スタートから7年 裁判員制度をあらためて考える (2016/6/6 JIJICO)
年々増加傾向の裁判員辞退率
平成21年5月21日にスタートしてからマル7年が経過した裁判員裁判制度は、「国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資すること」を理由に導入されました。言い換えれば、市民感覚を刑事司法に反映させようとしたものです。
裁判所が公表している統計によりますと、選任された裁判員の数は、平成28年3月末現在で5万人を超えたようですが、他方で、辞退率は、制度が始まった平成21年当時は53%に過ぎなかったにもかかわらず、平成24年には60%を超え、最近では65パーセントにまで達してしまっているようです。どうしてこのような現象が生じてきたのかを考えてみます。
重大事件に限定されることが辞退率を増やす要因に
まず、裁判員制度は、特定の職業や立場の人に偏らず、広く国民に参加してもらう制度であるため、原則として辞退ができません。しかしながら、裁判員裁判の平均審理期間は、制度が始まったころは5日未満だったにもかかわらず、近年では9日に達しており、裁判員の負担が少しずつ重くなってきています。
また、裁判員裁判の対象となる事件は重大事件に限定されており、凄惨な遺体の写真などの証拠を見て気分が悪くなったり、ストレス障害に罹患してしまったり、死刑判決に加わった場合には、生涯にわたり罪悪感に苛まれることになるなど、裁判員の精神的な負担も測り知れません。にもかかわらず、これに対する手当も十分になされているとはいえません。
国民の理解が得られる制度に改善する努力が必要不可欠
さらにいえば、そもそもこの制度自体に矛盾を孕んでいるのではないかといった疑問もあります。市民感覚を司法制度に反映させることに狙いがあるはずにもかかわらず、裁判員の関与は第1審のみに限定されており、職業裁判官のみで構成される控訴審によって、その判断を覆すことができるようになっています。しかも、最高裁判所は、平成24年2月に下した判決において、よほどの理由がない限り第1審の裁判員裁判で認定された事実は尊重しなければならないものと判断する一方で、量刑については、平成26年7月に下した判決において、従前の量刑の傾向を尊重しなければならないと判断するなど、裁判所自身においても、裁判員裁判の位置付けが曖昧にされているようにも思えます。このようなことでは、裁判員裁判に選任されてその任務に全力を注いだとしても、徒労感のみが残ってしまいかねず、裁判員裁判制度というものに対する国民の理解がそもそも得られるのか、疑問なしとしません。
裁判員裁判制度に含まれる問題点は、他にも多々指摘されているところですが、制度そのものを維持するのであれば、国民の理解が得られるような制度に改善していく努力が必要不可欠といえます。これを怠ってしまうと、辞退者の増加を食い止めることなどできようはずもありません。
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