業務効率化を推進する上でタスク削減とセットで考えるべきこと (2018/9/14 瓦版)
業務効率化推進でなぜか職場不活性になる企業の特長
働き方改革の名のもとに業務効率化を推進する企業は少なくない。ムダな業務を見直し、浮いた時間をよりサービス力/製品力アップにつながる作業へ集中する。健全な業務効率化を行っていれば当然の動きだ。
ところが、業務効率化を推進しているのに現場が疲弊しているケースもある。その場合、ほとんどが業務効率化を業務量削減と勘違いしている。つまり、ムダと思われる業務の削減には一生懸命だが、それで終わっている。結果、限られた時間で最小限の作業をするに留まり、品質低下や業務負荷の増大を招いてしまう…。
タスク削減と両輪のタスクの高付加価値化
リクルートワークス研究所の城倉亮氏が解説する。「例えば労働時間が長いサービス産業では、タスクマネジメントが重要になる。そうなるとタスクの効率化に目が行きがちだが、それだけではサービス力の低下を招く可能性がある。大切なのは、タスクの高付加価値化という視点も併せて考えることだ」。
タスクの高付加価値化は、かけるべき部分には削減でなく時間をかけたり、予算をかけたりすること。それにより、社員の働きがいが向上し、定着率アップにもつながり、ひいては顧客満足度も向上。結果的に従業員満足度も高まる好循環が生み出せる。それにより、職場には活気がみなぎり、生産性も高まっていくというワケだ。
神奈川県鶴巻温泉の老舗旅館、元湯陣屋では料理提供の演出にこだわり、時間をかけて料理を説明(時間をかける)。その質を高めるために値上げ(予算をかける)を断行。併せて、IT活用によるタスク効率化を進めるなどで、業績をV字回復。売り上げを倍増させる一方で従業員数を約3分の一に減らし、離職率も10分の一以下に下げることを実現している。生産性でみれば、飛躍的な向上だ。
昨今、急速に浸透しているテクノロジーを活用した業務効率化でも目指すところは同様だ。例えば、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)を導入することで多くのルーティンワークは自動化できる。この場合には、そうした業務をしている人の仕事を奪うという観点も引き出され、それ自体が導入へのボトルネックとなるケースもある。
だが、これこそまさに自動化はロボットに任せ、本来ヒトがやるべき業務に労力を集中する。そうした視点で積極的にテクノロジーを活用することが健全なスタンスだ。なぜなら、ロボットは処理スピードが速く、正確で、辞めず、休まないのだから、確実に生産性は向上する。おまけにRPAは導入コストもそれほど高額でなく、そのハードルは決して高くない。
人材企業のパーソルグループでは契約者の検索や内容変更、登録結果の出力などを手作業からRPAに切り替え、グループ全体で年間17万5,000時間もの業務自動化を実現している。一方で人員削減は行わず、他の新規事業へ転換し、より人材力を生かす方向へシフト。業務自動化で浮いた時間は、それ以上の労働価値に転換し、グループ全体の大幅な生産性向上を果たしている。
働き方改革で成功する企業とそうでない企業の境目にあるもの
働き方改革で成功する企業とそうでない企業に境目があるとすれば、それはその本質を理解しているか否かに尽きるだろう。つまり、社会・産業構造の変化に企業が最適化していくことが働き方改革の本質であることを認識しているかどうかということだ。単に労働時間の短縮やリモートワークの導入をするといったことでは意味はなく、むしろ後退しかねない…。
うまく改革を推進している企業は、業務効率化や人材確保などあらゆる側面で好循環が生まれている。それは社会構造や産業構造の変化で新しくなったルールに適合しているからに他ならず、やらないことが大きなリスクであることの逆説的な証明でもある。どうにも働き方改革がうまくいかない…。そんな空回り感があるなら、業務削減に頭を悩ませる前にいま一度、働き方改革の本質と向き合うべきかもしれない。
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