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東映京都撮影所の元所長を逮捕、会社法の特別背任とは (2016/10/4 企業法務ナビ

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はじめに

京都府警は3日、映画作成配給会社「東映」に経費を水増し請求して約23万円の損害を与えたとして会社法の特別背任容疑で京都撮影所元所長竹村容疑者を逮捕しました。役員等が会社に損害を生じさせた場合には任務懈怠責任を負いますが、会社法では別途刑事責任も規定されております。今回は会社法の特別背任を見ていきます。

お金とビジネスマン

事件の概要

東映の京都撮影所の元所長竹村容疑者は平成26年6月から所長として下請業者の選定や業務全般を掌握していました。竹本容疑者は昨年9月、京都市内の大型ショッピングモールでのアニメイベントに際し下請塗装業者に人件費を水増しして請求させ東映に22万6800円の損害を与えたとしています。このイベントでは実際には7人しか作業していなかったにもかかわらず10人水増しして17人分の人件費を計上し東映に請求させた上で、自ら決済していたとされております。竹村容疑者は同様の手口で業者に水増し請求させた上で差額を業者から受取り着服していたと見られております。東映は昨年11月に同容疑者が約1千万円を着服していたとして懲戒解雇しておりました。

会社法の特別背任とは

取締役等の会社において一定の権限を有する者が「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、任務に背く行為をし」会社に損害を加えた場合に特別背任として刑事罰が加えられます(会社法960条)。刑法上の背任罪の加重類型であり、会社役員等の権限の強さから会社に与える損害の重大性に鑑みて特に刑を重くしたものと言えます。

刑法上の背任罪が5年以下の懲役又は50万円以下の罰金であるのに対し、会社法の特別背任では10年以下の懲役または1000万円以下の罰金と大幅に強化されております。特別背任の典型例としては、銀行等の金融業者が十分な担保も取らずに回収の見込みの無い融資を行うといった不正融資や、実質的に価値の低い会社を高額で買収するといったものが挙げられます。これらの行為は民事上は当然に任務懈怠等の責任を負うことになります(423条、429条)。

特別背任の要件

(1)行為主体
会社法の特別背任が成立するためには会社において一定の地位にある必要があります(身分犯)。960条1項各号には行為主体が列挙されております。まず取締役、会計参与、監査役といった役員の他に、発起人、支配人、特別の委任を受けた使用人、検査役等が挙げられております。精算中の会社については清算人や監督委員等も含まれます(同2項)。ここに含まれていない者でも、これらの者に働きかけたり協力することによって会社に損害を与えた場合には特別背任の共犯として処罰されることがあります。

(2)図利加害目的
960条1項では「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的」が必要としています。単に会社に損害が生じただけでは成立せず、自分や第三者の利益を図ったり、会社に害を与える意図・目的がなくてはなりません。これを図利加害目的と言います。

(3)任務違背行為
上記役員等が図利加害目的をもって「任務に背く行為」(960条1項柱書)を行う必要があります。任務違背行為は誠実な事務処理者としてなすべきと法的に期待されるところに反する行為であり、形式的に法令や定款に違反する行為に留まりません。そして任務違背行為に該当するかは当該役員等の裁量権の範囲を超えているかで判断されるもと言えます。任務懈怠責任の場合でも問題となりますが、経営判断にはある程度リスクがつきものであり、結果として会社に損害が生じても経営者として注意を尽くしていたのであれば裁量の範囲内として任務違背行為には当たらないことになります。

コメント

本件で竹村容疑者は警察の調べに対し、着服した金銭を「生活費に使った」と供述しています。竹村容疑者は東映の役員等の地位にあり、自己の利益を図って自己の権限を逸脱した行為を行ったと言え、会社法の特別背任に該当することになると考えられます。一般に自己が管理する金銭等を着服した場合には背任罪以前に横領罪が成立することになります。背任罪は上記の通り成立要件が包括的で抽象的なのに対し、横領罪はより明確なことから特別背任よりも業務上横領となることが多いといえます。竹村容疑者も自己の管理する東映の資金等を着服していた場合には特別背任ではなく横領罪となっていたと言えます。

本件のように明らかに違法な行為は刑事的責任が明確ですが、融資行為や企業買収行為の場合には違法性の有無の判断が難しいといえます。敵対的買収に対する防衛目的で第三者に会社の資金を提供した場合等は任務違背ではあっても図利加害目的が無いことになります。これは同時に任務懈怠の有無の判断にも影響すると考えられます。役員等の会社法上の責任については民事・刑事の両面に渡って注意を払うことが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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