ウィズコロナ・アフターコロナ時代に必要な政策 (2020/9/18 衆議院議員 中谷一馬)
オールドタイプが闊歩する聖域へデジタル変革
新型コロナウイルスに対する共通の脅威により、社会における不合理かつ不自由であった課題が一気に露呈し、要所要所で改革が迫られました。
たとえば、これまであまり進展していなかった格差是正やセーフティーネットの担保、医療・教育・政治・行政などのオールドタイプが闊歩する聖域へデジタル化の変革をもたらすなど、何十年経っても動かせなかった山が動かざるを得ない状況に変わりました。
これを機に、対面でないとできないとされてきた、あらゆるF2F(フェイス・ツー・フェイス)の仕組みを見直し、DX(デジタルトランスフォーメーション)※を加速させることができるかどうかが未来を左右します。
オールドタイプの聖域がデジタル化を意識し始めたとはいえ、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が作成した「世界デジタル競争力ランキング」(2019年版)では対象63カ国・地域中、日本は23位。1位は米国、2位はシンガポールですが、韓国(10位)、台湾(13位)、中国(22位)よりも下位と評価されています。2020年のコロナ禍においては、世界のデジタル化が大きく進展することが見込まれるので、デジタルの対応が遅れている日本の競争力は相対的にもっと下がる可能性が高いことが懸念されます。
しかしながら社会のデジタル化は必要不可欠なテーマですから、こうした機会を逃さずに、デジタル・ニューディール的な発想で未来志向の思い切った改革をどんどんと前に進めるべきだと考えます。
日本円がデジタル化される時代
また金融分野においても世界に先駆けるチャンスなので、CBDC(中央銀行発行デジタル通貨)の発行に関する研究検討を加速させなければなりません。
中国のデジタル人民元(DCEP)、スウェーデンのe-kronaや民間企業であるFacebookのLibraなどの構想が台頭したことによって、国際的にもCBDCの議論が行われるようになりました。デジタル経済時代におけるプラットフォームをGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)やBATH(Baidu, Alibaba, Tencent, Huawei)などに席巻され、我が国の企業が存在感を示せない中で、フィンテック時代を牽引すべく、日本銀行がElectronic円を発行して流通させることができたならば、多額のコストと手間をかけていた従来の送金や決済がより簡単かつ安価になります。
日本銀行も欧州中央銀行(ECB)など6つの中央銀行および国際決済銀行と具体的な研究を始めるなど、世界的にCBDCに関する議論が進んでいますが、コロナ禍において現金やクレジットカードなど頻繁に触れる物体を通じた感染拡大に対する懸念が指摘されるようになり、CBDCの議論がさらに加速することになりました。
また世界中には、貧困などが原因で銀行口座を持つことができず、基本的な金融サービスを現在も受けることなく、現金だけで生活している人が約17億人います。デジタル通貨の進化は、こうした世界の人々と日本との距離を縮め、その恩恵を行き渡らせる金融包摂(Financial Inclusion)の促進にも繋がります。
その結果、消費者にも多大なメリットを与え、経済活動に大きなインパクトを与えることが期待されており、カナダ中央銀行職員が、CBDCの導入を行った場合に、現金のみの経済と比較すると消費がカナダでは0・64%、米国では1・6%それぞれ最大で上昇するという趣旨の論文を発表し、経済的利益に対する考察を行っています。
日本において、法定通貨をデジタル通貨へと段階的に切り替えることは、決済手段の利用管理に伴うコストの削減、ユーザー利便性の向上、金融政策の有効性確保、シニョリッジ(通貨発行益)減少防止にも繋がり得ると考えます。むしろ20年後から30年後の未来を描いたときに、紙幣や硬貨を使わない生活が主流になっていることを想定した上で、未来から逆算した政策を打ち出していくことが必要です。新型コロナウイルスによりさまざまな問題が浮き彫りになっている今だからこそ、大きな変革を起こせる機会だと思っていますので、CBDC発行に向けたさらなる研究・検討を進めて参ります。
教育、働き方がデジタルで激変する
また、デジタル化は個人の選択の自由を広げます。
テレワークが普及すれば仕事のためにわざわざ職場の通勤圏内に住む必要はなくなり、自分の生活スタイルに最も適した場所に住むことができるようになります。つまり仕事の選択と居住地の選択を分けることが可能となり、感染リスクのある満員電車の混雑や、コロナ禍の有事に子どもを預かってくれる人がおらず仕事をやめなければならないといった、常態化されていた社会問題のストレスから解放されることになります。それはすなわち、各々の生産性向上に寄与するのみならず、物理的な距離に捉われない働き方は、全国各地にリアル・オンライン双方のハイブリッド型で人材の流動化が進み、東京一極集中が緩和され、地方創生を後押しします。
また、オンライン教育立国を目指すことは、親・子ども・先生に対する幅広い選択肢の提供に繋がります。
これまでの日本社会は、学級や部局など集団化された組織の中で、学びや営みを行う仕組みを規律として強いてきました。その一方、オンライン教育は、固定化した人間関係からも逃れやすく、これまで不登校だった子どもたちにも教育の機会を広げます。
さらに、テレワークやオンライン教育は、通勤・通学の労がなくなり、障害のある人も学業や就労に携わりやすい環境を整えることになります。
今般の臨時一斉休校の際、日本の公立学校では、同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習が15%しかできていなかったことを踏まえ、コロナ禍におけるニューノーマルな教育環境を整えることが必要です。デジタルの力を活用して、安定して学びを止めることなく、学習者一人ひとりの能力や習熟度に合わせて学習教材や学習方法を選択するアダプティブラーニング(学びの個別最適化)を前進させることが学力の向上に繋がります。
オンライン教育を進めるためには、地域間格差・学校間格差を是正し、教育機会の均等に焦点を当てた手厚いサポートとインフラを整えることが必要です。誰もが通信できる環境を整備し、デジタルデバイドを起こさない施策を前に進めることが必要です。
エッセンシャルワーカーへのディーセントワークの拡充と経済再生
その一方で医療、福祉、公共インフラ、行政、保安、一次産業、製造業、運輸物流、流通、保育などの職種に携わるエッセンシャル・ワーカーは、緊急事態宣言を受けても感染リスクに晒されながら前線で働き続けなければならない環境がありました。この度のコロナ禍では「ラスト1マイル」「ラスト1メートル」の仕事はデジタルの実用化がまだ難しいことが明確になりました。このような仕事は、社会を好循環させるために非常に大切な業務であるにもかかわらず、報酬が低いまま放置されてきた職種も散見されます。
こうした観点から、額に汗して働くすべての人にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)が実現されることを目指すべく、持続可能な生活に必要な社会的支援と収入が保障され、健康的に働くことのできる安全で衛生的な環境が確保されるといった、働く人の権利保護が適切に行われる労働環境を整備することが必要です。
また、新型コロナウイルスの感染拡大とコロナ対策による経済へのブレーキが凄まじい破壊力となって世界経済に深刻なダメージを与えています。
ブレーキの解除に最も必要なものは治療薬とワクチンです。世界各国が協力し、科学的知見に基づいた連携を始め、治療薬とワクチンの開発を行うと同時に持続的な手法での生産体制を早期に整備し、必要とするすべての人に行き渡らせる施策が不可欠です。そして、ブレーキを踏んだことによる穴を埋めるためには、アクセルに相当する財政出動が必要となりますので、未来を見据えた投資を積極的に提言して参ります。
◇
(※)編集部注:DXとは「IT化の浸透が人々の生活をより良いものへと変革する」という概念。経済産業省が2018年に取りまとめた「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」では、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
- 著者プロフィール
- 中谷 一馬(なかたに かずま) [ホームページ]
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1983年生まれ。B型。貧しい母子家庭で育ったことから経済的な自立に焦り、日吉中学卒業後、社会に出る。だがうまく行かず、同じような想いを持った仲間たちとグループを形成し、その代表格となる。
しかし「何か違う」と思い直し、横浜平沼高校に入学。その後も社会人として働きながら、呉竹鍼灸柔整専門学校にて柔道整復師の資格を取得し、慶應義塾大学に進学。デジタルハリウッド大学大学院にてMVPを受賞し首席で修了。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士号の学位を取得。その傍ら、東証一部に上場したIT企業gumiの創業に役員として参画。こうした過程において社会を変革する必要性を感じ、人の役に立つ人生を歩みたいと政界進出を決意。
その後、のちに第94代内閣総理大臣となる菅直人氏の秘書を務め、27歳で神奈川県議会における県政史上最年少議員として当選。在職中に世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)のGlobal Shapersに地方議員として史上初選出され、33歳以下の日本代表メンバーとして活動。第7回マニフェスト大賞にて最優秀政策提言賞を受賞。
現在は立憲民主党衆議院議員(神奈川7区/横浜市港北区・都筑区)、立憲民主党青年局長(初代)として活動中。趣味はラーメンの食べ歩き。
著書:セイジカ新世代
母子家庭・貧困育ちの元不良少年が国会議員になって新しい政界を創る話
https://www.gentosha.co.jp/book/b13271.html
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