経営トップが他社に潜りこんで学ぶ背景にあるものとは (2017/11/14 瓦版)
職場改革はなぜ、簡単には進まないのか…
<人の振り見て我が振り直せ>という故事がある。言葉通り、他人の振る舞いをみて、いいところは吸収、悪いところは見直そうという意味だ。働き方改革の文脈でいえば、改革に成功した企業の事例や関連書物などを参考に、自社でも同じような仕組みを構築。トップを筆頭に号令をかけ、現場に徹底させ、一丁上がりというわけだ。
かなり雑に示したが、ギュッと圧縮すればこんなところだろう。まだ成功事例の少ない取り組みとなるだけに、企業としても「人の振りをみる」ことが最も効果的ではある。だが、職場の風土改革にもつながるような根の深さもあるのが、働き方改革。これでうまくいくなら、大声をあげるまでもない。うまくいったとしてもせいぜい“働き方改善”どまりといったところではないだろうか…。
では、改善ではなく、改革にまで、アクションを昇華させるには何が必要なのか。数多くの企業の変革事例を目の当たりにしているサービス産業生産性協議会のディレクター・加藤八十司氏は、次のように見解を明かす。「例えば意識の高い人なら、ビジネス書や関連書物で職場改革の知識はあるでしょう。しかし、知っているだけでは実践はできない。そこに『体得する』というプロセスがあって初めて、実現というゴールがみえてくると思います」。
武者修行という名の研修プログラムはなにがすごいのか
職場変革を知る方法なら確かにいくらでもある。だが、体得するとなるとそのイメージはにわかには湧いてこない…。その体得の場を提供するのが、加藤氏が担当する「大人の武者修行」だ。その名の通り、大人が修行に出かけるビジネスプログラム。ビジネス戦略やスキルをセミナー形式で習得する座学タイプのものとは一線を画し、社員が成功企業に一定期間潜りこむ、まさに修行スタイルの実践型研修プログラムだ。
スタートしたのは2014年9月。当初は、次期幹部育成の色合いが強かったが、働き方改革の動きが活発になるのと比例するように内容は深化。2017年10月からは、女性活躍推進をサポートする「大人の武者修行・女性活躍推進プログラム」もスタートしている。
女性活躍推進は、多くの企業が“課題”とするテーマ。その理由は、単に女性に役職を与えるだけではうまく機能せず、なにより、ロールモデルが少ないことで、当事者が戸惑いがちになるからだ。そこで、同プログラムでは修行先として、女性活躍推進を実践する企業をピックアップ。修行者が、ロールモデルとなる女性幹部に密着し、どうすれば女性が活躍できるのかを頭でなく肌感覚で学びとる仕組みとなっている。
修行という名がついているように、乗り込む社員は単にスキルを学ぶのではなく、どんなコミュニケーションや距離感、働き方をしているのか、など会社独自のスタイルを間近で体感することで、その極意を吸収。最低でも3日以上修行することで、頭だけでなく、体にそのエキスを染み込ませる。その上で、自社へ戻り、改革実践へフィードバック。自らの成長と同時に職場改革加速に貢献する――。
もっとも、一社員が成功企業に感化され、自社に戻って熱く語ったところで、企業が全体としてそうした方向性を向いていなければ、せっかくの修行も空回りに終わりかねない。その対策として、「当たり前のことですが、このプログラムを活用するにあたり、会社として受け止める体制をキチンと整備しておく必要があります」と加藤氏。その究極策といえるのが社長自身による修行の実行だ。
実は大人の武者修行では、当初の目的が幹部候補の育成だったため、社長の参加は不可だった。だが、改革推進には経営トップの理解が必要不可欠ということで、2017年から経営者の参加が解禁された。「そのせいもあってか、今年の申し込みの3、4割は経営者です」と加藤氏は明かす。トップが他社へ乗り込み、その良さを熱く語れば、現場はしっかりと耳を傾ける。もちろん、それはそのままそうした方向を目指しているというメッセージにもなる。
人の振り見て我が振り直せ。トップやエース級社員が他社へ潜り込み、学ぶ。その裏には、それを受け入れる企業がある。産業・社会構造の変化で、経営におけるかつての成功法則は終焉。日本は、ワークシフトの真っ只中にある。変化に対応するものが生き残るのが生物界の進化論だが、新しい働き方が標準になる時代へ向け、各企業は新しいカタチを模索しながら、変態へのもがきを始めている――。
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