民間出身だから分かる肌感覚で是々非々の姿勢を貫く―中小企業の経営者から国会議員に転身し歩んできた道とは (2016/5/24 Patriots)
2005年に中小企業の経営者から衆議院議員に転身し、4期目となる平将明衆議院議員。これまで前・内閣府副大臣として地方創生や国家戦略特区、クールジャパン戦略などを担当し、さまざまな実績をあげてきました。利益誘導型ではなく、是々非々で自分の意思を貫いてきた、という平議員の政治活動や政治にかける想いについてお聞きしました。
浮世絵離れした政治に疑問を持ち衆院選挙候補者公募に挑戦
――政治の世界を志したきっかけや経緯について教えて下さい。
平成元年に大学を卒業後、父が病に倒れて、大田青果市場の仲卸業者をしている実家を継ぐことになりました。実家は典型的な中小企業で、バブル崩壊後は経営の立て直しをはからなければ生き残れませんでした。
29歳で社長に就任し会社再建に乗り出しましたが、大きな赤字を出して苦しみ、やむなくリストラを進めた時期もありました。それでもようやく経営が落ち着き、売り上げも伸び始めたころに金融危機が起き、メインバンク、準メインバンクの両方が相次いで経営破たんする、という信じられない事態が起きました。資金繰りに奔走し、新規に融資をしてくれる銀行探しに苦労する中で、中小企業を大事にする、と言いながら全く実態に即した中小企業対策を行えていない政治に怒りすら覚えるようになりました。
多くの中小企業経営者は政府に「助けて」と声を出すこともせず、大変な状況の中でも必死に自分の力で生き残ろうとしています。それなのに政治は浮世絵離れしたことばかりしている、と感じ、政治家が果たすべき役割について考えるようになりました。
また東京青年会議所に在籍していたころ、アメリカのようにディベートの内容で候補者を選べる仕組みを作りたいと思い、公開討論会の開催を支援する団体「リンカーン・フォーラム」と手を組んで東京23区内の衆議院小選挙区すべてで公開討論会を開いたことがあります。候補者から公開討論会の出席を断られることもありましたが、出るか出ないかは各陣営の選挙戦略と割り切り、欠席者がいても実施する方針を貫きました。
公開討論会では候補者の人間性や見識の深さなどが洗いざらい明らかになり、嘘やごまかしは見破られます。実際、討論の内容を聞いていれば世間のイメージと違う候補者もいましたし、本当に実力のある人がちゃんと評価される仕組みを作れたことは良かったと思います。
一方で公開討論会を通じ、すべての候補者が投票に値する人材ではない、いわば“不幸な選挙区”があることにも直面しました。そのような選挙区では、自ら選挙に出る、という選択肢もあるのだと思います。
「選挙に行って投票しよう」という啓蒙活動は一生懸命に行われていますが、立候補する被選挙権だってあるんですよ、という部分はなかなかクローズアップされません。そのため東京青年会議所のメンバーとは、公開討論会をやって投票したい候補者がいない選挙区があるなら、自分が候補者になって選挙に出る道もあるよね、と話すようになりました。
バブル崩壊後、行き詰っていた社会はだれかが変えなければいけませんでした。選挙に出るにはリスクもありますが、そのリスクを取らないと始まらないこともあります。リスクと言っても、選挙に負けたところで命までは取られませんし、その失敗を糧に新たな挑戦ができることだってあるでしょう。それならば自分も政治の世界に挑戦してみようと思い、2005年、私は自民党の衆議院議員選挙候補者公募に応募。投票日の25日前に自民党から公認をもらって選挙活動を行い、幸運にも当選することができました。
世襲でも官僚出身でもない私が歩んできた10年とは
――著書『超現場主義 中小企業金融論』の出版からちょうど10年になろうとしています。この本に書かれた思いは10年でどのように実現されてきたのでしょうか。
衆議院議員になって最初のころは河野太郎議員らと一緒に行政改革の一環で「無駄撲滅プロジェクト」に取り組み、構想日本が地方自治体で行っていた事業仕分けの手法を初めて国政に導入しました。長年続いた政権与党が国の予算を削る事業仕分けに着手する、というのはある意味、画期的なことで、多くの議論を行いつつ実際に何千億という金額を削減できました。その後、民主党が行った事業仕分けについては多くの人の記憶に新しいところでしょうが、実は自民党が先駆けてやっていた取り組みだったのです。
2014年から2015年にかけては内閣府副大臣を務め、地方創生や国家戦略特区などを担当しました。地方創生担当で内閣府特命担当大臣(国家戦略特別区域)だった石破茂さんから副大臣に指名された翌日、「地方創生は地方版成長戦略だ!」とするコンセプトを固めた資料“平ペーパー”を石破大臣に持参し、旧来型の補助金や公共事業のばらまきはやめましょう、と訴えました。
アベノミクスは「3本の矢」という考えで進められていますが、大胆な金融緩和政策である「第一の矢」、機動的な財政政策である「第二の矢」がすでに放たれ、いまは第三の矢である「成長戦略」を大胆に、スピード感をもって実行している段階です。第三の矢の中心的なコンテンツは自由貿易の推進と規制改革の推進です。規制改革では最も強力な政策ツールである「国家戦略特区」に力を入れました。
国家戦略特区についてはもっと目に見える形でワクワク感を取り入れたいと思ったので「近未来技術実証特区」というカテゴリーを新設しました。これは無人飛行(ドローン)や遠隔医療、遠隔教育、自動走行など近未来技術実証プロジェクトを推進する具体的な提案を公募。そのうえで実現に必要な規制や制度改革についても提案を受け、特区制度に相応しい内容であれば政務三役が提案者に成り代わって規制省庁と交渉をするものでした。そのため今までにない速いスピードでさまざまなプロジェクトを進めることができ、ドローンによる宅配サービスなど「近未来技術実証・多文化都市」の構築で国家戦略特区に指定された千葉市などが良く知られていると思います。
このように政治がどのような役割を果たせばイノベーションが進みやすくなるか、という発想は、民間側の立場にたって考えられるかどうかが大きなポイントです。その意味では民間出身の議員だからこそ気づけることも多いと思っています。
2015年11月からは自民党行政改革推進本部副本部長に就任し、併せて自民党行政事業レビュープロジェクトチーム(旧:無駄撲滅プロジェクトチーム)の座長に就任することになりました。ここでは「エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング」を提唱し、「エピソード」ではなく「エビデンス(統計や証拠など)」をベースに政策を作る仕組みづくりに取り組んでいます。
このように官僚出身でもない、世襲でもない私ですがたくさんのことに取り組んできました。筋が通らないと感じるときは本会議で党議拘束に反して「造反」するなど是々非々でやってきましたが、幸運なことに党から除名されることもなく、いまは4期生となって様々な政策に一定の影響力を持って関われることができています。10年間やってきて、政治の世界での事の進め方やコンセンサスの取り方、政策の実現の仕方はだいぶ分かってきたので、これからはもっとスピードを上げてさまざまな課題解決に取り組んでいかなければいけないと思っています。
被選挙権を活用に目を向けて、もっと多様な人材にチャレンジしてほしい
――自民党が実施している「オープンエントリー」についてご意見をお聞かせください。
平成25年にインターネット選挙運動解禁に係る公職選挙法の一部を改正する法律(議員立法)が成立しましたが、インターネット投票については今後の課題です。もしインターネット投票ができれば劇的に投票率は変わると思いますが、本人認証などさまざまな問題はあります。そのためインターネット投票を検証する意味もあって、「オープンエントリー」は自民党が参議院選挙公認候補者の選考過程を公開し、有権者が候補者選びに参加できるようにしました。色々な意見はあるでしょうが、政権与党が問題意識を持って、とりあえずやってみよう、としているチャレンジ精神は評価すべき点と思います。
実際、オープンエントリーは誰でも応募できたため、多様な人材が集まりました。どのような人が応募してくるか分からない点では難しい面もありますが、無名だった人材が発掘されることもあるでしょうし、面白い試みであることは間違いありません。私は自民党の動画チャンネル「Café Sta」ですべての候補者と話をしましたが、なかなか興味深かったです。
――これからどのような人に政治を目指してもらいたいですか?
いま若い人たちと一緒に、被選挙権の引き下げについても議論しています。もし議員の被選挙権を21歳ぐらいにまで下げられたら、大学3年生のときに就職するか、選挙に出るかの選択ができるようになるでしょう。経験の浅い若者に議員が務まるのか、という人も多いでしょうが、実際に議員になってから学んでいけば良いこともあるし、若い人材が入ることで議会の活性化にもつながるはずです。たとえ落選してもやり直せる年齢ですし、とりあえず選挙に出てみる、という選択肢が取れるようになってほしいですね。同世代の仲間が候補者になれば、若者の政治に対する参加意識はもっと盛り上がると思います。
政治家の悪いイメージの報道ばかりが先行しがちですが、社会のために誰かがやらなければいけない政策を、たくさんの人たちから意見を聴取し、立案し、実現に向けてコツコツと取り組んでいる議員はたくさんいます。政治の世界で自分にも何かできるのではないか、と思う人が一人でも増えてくれるとうれしいですね。
聞き手:吉岡名保恵
提供:Patriots
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