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“スポーツ教育”で社会向上を目指して NPO法人スポーツ・コーチング・イニシアチブ (2018/11/13 70seeds

日大のアメフト問題にはじまり、レスリングのセクハラ、ボクシングの奈良判定…。近年、スポーツ業界における不祥事が次々と明るみに出ている。

しかし、不祥事をきっかけに、“スポーツ指導”にまつわる議論が巻き起こることはなく、一時的な「スキャンダル」で終わってしまうことがほとんどだった。それは、私たちがどこか「自分と違う世界」としてスポーツを捉えてしまっているからかもしれない。

そんなスポーツの当たり前を「教育」の側面から変えようとしている若者がいる。小林忠広さん、26歳。NPO団体「スポーツコーチングイニシアチブ」を通じ、“可能性を育むためのスポーツ”の普及に取り組んでいる。

「NPO法人スポーツ・コーチング・イニシアチブ」小林忠広さん

実は、小林さんに話を聞くのは今回が2回目。1年前、走り出したての小林忠広さんにお話を伺っていたのだ。

“目の前の大会で優勝させることや、ひいては毎試合毎試合勝つだけを重要視して指導するのでは、全然背景が違う。当然、指導法もコーチ自身から出てくる言葉も、コーチ自身がまとう空気も変わってくると思うんです。そういう「良いメンタルモデル」をもったコーチングを広めることでスポーツに対してネガティブな気持ちをもつ子どもが減ると思っています。” ―――70seeds、暴力のない教育を

あれから1年、スポーツ教育への社会の視線はどのように変化したのだろうか。インタビューは日本大学のアメフト問題を出発点に、小林さんの手応え・展望を伺った。

“日大アメフト問題”も、スキャンダルで終わってしまった

「NPO法人スポーツ・コーチング・イニシアチブ」小林忠広さん

――今年の夏、日本大学のアメフト問題がありましたよね。あのニュースを見たとき、ついスポーツ教育に携わる小林さんのことを思い出してしまって…。日大の一件は、スポーツコーチングイニシアチブ(以下、SCI)の活動にも影響があったのではないでしょうか?

ありましたね。皮肉なことに、僕らの活動の解像度を上げてくれるきっかけになったのが、日大のアメフト問題でした。SCIの活動を説明するとき「日大アメフト部のようなことを無くそうとしています」と説明すると、すぐに覚えてもらえるようになったんです。

――日大のタックル指示やレスリングのセクハラ、ボクシングの八百長など…。スポーツ業界で多発する不祥事をきっかけに、スポーツ教育への関心は高まっているのでしょうか?

これまで、スポーツ業界の不祥事は“業界内の問題”としてスキャンダルとしてニュースになるだけでした。日大のアメフト問題も、監督の指導ではなく“大学のガバナンス”に批判の的が変化していきましたよね。スポーツ指導へ関心の低さに加え、構造が不透明であることが、業界の本質的な改善を妨げている背景があると思っています。

――たしかに、時間が経つにつれ問題の本質がズレてしまっていた印象がありました。

体罰にセクハラ・パワハラなど、スポーツの「負の側面」は会社や学校にも共通する現象。ともすれば、スポーツを通じて得られる経験や知見・チームワーク・人生観も社会に出て「最も求められる力に」になり得ます。スポーツ教育を機能させることは、社会の“底上げ”につながるんです。

これまでスポーツは、娯楽や余暇といった位置づけでした。しかし、SCIではスポーツを“教育”として捉えることで、社会システムの一部として、個人の成長にコミットできるものだという認識を持ってもらいたいと思っています。

体罰やパワハラが起きず、主体性やコミュニケーション能力を伸ばす“正しい”スポーツ教育は、人材育成に最適なツールになる。今後の活動を通して、スポーツ教育の必要性を訴えていきます。

パソコンと手

――70seedsで初めての取材をさせていただいてから約1年。SCIの活動に変化はあったのでしょうか?

以前取り上げて頂いた、Positive Coaching Alliance(以下、PCA)の「ダブル・ゴール・コーチング」の普及活動の他に、現在の活動は2種類あります。1つはスポーツ教育を広めるワークショップ「Sports Coating Lab」。もう1つ、コーチング専門のウェブメディア「コーチングステーション」を始めました。あまりメディアで紹介されない“良い指導者”にスポットを当て、学びを得られるような機会を提供しています。

――小林さんの思う“良い指導者”とはどのような指導者なのでしょうか?

基準の1つとして「指導者が学びたいと思えるような指導者」だと思っていて。良い指導者は領域を問わずに存在すると思っています。今年の2月にはサーバーエージェントの人事統括・曽山哲人さんをお呼びし「チーム強化」についてのワークショップを実施。企業をマネジメントされるなかで、指導者としても通底する考えをお話しいただいている中で、チームとしてどのように挑戦できる環境を作るかについて伺いました。

僕らは、必ずしも「勝てる指導者が良い指導者」ではないと思っています。今年の夏、甲子園に出場した慶応高校野球部の森林監督の“自主性を重んじる指導法”がニュースになりました。結果が出たことで話題になりましたが、指導者の間では昔から有名な監督だったんですよね。自身の尊敬する先輩でもあることから、大変参考にさせていただきました。

ポイントは、指導者として勝利を目指しつつ、人としての成長にどれだけ寄与できるか。結果が伴わないとしても、生徒の成長や満足度など、多角的な視点で指導者が評価されるような社会にしていきたいと思っています。

2020年にこだわらない、長期的な施策を

――スポーツ教育を社会の一部として認識してもらう…。ビジョンの達成に対して、いまは“種まき”のような段階だと思いました。中長期的にはどんなビジョンを描いていますか。

“スポーツに投資することで良い人材が育つ”という認識を当たり前にしてきたいと思っています。そのための情報発信はしていきますし、“社会に起爆をつくる原動力である”として認識してもらうために、もしかしたらスポーツ指導者の“資格化”が必要なのかもしれません。

また、単に指導者だけでなく、保護者やアスリート/選手はもちろん、トレーナー、医療関係者、スポーツ団体に始まり、企業や学校、地域の住民の方々などと一緒にこの問題を提起していくことが必要だと確信しています。

――さまざまな“How”があるんですね。

僕らSCIのミッションは「スポーツで人を育み、未来を築く」。僕の関心は社会を底上げすることにあるので、スポーツは1つの重要な“How”だと思っています。なので、芸術もプログラミング教育も重要です。スポーツだけ、というわけではない。

「NPO法人スポーツ・コーチング・イニシアチブ」小林忠広さん3

――現在、SCIを続ける中で「これが足りてないなぁ…」というポイントはなんでしょうか?

「明確な数字」ですね。体罰はダメ」は当たり前なのですが、禁止をすればいいという問題ではありません。その体罰をしてしまう背景やメンタルモデルに着目することが必要です。そのために“なんとなく”ではなく、明確なエビデンスを示すことで指導者、そして周囲の方々の行動を変えていきたいですね。

――2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたビジョンはあるのでしょうか?

いえ、スポーツだからといって2020年に無理に合わせることは、あまり良い結果を生まないと思っています。2020年にピークを持っていくのではなく、2030、2040年と、長く価値あるものを作っていくことが大事ですよね。いまはその種蒔きの段階。スポーツ教育が社会システムの一部になるよう、尽力していきます。

取材:鈴木賀子
執筆・構成:半蔵 門太郎

半蔵 門太郎
ビジネス・テクノロジーの領域で幅広く執筆しています。
鈴木賀子
ジュエリーメーカー、広告クリエイティブ領域の製作会社、WEBコンサルティング企業を経て、2016年より70seeds編集部。アンテナを張っているジャンルは、テクノロジー・クラフト・自転車・地域創生・アートなど、好奇心の赴くまま、飛びまわり中。

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