『災害復興法学』を創設した弁護士が目指す 組織の人づくりとリーガル・レジリエンス (2016/5/6 クオリティ埼玉)
災害復興法学とは何か
災害と法は、極めて密接な関係性がある。例えば、耐震化やBCP(事業継続計画)を進める法制度や金融のしくみにより、ハード・ソフトの災害対策を促すことができる。また、災害後では、困難の中から、被災者・被災企業が一歩踏み出すための支援として法制度が存在感を現す。東日本大震災をきっかけに、災害後に日常を取り戻すための法制度情報の伝達の重要さを痛感した。同時に、その分野に関する、防災教育や研修の機会が欠如していることに愕然とした。
「災害復興法学」は、東日本大震災後の災害対応の経験を伝えようと創設した講座や同名書籍である。「法学」とあるが、被災地のリアルなニーズを、膨大なデータベースから客観的に明らかにしたり、災害後の各種政策実現に至る軌跡を公共政策上のノウハウとして伝えたりする取り組みである。東日本大震災での法律家の知見は、伊豆大島土砂災害、関東各地の豪雪災害、竜巻災害、丹波・広島豪雨災害、関東・東北豪雨災害、そして熊本・大分地震災害後の対応でも活用されている。しかし、都度新たな課題に気付かされてもいる。
リスクや課題に立ち向かえる企業人を育成する
第1段階として、「災害時に従業員、家族、自分がどのような困難に陥るか」を「組織」や「ハード」の被害を離れた「一人ひとりの生活」の目線から想像してほしい。当たり前の「日常」や「繋がり」をまず思い浮かべる。それが危機においてはどうなってしまうのかを真剣に考え、想像する。今まで考えたことがない、答えが直ぐに見つからない複合的課題が出てくるだろう。「想定外を想定する」思考の訓練になると同時に、災害が一気に「自分ごと」になる。
第2段階として、日常―すなわち、住まい、お金、契約、教育、家族など―が陥る困難を、過去の災害ではどうやって乗り越えてきたのかを知る。既存の法制度のみならず、災害後の法改正の軌跡などから、災害後の再建の過程を追体験する。企業が従業員、家族、関係者に対して果たすべき新たな役割に気が付くはずだ。企業や組織の中で求められるイノベーティブな人材は、自然災害からの再建過程を学ぶことで作られはしないか。
「職場も、自宅も失った。これからどんな困難がやってくるのか。いったい何ができるのか」。「住まいや支払いなど先の見通しがつかない。事業を続ける気力も失いつつある」。これこそが、従業員、お客様、取引先、それぞれの家族、そして自分にも訪れるかもしれないしれないリアルだ。その時、絶望の声を少しでも希望に変えるべく、必要な「情報」にアクセスする術が必要だ。防災・減災の一環として、生活再建のための制度の「知識の備え」をする人材育成が不可欠だと考えている。
未来の担い手を育てる「災害復興法学」の挑戦
東日本大震災後、弁護士らは集中的な法律相談を実施した。3.11直後から約1年数か月の間に実施された震災相談については、リアルタイムで分析し、被災地のニーズ把握と、法制度の改正への提言へ繋げた。集約を担当し分析できた事例だけでも4万件を超えた。東日本大震災後の法改正を含む「公共政策の軌跡」を記録した「災害復興法学」は、次におこる巨大災害に対応できる人材を後世のため育成したいという願いから始まったものである。
巨大災害が起きれば新たな課題が見つかり、法改正も繰り返される。だからこそ、制度は進化し、社会を支えるインフラとなる。これは「法的強靭性」(リーガル・レジリエンス)の構築と表現しても差支えないだろう。この国の未来を担うすべての者へ、政策の軌跡と4万件の声を教訓として伝承するために、新たな防災教育の構築に挑戦し続けたい。
岡本 正
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