株主総会「ネット招集」促進への動き (2017/2/7 企業法務ナビ)
はじめに
金田法務大臣は株主総会の招集通知を株主の同意無くインターネットで行えるよう、会社法の改正に向けて2月9日の法制審議会に諮問する方針であることがわかりました。現在ほとんど利用されていない株主総会のネット招集を促進し、企業と株主の対話を活発化させることが狙いです。今回は株主総会招集手続きについて見ていきます。
株主総会について
株主総会とは株主を構成員とし会社の基本的事項について意思決定をする機関を言います。取締役会が設置されている場合は会社法や定款で定められた事項のみを決定しますが、取締役会が設置されていない場合は会社に関する一切の事項について決定することができます(会社法295条1項、2項)。株主総会は毎事業年度終了後の一定時期に定時総会を招集します(296条1項)。一般的に6月が召集時期となっております。それ以外でも必要があればいつでも臨時株主総会を招集することができます(同2項)。株主総会の招集には一定の手続きが法定されており、公開会社か非公開会社か、取締役会設置会社かどうか等でそれぞれ手続きが異なってきます。以下具体的に見ていきます。
召集時期
株主総会を招集する場合、まず取締役は株主に対して招集通知を発送することになります。これには期間制限があり、公開会社の場合は「株主総会の日の2週間前までに」通知する必要があります(299条1項)。この2週間というのは発信日と会日は算入せず、その間に14日以上なければならないということです(大判昭和10年7月15日)。非公開会社の場合は1週間となっており取締役会を設置していない場合は定款でさらに短縮できます(同かっこ書)。非公開会社の場合株式の譲渡ついて2週間以内に承認するかどうかを決定しなくてはならず迅速な招集が必要といった事情があるからです(145条1号)。なお非公開会社でも書面投票や電子投票を採用している場合はやはり2週間となります。これは株主が資料を十分に吟味する期間を確保するためです。
招集通知方法
招集通知は取締役会設置会社である場合または書面投票や電磁投票を採用している場合は書面で行う必要があります(299条2項)。議題等について十分な資料のもとで吟味する必要があるからです。そして取締役会設置会社では定時総会の場合はこの書面に取締役会の承認を受けた計算書類や事業報告を添付することになります。取締役会非設置会社では不要です。この書面による通知が必要な場合、株主から個別に承諾を得れば電磁的方法(電子メール)によって通知することができます(同3項)。取締役会非設置会社で、書面投票や電磁投票を採用していない場合は通知方法につきこのような制限はありません。つまり口頭や電話で招集通知を行ってもかまわないということです。
株主による同意
以上の招集手続は株主全員の同意がある場合には省略することができます(300条)。招集手続はそもそも株主保護が目的であることから、株主が同意しているなら無理に手続きを踏む必要はないということです。しかしこの同意はあくまで事前に同意を得ていなくてはなりません。またやはり書面投票や電磁投票を採用している場合には省略できません。なお株主総会に株主全員が出席した場合は上記の手続きに不備があった場合でも、その総会決議は有効となります(最判昭和60年12月20日)。
コメント
以上のように会社法上は取締役会設置会社が書面・電磁投票を行う場合には書面による招集通知が必要となります。株主一人一人に招集書面と添付書類を作成し郵送することになり、株主が多い上場企業では相当なコストとなります。そこでメールによる通知制度が設けられましたが、これは個別に株主による同意が必要となります。年配の株主等ではネット環境が無かったり、そもそもそういった情報機器を扱えないといった事情も想定されるからです。個別の同意を得られた株主とそうでない株主で分ける必要もあり、この制度はほとんど利用されてきませんでした。2015年度の上場会社での利用状況は3%にとどまると言われております。
そこで同意無くしてネット通知が可能となるよう会社法の改正が検討されております。海外では多くの国ですでに取り入れられており、日本でも海外投資家からの要望が出ていたという事情もあります。これにより書面よりもより詳細な資料を株主に送付することができ、またコストも大幅に削減できることが期待されます。招集手続の規制は意外に複雑で、不備があれば取消訴訟の対象となります(831条1項1号)。通知時期や通知方法等、どのような手続きが必要かを正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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