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なぜ「東京一極集中」論はミスリーディングなのか~総務省「人口動態調査」が示唆する本当の姿 (2016/9/1 NTTデータ経営研究所

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東京一極集中が止まらない?

 以前、最近の人口動態の特徴は、東京(圏)一極集中でなく、中核4域7県への凝縮にあると書いた(2016年2月「ITが人口の大都市集中を加速させる」http://www.keieiken.co.jp/pub/yamamoto/column/column_160201.html 参照)。中核4域7県とは、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)、愛知、大阪、福岡である。

 しかし、総務省が7月に公表した「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」(以下、「人口動態調査」)では、多くのメディアが「東京一極集中が止まらない」と報じた。

 筆者がかねて着目してきたのは、各都道府県の転出入超数――社会増減――である。一方、「東京一極集中」論が根拠とするのは人口増減そのものだ。その違いは何か。

なぜ「日本人住民」だけ?

 参考1が、上記「人口動態調査」を受けて主要紙が一斉に報じたデータである。たしかにこの統計によれば、2015年中の人口増加は、東京、神奈川、愛知、埼玉、沖縄、千葉の6都県にとどまる。他は、福岡、大阪を含め、すべて人口減少だ。

(参考1)都道府県別の人口

 だが、このデータの解釈には慎重な検討が必要だ。

 第1に、これは日本人住民のみの統計である。通常、日本全体の人口を語る際には、外国人住民を含む「総人口」で議論する(2016年1月1日現在、127百万人)。なぜ都道府県の人口を語る際だけは、「日本人住民」で議論するのかが分からない。

 ちなみに、人口動態調査には「総計」のデータもあり、こちらは福岡も人口増加となる。大阪の減少率も小幅にとどまる。逆説的にいえば、外国人は総人口に占める比率こそ低いが、すでに日本経済にとって貴重な力である。無視すべきでない。

東京圏の人口増加が突出してみえるのは、死亡率の低さが一因

 第2に、では、なぜ「日本人住民」だけでみた場合、東京圏の大幅増に対し、福岡、大阪は人口減少となるのか。

 人口の増減は次の式で決まる。

 人口増減=自然増減(出生-死亡)+社会増減(転入-転出) [人口増減の公式]

 このうち社会増減は、福岡、大阪も転入超だ。したがって、福岡、大阪の減少は、自然減が大きいことによる。とりわけ死亡率が東京圏に比べ高い(参考2)。

(参考2)中核4域7県の人口増減の要因分解(2015年中)

 逆にいえば、東京圏は、他地域からの転入超の大きさに加えて、死亡率の低さに特徴がある。東京圏(4都県平均)の死亡率は、沖縄を除き、際立って低い。

 これは、焼け跡世代や団塊世代が就学期や就職期に東京圏に移住してきたあとそのまま定住し、今も暮らしていることによる。一方、非東京圏は、彼らが転出したことで高齢化がいち早く進行した結果、最近は死亡率の上昇が顕著となっている。

 このことは、あと10~20年もすると、東京圏も死亡率が上がり、人口増減が変化することを示唆している。

 東京圏はもともと出生の割合が低い(合計特殊出生率)。それを他地域からの人口流入で埋め合わせてきたが、最近は地方の人口減少が著しく、他地域からの流入で人口を補てんすることが次第に難しくなってきている。

 これらの結果、東京圏の人口も早晩減少に転じる可能性が高い。全国に占める東京圏の人口シェアも、長期的にみれば上昇トレンドはスローダウンしてくるだろう。

東京圏では、東京都とその周縁部への「凝縮」が進行中

 第3に、大都市への「凝縮」という観点からは、東京圏のなかでも東京都とその周縁部への凝縮が進んでいる。

 90年代半ば以降の人口移動の特徴を改めて述べれば、(1)拡大東京圏(東京圏、茨城、栃木、群馬)における東京圏4都県への人口の凝縮、(2)大阪圏(大阪、京都、兵庫)における大阪への凝縮、(3)名古屋圏(愛知、岐阜、三重)における愛知への凝縮、(4)九州地域における福岡への凝縮にあった(参考3)。

 このうち東京圏は、さらに凝縮の傾向が強まり、「東京都とその周縁部(埼玉南部・千葉北西部・神奈川東部)」への凝縮が進行している。東京圏に限らず、どの大都市圏、中堅都市にあっても、人々は中心部とその周縁部に向かって移動している。

(参考3)都道府県別人口転入超数の推移

懸念すべきは、東京一極集中でなく、国全体の人口減少

 こうしてみると、人口の「地方圏・大阪圏=減少、名古屋圏=横ばい、東京圏=増加」を根拠とする「東京一極集中」論は、いかにもステレオタイプ的でミスリーディングだ。

 今起こっているのは、高齢化と人口減少を背景とする中核4域7県への「凝縮」であり、その中心部への「凝縮」である。

 こうした状況下、日本では、社会目標として「地方・東京圏の転出入均衡(2020年)」を掲げている。はたして、これは何を意味するか。改めて「人口増減の公式」を使って、推量してみよう。

 東京圏では、今後死亡率が上がり、出生率(人口に対する出生数の比率)は下がる。この結果、自然増減は減少に向かう。一方、社会増減面では、高齢層の流入がさらに進む可能性が高い(注)。したがって、「東京圏の人口転出入均衡」を実現しようとすれば、若者に地方への移住を促すしかない。

(注)高齢層は、介護や医療サービスを求めて、東京圏の周縁部(埼玉南部、千葉北西部、神奈川東部)に流入してくる傾向が鮮明である。

 そうであれば、ただでさえ若者の不足していく東京圏で、その減少に拍車がかかることを意味する。これまで日本経済のリード役を果たしてきた東京圏だが、はたしてそうした事態が生じて、本当に国全体の経済がもつのだろうか。

 地方創生はもちろん大事だ。それは大都市圏、地方圏のどちらが重要ということではなく、地域を問わず、内外に競争力をもつ産業が大事という意味でだ。ア・プリオリに、大都市圏から地方圏への人口移動、あるいは地方圏から大都市圏への人口移動が望ましいと決めつけられる話ではない。

 要は、日本経済が抱える問題は「東京一極集中」に起因するのでなく、「国全体の人口減少」に起因しているということだ。これを誤解してはならない。

 何よりも大事なのは、大都市圏、地方圏が競って産業競争力を高めることである。東京一極集中「是正」のために国の資源配分を歪めるようなことがあってはならない。それぞれの地域が競争優位にあるエッジの確立に専念することこそ重要である。

提供:NTTデータ経営研究所

著者プロフィール
山本謙三山本 謙三
株式会社NTTデータ経営研究所 取締役会長
1976年東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業。同年日本銀行入行。金融市場局長、米州統括役、決済機構局長、金融機構局長などを経て、2008年5月理事。 2012年6月より現職。
専門分野は、金融機関・金融システム、金融政策、決済、業務継続。
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