、候補者がすべての有権者からの書き込みや質問に1つひとつ丁寧に返信するだけの時間はなく、現実的にはまだまだ難しい面もあると思います。ただ、一方的に情報を発信するのではなく、重要な政策課題につ いて自分の意見を述べたうえで、有権者にその賛否を聞いてみるといった使い方など、工夫次第でこれまでより直接、有権者の声を候補者が聞くことができるようになると思います。
おわりに
選挙を担当していていつも思うのですが、最終的に候補者は有権者を信じて戦うしかありません。有権者のみなさんには、政治家のスキャンダルや批判を追うのではなく、日々の地道な活動や政策提言の中身、そして選挙期間中の「ハードスケジュール」などを垣間見ていただいて、少しでも政治や選挙が身近なものになればと期待しています。
国会議員のみなさんには、デマや誹謗中傷を恐れるのではなく、ネットを使って新しい選挙運動が展開され、候補者・政治家と有権者の間での新しいコミュニケーションがつくられていくその可能性にかけていただき、今夏の参院選までのネット選挙運動の全面的な解禁を切に願います。
(選挙プランナー・松田馨)
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- 松田 馨(まつだ かおる)
- 1980年広島県生まれ。京都精華大学人文学部環境社会学科卒業。デザイン会社、私立大学職員を経て独立。2006年の滋賀県知事選挙以来、地方選挙から国政選挙まで幅広く実績を積み、2008年6月に選挙コンサルティングの専門会社「株式会社ダイアログ」を設立。選挙プランナーとして、1年中選挙に携わっている。週刊誌上での国政選挙の当落予想をはじめ、新聞、テレビ、雑誌等のメディアにおいて「無党派票を読むプロ」「ネットを駆使した選挙に精通する選挙プランナー」として多数取り上げられる。
- 一般社団法人 日本選挙キャンペーン協会理事・事務局長。日本選挙学会会員。
- HP:ホームページ
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