アデランスが上場廃止へ、MBOと株式買取価格について (2017/1/24 企業法務ナビ)
はじめに
かつら大手アデランスが21日の臨時株主総会で株式併合を行い、2月10日をもって東京証券取引所より上場廃止となる見通しとなりました。日経新聞電子版によりますと、少数株主の間では株式の買取価格を巡って今なお不満がくすぶっているとしています。今回はMBOと株式買取価格の決定について見ていきます。
事案の概要
かつら大手アデランスは昨年10月に投資ファンド「インテグラル」の融資を受けてMBOを行い、上場廃止を目指す方針を発表していました。発表によりますと、アデランス経営陣はまず株式公開買付け(TOB)を行った後株式併合を行い端株処理を行った後上場廃止するとしていました。
アデランスは買取価格を発表当日の終値より29%高い1株620円としてTOBを実施し7割以上の株式を取得しました。そして21日の臨時株主総会で、約500万株を1株とする併合比率での株式併合を行い、代表取締役根本氏とアドヒアレンス株式会社以外の株主の持ち株が1株未満の端株となります。今後端株処理としてTOBの買付け価格である620円で買取った場合と同等の価格となるよう調整して端株主に金銭が交付されることとなる予定です。
MBOとは
MBOとはマネジメント・バイアウトの略で企業買収の一形態です。完全子会社化とは異なりその企業の経営陣が株式を買取ります。経営陣と一部の有力株主のみで株式を保有しそれ以外の株主を締め出して上場廃止することを最終目的とします。これにより多様な出資者の利害や意見に左右されることなく、経営陣の判断で柔軟で機動的な経営が可能となります。
証券取引所に上場する主な目的は広く一般からの投資を集め資金調達をすることと、企業の知名度を上げることにあります。一方でこれらの必要が無くなり、また抜本的な経営改革に迫られている企業にとっては上場を維持する意味合いが無くなり上場廃止に向けて動くことになります。MBOはその際の手法の一つと言えます。
MBOの方法
従来MBOの方法としてはまずTOBを行って経営陣の議決権比率を高め、その後全部取得条項付種類株式に変更して少数株主を締め出す(スクイーズアウト)手法が一般的でした。全部取得条項付種類株式については以前にも完全子会社化で取り上げましたが、定款変更によりまず種類株式発行会社の定めを規定し、発行済株式の全部を全部取得条項付種類株式に変更、対価として端株となるような少数の株式か金銭を交付して取得するというものです。
しかし平成26年改正によって株式併合の規定が強化され、また株式売渡請求権が新設されたことから、これらの手続が利用されるようになりました。株式併合には従来反対株主保護規定がなく、少数株主の保護に欠けるとしてあまり利用がなされてきませんでした。平成26年改正によって、差止請求(182条の3)や株式買取請求(182条の4)が新設され、以後MBOで一般的に利用されることとなりました。具体的にはTOBによって90%以上取得できた場合には売渡請求、90%未満であれば株式併合となります。
買取価格の決定について
全部取得条項付種類株式、株式併合、売渡請求のいずれの手続をとるにせよ、会社が株式を買取る際にはその価格を決定しなくてはなりません。そしてその価格に不満がある株主は裁判所に価格決定の申立をすることができます(172条、182条の5、179条の8)。経産省の公表したMBO指針によりますと、買取価格は「特段の事情がない限り、公開買付価格と同一」となるようにする旨規定されております。一般的にもTOBの買付け価格と同じにする場合が多いと言えます。
そして裁判所が決定する場合は「取得日における・・客観的価値に加え、・・株価の上昇に対する期待・・をも評価し・・諸般の事情を考慮して・・裁判所の合理的な裁量に委ねたもの」(東京高決平成20年9月12日)としています。さらに昨年7月1日の最高裁判例では「専門家の意見を聴くなど・・価格決定が恣意的」ではなくTOB価格と同額であり「一般に公正と認められる手続」による場合には「予期しない変動」といった「特段の事情」がない限り、裁判所が改めて補正することは裁量を超えるとしています。
コメント
裁判所による価格決定についてはこれまでも様々な裁判例が出されてきましたが、以上を要約すると、第三者である専門家の意見を聴いて公正な手続による価格決定がなされていれば裁判所はそれを尊重する。基本的にはTOB価格と同一であれば原則公正とされる。公正な手続がなされていなければ裁判所が改めて諸般の事情を考慮し裁量の範囲内で公正な価格を決定するということになります。MBO指針に従い公正な手続で会社が行った決定ならば裁判所は原則口出ししないということです。
本件でもアデランスはTOB買取価格と同額の620円になるよう調整する見通しであることから裁判所への価格決定申立がなされても棄却となる可能性が高いと思われます。MBOに際しては一般的にできるだけ買取価格を抑えようとする経営者側と、できるだけ高く買取って欲しい少数株主の間で利害が対立します。それ故MBOでは少数株主と訴訟となるケースが多いと言えます。その場合でも以上のように現在の判例法理から見れば、正しい手続を踏んでいれば問題はないものと思われます。MBOを経て上場廃止を目指す場合には証券会社や弁護士等の専門家の意見を聴いて、TOB価格に近づけるよう調整することが重要と言えるでしょう。
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