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裁判員制度開始からまもなく9年 見えてきた現状と課題は (2018/5/8 JIJICO

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5月で裁判員裁判が始まって9年になります。裁判員制度は、一般国民が裁判の過程に参加することで、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになるとともに、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法がより強固な国民的な基盤を得る、という見地から導入されました。

裁判所

これまでの裁判のあり方と比較した裁判員制度による効果とは

国民の裁判への関心は増えたことを実感
裁判員制度は、先に述べたように、国民の社会常識の反映・司法に対する理解を深めるといった目的から始められたものですが、裁判員制度により裁判傍聴などを含めた裁判への関心の高さは増えたという実感はあります。また、裁判員経験者によるアンケートでは今でも大変良い経験をしたとの回答は高い割合であるとのことです。

よりわかりやすい刑事裁判への改革が進んだ
これまで刑事裁判といえば警察・検察での取り調べにおける調書など、書類を中心としたいわゆる「調書裁判」が主流でした。筆者も学生の頃、ある刑事事件の裁判傍聴をしましたが、検察官が何やら書類を片手に被告人に見せて(傍聴席からは当然見えない)、何をしているのか(何を言っているのか)よくわからないという印象が強かった記憶があります。

裁判員制度では、裁判官・裁判員が法廷内で見聞きした内容に基づいて心証を形成する・連日開廷により集中して審理が行われる、というのがこれまで行われてきた裁判との大きな違いです。そのため、書類を読むことで内容を説明しなければいけない場合でも、できる限り全文朗読をするのが一般的になっています。また、重要な証人については、捜査機関が取り調べで作成された供述調書があったとしても、裁判所がなるべく生の発言を聞いてきちんと心証をとるため、証人尋問を行うことが増えてきているようです。

さらに、DVDによる取り調べの可視化や証拠の開示手続き、保釈率が全般的に2倍程度上昇したとの変化が見られています。加えて、量刑についても強姦致傷(現在は強制性交等致傷)事件、傷害致死事件については、量刑が重くなっている、他方殺人既遂と強盗致傷事件では執行猶予の割合が若干増加しているようです(ただし、統計は平成23年3月までのものです)。

このように、裁判員制度の開始により、国民の裁判制度に関する関心の高まりにつながった、裁判員制度自体も一定の理解が得られている状況である、刑事裁判もよりわかりやすい裁判への改革、量刑への国民意識の反映が見られるなどといった、一定の効果が出ているところではないかと思います。

浮き彫りになってきた現在の裁判員制度が抱える課題

他方で、裁判員制度が始まって年月が経つにつれ、問題点も浮き彫りになってきました。
いくつか課題を挙げてみます。

裁判員候補者の辞退率の上昇と出席率の低下
裁判員制度が始まってから裁判所に選定された裁判員候補者の辞退の割合が上昇している一方で、選任手続きへの出席率が年々低下してきているという点が問題になってきています。

特に高齢化の進んでいる県での辞退率は高くなっているようで、裁判員候補者の辞退率が7割を超える県もあるそうです。今後高齢化がさらに進むと裁判員候補者の確保が難しくなる地域が出てくることも予想されます。

他方で、労働人口を構成する年齢の場合には、裁判員裁判の審理が長期化するほど、職場を休んだり、家庭を空けて裁判員を引き受けることが難しくなりがちです。

裁判員制度を維持するには、国民が主体的に・積極的に参加することが何より必要です。法教育への取り組みや地域での働きかけも重要ですが、実際に裁判員を引き受けやすい環境とすることが職場などでもできるよう、何か抜本的な方策を立てる等しないと、裁判員候補者の辞退率の上昇や出席率の低下は見込めないのではないかと思います。

裁判員をすることでの心理的負担・ストレスへの配慮が必要
以前ある報道機関が裁判員経験者にアンケートを行ったところ、回答をした人の6割以上が裁判員をすることで心理的な負担を感じたという結果が出たとのことです。

最高裁判所では、対面でのカウンセリングや無料の電話相談を受けられる窓口を設けたり、裁判員の職務への不安を少しでも払拭できるように電話対応やパンフレットの送付をしているとのことです。裁判所によっては裁判終了後に事後的に精神面でのケアを図ったりするなどの対応をしているそうです。

この点については、裁判員に過剰に心理的な負担がかからないよう配慮しつつ、被害者側の意見なども踏まえて引き続き検討していくべき問題といえるでしょう。

守秘義務の範囲がやや不明確で心理的な負担になっていることも
裁判員法9条2項で、裁判員には評議(判決を決めるための話し合い)の秘密その他職務上知りえた秘密を漏らしてはならない、という守秘義務が課されています。もちろん、裁判員は公開の法廷で行われたことや、裁判員の感想は話してよいとされていますが、守秘義務の範囲がやや不明確なため、裁判員をしたことの経験を自由に語ることへの制約になっていたり、その分心理的な負担になっているとの意見もみられます。

せっかくの裁判員としての経験が裁判員制度の改善などに役立てられるよう、見直しをすべきとの議論があるところですので、引き続き検討が必要でしょう。

制度が根付くためには絶えず検討していくことが大切

裁判員制度については、すでに多くの国民が制度自体の認識をしているものの、今回解説したような課題もまだまだ抱えており、今後さらに国民の理解・支持が深まるような方策をとる必要があるでしょう。

裁判員制度が続く中で新たに見えてくる問題も出てくると思われますので、絶えず検討をしていくことがこういった制度が根付く上では大切なことといえます。

参照:最高裁判所ホームページ「裁判員制度の実施状況について」
「裁判員等経験者に対するアンケート」
立法と調査2015年9月号「施行後6年を迎えた裁判員制度の評価と課題」

提供:JIJICO

著者プロフィール
片島 由賀/弁護士

片島 由賀/弁護士
島根県松江市生まれ 学習院大学卒業 平成19年3月 東京大学法科大学院修了 平成20年 弁護士登録(広島弁護士会) 法律業務全般を取り扱っています。 (離婚問題、相続、財産管理・遺言、交通事故、借金問題、退職・職場環境、その他) 広島弁護士会 人権擁護委員会(両性の平等部会)、民事・家事委員会、消費者問題対策委員会、弁護士業務妨害対策委員会、生存権擁護委員会、広島県中小企業家同友会(中支部)

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