癌患者のための病院内サテライトオフィス 離職率減につながるか? (2017/2/14 JIJICO)
癌患者に病院内サテライトオフィスを新設
厚生労働省は、来年度から希望する全国5カ所の病院に癌患者らのために無線LANやFAX、プリンターなどを設置したサテライトオフィスを新設するとの方針を固めました。果たして、癌患者の離職率は下がるのでしょうか?
働きながら癌治療の現状
癌は日本人の2人に1人がかかるという国民病となっています。ただ、医療技術の進歩などにより、癌の5年生存率も平成15~17年には58.6%になりました。不治の病から長く付き合う病気に変わってきています。厚労省によると、働きながら通院する癌患者も約32万5千人に上ります。しかし、その就労は容易ではなく、34%もの人が自ら退職したり、解雇されたりしています。癌は、手術して完治ではなくその後も化学療法など治療が長く続きます。
例えば、放射線治療などを行う場合、退院後1ヵ月半くらい、1回10分ほどの治療のために毎日通院をしなければならないそうです。この10分のために結局、有給休暇を使わざるを得なくなります。また、抗がん剤の投与などを行えば体調が優れず、早退、残業が出来ない、など以前のような働きが出来なくなります。そうなることで、会社に迷惑をかけているのではないか、と思い自ら退職する方も多いようです。また、癌になった後の所得は、なる前の半分以下になってしまうというデータもあります。
病院内サテライトオフィスは離職や収入減の一定の歯止めになる
癌で治療を続ける方にとっては、病院内にサテライトオフィスができ、無線LANや、FAX、プリンターなどが設置されていれば、10分の治療のために有休を取らなくても仕事ができるようになるでしょう。有休を使い切ってしまった方にとっても欠勤しなくて良く、所得の減少も防げるようになります。
周囲の理解も必要
今までの働きが出来ないことで遅れを取り戻そうと、ついつい働き過ぎてしまいがちになることも考えられ、いくらサテライトオフィスがあるからと言って、今まで通りの勤務を期待することは禁物です。治療に負担とならないような業務内容、業務量を考えなければなりません。そういう意味でも周囲の理解が必要です。
政府も昨年2月に癌や脳卒中などの疾病治療と職業生活が両立できるよう、企業における取組などをまとめた「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を公表しています。こちらも参照しながら、今回のサテライトオフィスとともに癌治療に対する理解を進め、離職に追い込まれないよう、また追い込まないよう企業も協力していかなければなりません。
- 著者プロフィール
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影山 正伸/社会保険労務士
影山社会保険労務士事務所
平成6年11月、社会保険労務士資格を取得。平成8月1月、影山社会保険労務士事務所開業。船橋労働基準監督署の労災課相談員や労働基準協会連合会委嘱「就業規則普及指導員」を務め、労働相談、就業規則受理などの経験を積む。平成11年10月、日本人事総研の研修を受け、実力資格制度の導入等のコンサルティングを開始。現在、新規開業企業に就業規則や労働条件の整備をコンサルティングしている。
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