【新しい働き方はどのように生まれた?・海外編】第24回(最終回):オーストラリアから見た日本、今後の展望 (2018/2/26 nomad journal)
「新しい働き方はどのように生まれた?-海外編」も最終回になりました。この連載ではオーストラリアの歴史を植民地時代までさかのぼり、そこから現代に至るまでを辿りながら、オーストラリアにおける新しい働き方がどのように生まれたのかについて執筆してきました。最終回の今回は、オーストラリアから今の日本を見つめ、これから先どうすればよいのかを展望してみたいと思います。
「働き方-海外編」連載の進め方
この連載にオーストラリアを選んだ理由の一つは、初回の記事でも述べましたが、日本人が「世界一仕事好きな国民」であるのに対し、オーストラリア人は「人生を楽しむことを重視している国民」であり、この2つの国民の生き方、働き方が対象的であることでした。そしてオーストラリアでは生活に満足している人が多いのに、日本では不満に思っている人が多いということで、なぜそのような違いが生まれるのかを知りたいという気持ちがあり、この連載の執筆を引き受けました。そのため、この連載では前半は現在のオーストラリアを形成している歴史的背景をお伝えし、後半は、そこから生まれた現在のオーストラリアの働き方の状況を分析し、日本の働き方と比較する形式を取りました。
これまでの連載を読んでいただいた方には、オーストラリアと日本が全く異なる歴史的背景を持っているため、オーストラリアでは人間が大事にされ、家族が生活の中心となっていること、そして日本では「公」が先立ちそのために「私」を犠牲にすることが多いということを理解していただけたのではないかと思います。ではそうした違いから生まれる課題や問題はこれから先どのように解決していったらよいのでしょうか。
人気観光地、そして老舗大国
最近オーストラリアでは日本旅行がブームになっています。実際、オーストラリアからだけでなく近隣の中国や東南アジアの国々からも多くの観光客が日本を訪れているという報告があります。そして日本旅行に行ってきた知り合いのオーストラリア人のほとんどが、日本は素晴らしい国だと言います。どこも掃除が行き届いており、サービスが良く、電車は遅れることがなく、物をなくしても戻ってくる。そんな国は世界中探してもどこにもないというのです。そうしたコメントを聞くたびに、一日本人として誇らしげな気持ちになります。
そして日本には観光要素だけでなく、素晴らしい技術もあります。最近、野村進氏の著書「千年働いてきました」を読みました。この本は、日本の老舗企業についてのルポですが、サブタイトル「老舗企業大国ニッポン」が示すように、日本には1500年以上の歴史を持つ世界最古の企業「金剛組」を筆頭に、創業100年以上の歴史をもつ企業が10万社以上あり、しかもこのように多くの老舗企業を持った国は他にはないというのです。2006年に出版された書籍ですが、紹介された老舗企業はいまでも健在です。日本がいかに伝統を守って来た国であるかということが分かり胸が熱くなりました。
それなのになぜ住みにくい?
ところが、日本がそんな素晴らしいものをたくさん持った国である一方で、そこに住む人々の表情はそれほど明るくなく、世界の満足度調査では10点満点のうち4点しかないのです(ちなみにオーストラリアは9.8)。そして日本で暮らしたことのある外国人に話を聞いてみると、暮らしにくいという意見が圧倒的に多いのです。暮らしにくい理由のいくつかをあげれば、まず、仕事が厳しすぎる。いろいろ目に見えない細かい決まりがあってついていけない。親切であるが、最終的に日本人は自分たちを仲間に入れてくれない閉鎖社会だというものです。
ただ、日本の歴史を辿ってみると、少なくとも150年前の明治維新の頃は、日本は閉鎖的な国ではありませんでした。文明開化のスローガンの下、海外から新しいものをどんどん取り入れ国を発展させていきました。明治維新は日本を西洋文化に目覚めさせてくれた波のようなものでしたが、今また、別の波が押し寄せて来ています。それはグローバル化の波です。
グローバル化が世界を変える
グローバル化の波は、オーストラリアにも押し寄せ、製造業を壊滅に近い状態にしましたが、オーストラリアではそれに代わる産業の開発を行ってきました。日本の場合は、日本でしか造り出せない技術をもっているので、生き残っている製造業もありますが、それでも製造業の大部分が海外に移転してしまいました。そして今、それに代わる新しい産業が求められているように思われます。そのためには、海外に目を向け、世界の動きを素早くキャッチし、時勢に合った対応をすることが必要なのではないでしょうか。
その一つが、より多くの人を海外に送り出し外から日本を見てもらうことです。最近は日本の各地でさまざまな討論会や勉強会が開かれていますが、その中で印象に残ったのが、あるビジネス学校が開いた討論会のビデオでした。興味深かったのは討論会のパネルのメンバー全員が海外生活の経験があり、コメントや提案も開かれたものが多かったことです。このビデオを見て思ったことは、より多くの人に海外に行って異文化を体験してもらい日本を外から見てもえば、より開かれたグローバル的な人材造りができていくのではということでした。その意味では政府主体の留学制度「トビタテ留学JAPAN」は、大変心強いイニシアチブだと思います。
安定した経済の鍵を握る満足感と安心感
23回目の記事でお伝えしたように、オーストラリアは日本に比べたらサービスの質も悪く、優れた技術も持っていません。それなのに、そこに住む人に満足感や安心感を感じている人が多いのはなぜなのでしょうか。
まず一つには、オーストラリアでは自然体でいられることです。そして次が政府と国民の間に信頼感があることです。私は経済の専門家ではないので、えらぶったことは言えませんが、オーストラリアに生活して感じてきたことは、安定した経済を保つ要素は、ただがむしゃらに働くことではなく、そこで生活する人々が自分たちの政府を信頼でき、それがゆえに「生活に満足感を感じられること」なのではないかということです。
生活や将来に満足感や安心感を感じることができなければ、自然と財布のひもがかたくなり、経済が停滞します。けれども、政府との信頼関係が出来上がり、ほんとうに困った時は政府が助けてくれると確信できるなら、人は人生を楽しむようになり、出費をするようになるのだと思います。結果としてお金が回り経済が安定する。財布のひもがかたいのが今の日本で、お金が回っているのが今のオーストラリアであるように思えるのです。
おわりに
前述のように日本には長い歴史や伝統があり、優れた技術が今なお生きています。素晴らしい基盤が出来上がっているのです。グローバル化をチャンスと捉え波に乗り、国民が安心できるような社会を築けば、日本の閉塞感も解消されていくのではないでしょうか。そして遠くない将来に、どの国の人も自らを「地球市民」と呼び、国境を越えた立場で付き合っていけるそんな世界を築くことができれば、それは最高のことだと思います。
記事制作/setsukotruong
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