連続勤務の僧侶に労災認定 (2018/4/12 企業法務ナビ)
1 はじめに
和歌山県高野町の高野山の寺院に勤める40代の男性僧侶がうつ病になったのは、宿坊(仏教寺院などで僧侶や参拝者のために作られた宿泊施設)での連続勤務が原因であるとして、橋本労働基準監督署が労災認定しました。今回はこの事件を題材に、労働時間該当性について検討していきます。
2 事案の概要
- 《当該僧侶について》
- 2008年勤務開始。2015年12月にうつ病を発症し、その後求職
- 「2015年4月・5月・10月は休みが1日も無く、勤務が続いたことがうつ病の原因である」と主張し、2017年5月に労災申請。同年10月、労基署は「少なくとも1か月間の連続勤務が認められる」として労災認定
- 在職中は午前5時から、宿泊者らのために読経の準備を開始。日中は宿泊者の世話、寺院での通常業務等を行う。繁忙期では業務終了が午後9時になることもあった
3 労働時間該当性
労基法上、「労働時間」とは休憩時間を除いた実労働時間をいいます。労働に関する取り決めには、就業規則・労働協約・個別労働契約等がありますが、労基法は強行法規であり(13条)、これらに優先します。
三菱重工長崎造船所事件は労働時間について、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうとしています。
その判断方法については、「労働時間にあたるか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」としています。
おそらく、僧侶の労災認定の事例は過去にもなかったかと思います。また、代理人弁護士も、「僧侶の職務は『修行』であり、労働ではないとされてきた。僧侶の仕事が労働と認められたという点で、意味のある認定だ」と話しています。
今回の事件で、当該僧侶は宿泊準備や宿泊者の世話といった仕事をしていました。日中行っていた寺院での通常業務も、おそらく上位の僧侶からの指揮命令があって行っていたものと推察されます。これらは修行というよりも、一般的にイメージされる職務としての性格が強いと考えられ、今回のような認定に至ったものと考えられます。
4 今後の実務に向けて
法務部員としては、労務問題が発生し、従業員に訴えられることを避ける必要があります。最高裁は労働時間に関する判断基準を提示していますが、具体的にどのような行為が労働時間に該当するかを判断するのは簡単ではありません。
労働時間該当性を狭く判断してしまうと、今回のようなケースが起こり、労務問題として発展していく可能性があります。他方、労働時間該当性を広く認めれば労務問題が生じるリスクは回避できますが、その分会社としては払う賃金を増やさなければなりません。
- ビル警備業務における夜間仮眠時間について労働時間該当性を肯定した判例―大星ビル管理事件
- 更衣時間について労働時間該当性を肯定した判例―前掲三菱重工業長崎造船所事件
労働時間該当性については、上記のように著名な判例もあります。判例から労働時間該当性に関するルールを見出すことも重要ですが、実際の現場においてどのような指揮監督関係があるかを確認し、労働時間該当性について客観的な判断ができるようにすることも重要であると考えます。
- 関連記事
- 不登校新聞が伝える“ブレブレ”な生き方、もっと人は揺らいでいい
- Airbnb、僧侶手配サービスの「お坊さん便」と提携 座禅・写経に異色コラボ
- 中国:チベット族僧侶が焼身自殺、強圧政策に抗議か
- 若者に生きる「軸」を―本願寺の仏教×アクティブラーニング
- 浅草で伝統芸能アピール、人形浄瑠璃文楽で初めての「お練り」