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「社員がいきいきしている会社」と「財務指標が良好な会社」はどちらが買いか (2018/9/18 瓦版

従業員のエンゲージメントスコアを公開する企業の胸の内

いい会社の株は買い――。企業を外的に評価する際、注目されるのはどうしても財務指標が中心になる。経常利益やP/L、B/S…数字で示されると説得力があるから無理もない。だが昨今、この数字上の“優等生”が不祥事を起こし、時には数字そのものの改竄にまでを手を染める。投資家にとって悩ましいこの状況に一石を投じるアクションが2018年9月18日、発表された。

共同会見に参加した賛同企業と研究陣

共同会見に参加した賛同企業と研究陣

注目のアクションは、IR資料に社員のモチベーション状態を示す指標を新たに加えるというもの。リンクアンドモチベーションが開発した従業員のエンゲージメントを測る偏差値「エンゲージメントスコア」を新指標に、非財務スコアとして決算時期などに公開する。同スコアを公表するのは、このアクションに賛同したラスクル、ユーザーベース、クラウドワークスら9社。財務指標だけでは限界が見え始めた投資指標にあえて、社員の “働きぶり”を加えることで、より健全で意味のある会社選びを“側面支援”する。

「商品市場はいまや、事業戦略から組織戦略へ変化した。企業と個人の関係が相互選択型へとシフトする中でいかに企業と従業員の相互理解・相思相愛度が高いか、つまりエンゲージメントが重要になっている。これを可視化すべく、弊社は社会心理学をもとに16領域に分類し、期待度と満足度の二軸でみてエンゲージメントサーベイとして特許を取得した。この結果を数値化したものがエンゲージメントスコアとなる」とリンクアンドモチベーション会長の小笹芳央氏は解説する。

公開される指標は、エンゲージメントスコアの点数によってAAAからDDまで11段階に格付けされる。単純に最上位AAAの企業は職場が活気にあふれ、仕事が円滑に進み、新たな事業が次々に生み出されると考えていい。逆に最下位のDDでは職場は機能不全に陥っており、事業は低迷。将来性もない、斜陽企業といっていいだろう。

もっとも、この指標がどれだけ信用できるものなのか。もともと数字では表現しづらい内容。サーベイに問題はないのか、あるいはそのやり方によって差が出ることはないのかなど、懸念材料はある。その点については、慶應大学大学院経営管理研究科の岩本隆氏らが、上場企業66社を対象にエンゲージメントスコアと業績の相関について共同研究を実施。その結果、エンゲージメントスコアの向上が営業利益率・労働生産性にプラスの影響をもたらすことが分かった。あくまで相関関係だが、因果関係があることにも手ごたえを感じているという。

見せたくないところを見せる指標だから価値がある

同スコアを導入するラスクルCEOの松本氏は賛同の理由として「ネット企業はアイディアやプロダクトを人が生み出す。BS上は人件費でも、そこにはあるのはコストではなく価値。いまの会計制度では見ることができない部分なので、この指標開示によってそれを補完できると考えている」と明かす。この言葉は従業員のモチベーション状態をも公開する新指標が、投資家にとって健全な判断をする上で非常に有効であることを端的に示しているといえるだろう。

売り上げが上昇している。この会社は買いだ。しかし、実際には職場はギスギスで、パワハラが横行。無理やり数字だけを合わせているとしたら…。それを見抜くには、同スコアは非常に有効といえる。売り上げが急上昇しているのに、エンゲージメントスコアが非常に悪い。これはなにかある。そうした判断も可能になるわけだ。

グラフ

非財務的判断が可能な銘柄としては、健康経営銘柄やなでしこ銘柄などがあるが、どうしても表面的な印象はぬぐえない。一方で、社員のエンゲージメントにまで踏み込んだ同指標は、企業にとっても公表するには覚悟が必要となり、その信用度は高いといえる。

同指標開示企業を2025年までに上場企業300社に設定するリンクアンドモチベーション。賛同企業が拡大し、軒並み同指標の高い企業が好業績となれば、まさにいい会社=買い株という図式が成り立ち、好循環が生まれる。その先には、売り上げ至上主義に変わる、企業経営にとって本当に重要なものはなんなのか――。多くの企業が長らくもがき続けたその解が鮮明に浮かび上がってくるはずだ。

提供:瓦版

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