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元東京のエンジニア、長岡の「移住女子」が語る「地方の仕事のつくりかた」 (2016/10/11 70seeds

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日本一の米どころといえば?…そう、新潟県です。

「魚沼産コシヒカリ」に代表されるお米そのものはもちろん、「久保田」「八海山」などの日本酒や、最近ではお米を使ったスイーツなど、日本人の食に欠かせない「お米」とともに歴史を重ねてきた街。

そんな新潟県は長岡市に今年の春、食と観光が一体化したフードツーリズム「レストランバス」が登場しました。2階建てバスで市内の酒蔵や農園をめぐりながら、その場所にまつわる食材でつくった料理を楽しむこのプラン、企画のキーマンとなったのは「移住女子」こと栗原里奈さんでした。

東京で「キラキラ女子」だった彼女が長岡市に移り住み、見つけた「地方ならではの仕事」の作り方とは。

「移住女子」こと栗原里奈さん

レストランバスならただの田園風景が「感動の対象」になる

――栗原さんは新潟の「食」をテーマに活動しているとのことですが、具体的にはどんなことをしているんですか?

「思いのほか」という食プロデュースのNPO法人や、「レストランバス」というフードツーリズムの活動に取り組んでいます。後者は2階建てバスでコース料理を食べながら新潟市中心を巡るというもので、一般社団法人ピースキッチン新潟が立ち上がって今年の4月30日から運行開始しています。

――私もさっき乗ってきましたが、食事とその背景を順番に味わうことができる新しい楽しみ方だなと思いました。どうしてこの活動に関わり始めたんですか?

レストランバス

今までの「観光」のあり方を、もっとアップデートできるんじゃないか、より地域の「中」に入り込んだ形で外の人に楽しんでもらうことができるんじゃないか、と考えたからです。

――「観光」のあり方というのは?

これまでの「観光」は定番どころを回る、いわゆる「ゴールデンルート」が中心でした。でもそれでは2回目以降足を運ぶ理由がなくなってしまう。それを解決するのは、まちの「日常」を通じて心の通わせ合いをする「共感」だと考えています。

――例えばどういうことなんでしょう。

例えば、レストランバスでは、ご飯を食べたり日本酒を飲みながら、そのお米が採れた窓の外の田園風景を眺める。そうすると、それまでの「観光」ではなんでもない日常風景だったものが、感動の対象になるんです。あとは酒蔵を訪れたり、トマト農園を訪れたり。

日本酒

――確かに、食べるものと目の前の風景がつながって楽しめるのは「レストランバス」ならではでした。

「レストランバス」は、新潟の中の人を中心に外の人も関わってくれていて、そういった意味でも新しい「観光」の形をつくれているのかなと思っています。

「東京のエンジニア」から「移住女子」へ

――栗原さんは「移住女子」としても知られていますが、長岡に住む前はどちらにいたんですか?

東京都中央区大手町のIT企業でエンジニアとして働いていました。当時は俗にいう「キラキラ女子」でしたね(笑)

――キラキラ女子(笑)どうして移住しようと思ったんですか?

2011年3月の東日本大震災ですね。あのとき各地で買い占めが起きて、姪っ子のためのミルクを作る水さえ手に入らない状況だったんです。いくらお金があったとしてもお米も買えない、生きていけない。

――比較的被害が薄かった都内でさえその状況でしたね。

だから、食が身近な環境に暮らしていきたい、そういう環境で子どもを育てたい、と意識へ変わったんです。そのとき子どもはまだいませんでしたが。いつ地震が起きるかわからないのにこのまま東京に暮らし続ける選択肢はないなと。

――それで新潟へ。

はじめはいろいろ回りました。福井とか土佐山(高知県)とか遠野(岩手県)とか。移住先を探しているとき、たまたま新潟県長岡市で地元の人とも土地とも馴染めて「いいな」と。2011年6月にエンジニアをやめて、知見を広げるために別のスタートアップで働いたり、六本木農園(※東京のレストラン、現在は閉店)なんかで働いて経験を積みながら、2012年4月に移住しました。

――新潟に移ってからはイメージ通りの生活を始めていけましたか?

本当はすぐに山の中で暮らしたかったんですけど、空き家がなくて結局山の中に住めたのは1年半後でしたね(笑)。田んぼと畑が周りにある生活は、子供がのびのびと暮らせてよいです。

――東京の暮らしとは全く違いそうですね。

そうですね。こちらに住むようになって、改めて東京は流通に助けられている、お金で生きられる都市だったんだということに気づきました。それは地方で生産する人が少なくなると東京も生きられない、ということなんですが。

――TPPの件なんかもありますね。

自給率が解決できないまま海外の流通に頼りすぎてしまうリスクがありますよね。海外と比較しても東京に一極集中しているのは日本だけだそうです。地方と都市部のバランスを保たないといけないと思っていて、移住女子の活動はその一翼を担えるのではないかと思っています。

――例えば?

「東京だけでなく地方でも自分らしく生きることができる」「東京の大学に行って、東京の大企業に行くことが正解というわけではない」ということを移住女子では発信し続けています。元気な女性が地方へ行くことで、ご縁あって移住先で結婚することができれば、地方でさらに人口が増えることになりますし、地方の過疎高齢化対策にも有効ですよね。

地方だからできる仕事とは

「移住女子」こと栗原里奈さん

――とはいえ、地方だとどうしても仕事が少ないんじゃないか、という心配はありますよね。

そうですね。私は地方でできる仕事って2つあると思っていて。1つは、東京である「クリエイティブな仕事」って地方でも実は変わらないんじゃないかと。要は、パソコンとネットがあればできる仕事です。

――神山町とかいろんなところで実績もありますからね。

もう1つは「フードナビゲーター」、すなわち食文化について語れる人、が職業として成り立つようになると思っています。いままで考えられなかったような仕事、まだ表に出てきていない仕事があるはずだと。

――それは面白い発想ですね。

仕事って時代時代に合わせて変わるものだと思うんです。例えば江戸時代にあった氷の運び屋さんっては今は見かけませんよね。東京でお金があればできること、地方ではお金がなくてもできることにどうお金を発生させていくかが、仕事の作り方だと思っています。

――たしかに。そんな風に地方で仕事をつくっていくために必要なことって何なんでしょう。

まずは地方の現場に訪れること。その現場の「想い」を伝え、聞くことです。さっきも話しましたが、これからは「共感」の時代になると思います。共感してくれるからファンが生まれる、思いを共有しあうからこそ相互の刺激が生まれるということを大切にできるかどうか。

――その表れが「レストランバス」ですね。

はい。生産者の想いをくみ取って料理人が料理をするという場です。今は素材の良しあしだけを判断、料理人の範疇でしかないことが多いなって。生産者が料理人のファンになると、地域を思って作っている料理人が「自分がどうアクションしようか」と考えていける。

――これからの時代、「働く」ということのあり方も変わりますよね。

ロボットが増えて便利になる一方で心と心を通わせる時間が減ってきます。だからこそ、生産現場の想いを伝えることができるか、が自分の役割になるんだろうなと思っています。

――なるほど。

小規模で想いを持っている農家さんが生き残れるように、と考えていますね。もちろん生き残っていけるかどうかは農家さんの経営体にもよりますが、小規模農家さんでやっているからこそ見える魅力がある。彼らがいることで、結果として地域が残っていける。

トマト

――栗原さんの活動の源泉ってどこにあるんですか?

子供にいかに新潟を残していくか、です。子供のことは結婚前から考えていました。子供たちが生きていくには、をずっと。「日本人」も何百年先には数百人になってしまう。これがなるべく続いていくように、せめて孫世代までは。そういう人がどれくらいいるかで地方都市が生き残っていけるか決まっていく、そうでなければその先の未来は変わらないと。

――未来は必ず訪れるものですからね。最後に一言ありますか。

今は、その想いを共有する仲間と新潟を残していくために頑張っています。そもそも年金をもらえるのが当たり前だったのが異質な時代だったんじゃないかと思うんです。人数も莫大で、人口を賄うために森でよかった場所が開墾されて田畑になっていきました。これからの時代の規模が適正なのかもしれません。でも人がいなくなっては成り立たないから、子供をいかに増やしていくか、いかにこの素晴らしい自然、果ては地球を残していけるか。自然と人間が共生・共存のできるバランスをとるために何ができるかを考えています。

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