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ブルドックソース判決から見る敵対的買収防衛策 (2017/8/22 企業法務ナビ

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はじめに

日経新聞電子版は20日、ブルドックソースの池田章子会長が12日に病気のために亡くなっていた旨報じました。イカリソース買収や米投資ファンドによる敵対的買収で大胆な防衛策を発動するなど、生え抜きの女性社長として知られておりました。今回はブルドックソース判決(最決平成19年8月7日)を元に敵対的買収防衛策を見ていきます。

訴訟

事案の概要

2007年5月、東証二部に上場していたブルドックソースの株式の10.25%を保有していた米投資ファンドスティール・パートナーズは全株式の取得を目指し公開買付けを行う旨発表しました。ブルドック側の質問状に対しスティール側は日本での会社経営や今後のブルドック社の経営の意図はなく、事業計画や業務運営などは想定していないとしました。これに対してブルドック側は企業価値を毀損するものであるとして新株予約権無償割当による防衛に出ることを決めました。具体的には全株主に1株につき3個の新株予約権を割り当て、スティール関係者のみ株式の代わりに金銭を公布するというものでした。これに対しスティール側は株主平等原則に反し、また著しく不公正な方法に該当するとして新株予約権無償割当差止を求める仮処分を申し立てました。

本件の争点

本件で問題となっていたのは、(1)新株予約権発行差止の規定である会社法247条が新株予約権無償割当にも類推適用されるか、(2)株主平等原則に反するか(109条)、(3)「著しく不公正な方法」(247条2号)に該当するかの3点が挙げられます。この内(1)に関してはブルドック側も争っておらず、実質的に(2)の株主平等原則違反が主な争点となっておりました。

判決の概要

本件で最高裁はまず株主平等原則について、企業価値の毀損や株主の共同の利益が害されるおそれがある場合には特定の株主を差別的に取り扱ったとしても、「衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り」反しないとしました。そしてそれを最終的に判断するのは株主であるとして、株主総会に手続違反や虚偽の説明など判断の正当性を失う重大な瑕疵がない限り決議が尊重されるとしました。

その上で、スティール側の経営方針や投下資本回収方法を明らかにしない点、総株主の83.4%が賛成している点、スティール側にも株主総会で意見を述べる機会が有った点、スティール側に支払われる金銭がスティール側が設定したTOBでの買付価格を基礎に算定されている点を考慮し衡平の理念に反し相当性を欠くものではないとしました。

法務省による指針

敵対的買収防衛策に関しては法務省から「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」が出されております。それによりますと防衛策には3つの原則を要するとしています。(1)企業価値・株主共同の利益の確保・向上を目的としていること、(2)事前に防衛策の内容を開示し、それが株主の意思に依拠したものであること、(3)防衛策は過剰なものではなく必要性・相当性の範囲のものであることの3原則が掲げられております。

コメント

本件でブルドックソースはスティールのTOBに対抗するために、新株予約権を利用して他の株主に3株、スティールには株式の代わりに金銭を公布するという方法を使いました。一見すると非常に不平等でスティール側の持株比率を一方的に奪う形に見えますが、最高裁はこれを適法としました。

この判例から見える適法要件は(1)企業価値・株主共同の利益が害されるおそれの存在、(2)それを防ぐという株主の意思、(3)株主意思決定の過程の合理性にあると言えます。法務省による指針も基本的に変わるところはなく、買収側の予測可能性を考慮して予めどのような場合に、どのような防衛策が展開されるのかを開示しておくことが求められます。

また取締役会で防衛策を決定する場合は、その裁量権の濫用とならないよう、また濫用が疑われないよう株主の意思で排除できる措置を含めておくことが必要です。以上の点を踏まえ、敵対的買収がなされた場合にはどのような対抗手段を講じるかを策定し、予め公開しておくことが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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