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子どもの貧困対策大綱、改正で何が変わったか―すべての子どもに切れ目のない支援を (2020/2/7 政治山)

 政府は2019年11月29日、「子どもの貧困対策大綱」を閣議決定しました。前回の大綱策定から5年、すべての子どもが夢や希望をもてる社会を目指すという理念を掲げた今回の大綱を受けて、子どもの貧困は改善に向かうのでしょうか。「子どもの貧困対策推進議員連盟」のメンバーであり国会でも問題提起を続けてきた牧山ひろえ参議院議員と、全国30カ所に子どもたちの「第三の居場所」を設置するなど民間の立場から取り組んできた日本財団の本山勝寛氏にお話をうかがいました(文中敬称略、表記を「子ども」に統一しています)。

【本山】 今回の「子どもの貧困対策大綱」の目的には、「現在から将来にわたり、すべての子どもたちが夢や希望を持てる社会を目指す」と記載されています。この大綱の目的や理念をどのように評価していますか?

すべての子どもが、夢や希望を持てるように

【牧山】 今回の法改正や新大綱では、子どもたちの「将来」に軸足を置いていたこれまでと異なり、日々の暮らしやお金のことにも着目しています。具体的には、守るべき対象として「子どもの現在」という言葉が入ったことは評価すべきと思います。

 また、「すべての子ども」を対象としたことで、SDGs(持続可能な開発目標)のスローガンでもある「誰一人取り残さない」という精神を盛り込むことができたことも大きいですね。「どんな子ども」とカテゴリを決めてしまうと、そこから漏れてしまう子どもがいます。子どもたちも多様な生き方をしている今、視野を広げて貧困と向き合わなければなりません。

 さらに、「子ども一人ひとりが夢や希望を持てるように」と追記したことは大切なことで、人はただ生きていればいいというものではないという重要な考えが盛り込まれました。新大綱策定に先立って改正された「子どもの貧困対策の推進に関する法律」において、児童の権利条約の精神に則って推進することが目的に明示されたことも重要です。子どもの貧困対策は余裕があればやるというものではなく、子どもの視点に立ち、子どもの重要な権利として守られるべきということが明確になったのが大きいと思います。

 子どもの貧困の背景には様々な社会的要因があります。親や家庭のせいにして自己責任論で片付けるのではなく、子どもの貧困の背景にある地域や国籍、人種、それぞれの個々の個性にも配慮して、子どもを第一に考えた支援を実施すべきと明確にした点は評価すべきです。

牧山ひろえ参議院議員

牧山ひろえ参議院議員

【本山】 目的や理念については、一定の評価ができるということですね。方針や指標、重点施策についてはいかがでしょうか。

市町村の責任明記、切れ目のない支援へ

【牧山】 基本的方針に「地方公共団体による取組の充実」が盛り込まれ、努力義務とはいえ計画策定や情報の活用促進など、市町村の責任が明記された点は良かったと思います。実際に子どもたち一人ひとりと向き合える基礎自治体こそが、一体となって取り組むことに意義があります。

 また、子どもの貧困に関する指標が前回の25項目から39項目へ14増え、ひとり親の正規雇用割合や公共料金の未払い、食事や衣服を買うことができなかった経験など、より多くの視点から貧困への気づきを得られるようになったのも大きな前進といえます。

 さらには、これまでは学童期以降に重点が置かれていましたが、親の妊娠・出産期から、幼児期も含め、切れ目なく支援すべきとしたのも評価できるのではないでしょうか。

 ただ、子どもの貧困対策全体については、最初の大綱制定から5年たっているのに、PDCAのD(計画を実行)の部分が不十分であることを、課題と感じています。

 前回の大綱制定は、先進国である日本で子どもの貧困が生じているという事実を知ってもらうきっかけとなり、調査をしたり指標を作ったりしてきましたが、具体的な取り組みがあまり進んでおらず、継続的な取り組みとするための予算措置ができていないのは残念でなりません。

家や学校に次ぐ「第三の居場所」は全国30拠点に

【本山】 5年前は問題があることさえ知られていなかったのが、徐々に浸透してきている点は評価して良いと思います。貧困対策は経済的な支援に目が行きがちですが、それだけではなく生活支援や家庭のあり方、就労についてなど具体的な記述も増えてきました。

 主に中学生への学習支援はこれまでにも行われてきましたが、日本財団では幼少期からの生活習慣の形成が必要だと認識していて、家や学校に次ぐ、子どもたちの「第三の居場所」という施設を展開しています。

 第三の居場所は2016年から、埼玉県戸田市を皮切りに現在30拠点まで広がっていて、そのすべてで自治体と協定を結び、地域の社会福祉法人やNPOとも連携しています。

 子どもの貧困対策大綱で「生活困窮者自立支援法に基づき、子どもの学習・生活支援事業を実施し、学習支援や進路選択に関する相談等の支援のほか、子どもや保護者への生活習慣や育成環境の改善に関する支援を行う」などの記述が増えたことを受け、第三の居場所のような取り組みが後押しされることを期待しています。

日本財団の本山勝寛氏

日本財団の本山勝寛氏

【牧山】 生活習慣の形成から支援するというのは素晴らしいですね。子ども食堂やフードバンクも増えてきていますが、生活支援まではなかなか行き届いていないのが現状です。現場の声を聴くと、一過性のイベントとしては成立しても継続が難しいと言われます。とくに費用面や担い手不足がネックになっています。やはり無償ボランティアで継続するのは難しく、志の高いNPOを支援するなどして、担い手を育てていかなければなりません。

 私は以前、NPOや公益法人への寄付の間口を広げるために、寄付金控除を受けられる適用限度額の引き下げに取り組んだことがあり、5000円を超える部分が控除対象だったのが2000円に引き下げとなりました(平成24年度税制改正)。継続的な活動には財政的な支援を欠かすことはできません。

生活習慣や食生活で、子どもたちの顔つきや態度も変わる

【本山】 継続性が重要というのはご指摘の通りで、瞬間的に盛り上がるイベントも良いですが、食事や暮らしは毎日続きます。第三の居場所は平日週5日開設して、ほぼ毎日通えるような環境を作っています。

 生活習慣や食生活が整ってくると、子どもたちの顔つきや態度も変わってきます。大人や友だち同士との関係構築もできるようになり、落ち着いて勉強もできるようになるといった好循環が生まれています。

 継続していくためにNPOや社会福祉法人と連携して、担い手と予算を確保していく必要がありますが、第三の居場所開設にあたって、日本財団は自治体等と協定を締結しています。その際、立ち上げの3年間を日本財団が助成し、終了後は自治体として予算措置を講じて継続することを確認しています。

 どの自治体も財政状況は厳しいと思いますが、貧困の解消は子どもの権利でもありますし、子どもの貧困対策を講じることは社会全体にとって未来への投資でもあります。

【牧山】 冒頭で「すべての子ども」を対象にしたと紹介しましたが、中学校卒業後に進学しなかった子どもたちが、「子どもの貧困対策」の対象の枠外的な扱いになっていることを課題として認識しています。その就職が職業体験のためなのか生活のためなのか、後者の場合は明らかに支援対象とすべきなのに、漏れてしまっている恐れがあります。言葉だけでなく実際に「すべての子ども」が夢や希望を持てる社会を目指さなければなりません。

【本山】 高校進学率は伸びていますが、高校中退も少なくありません。そういった子どもたちへの支援も必要ですね。

【牧山】 いったんドロップアウトした子どもがカムバックすることができるようにする仕組みも必要です。日本では女子学生が妊娠すると退学になるケースがありますが、そのようなケースも支援対象とすべきです。自ら望んでではなく、学校から一方的に辞めさせられるなどということは、私が長く暮らしたアメリカでは考えられません。若年妊娠自体はアメリカでも特に貧困地域では多く見られますが、おなかの大きな子も通学し続けますし、学校側も事情を分かっていて追い出すようなことはしません。

牧山議員と本山氏2

【本山】 学校の体制作りも重要ですが、スクールカウンセラーの設置なども盛り込まれました。子どもの貧困を把握するための体制作りは進んでいくのでしょうか?

学校の体制に加え、総合的な子どもの相談窓口が必要

【牧山】 スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーも素晴らしい制度ですが、その運用にあたっては、子どものプライバシーが十分に守られているのか、極めて慎重に取り扱う必要があります。相談していることが周囲の大人や子どもたちに見られることで、新たな虐待やいじめにつながるリスクもあります。

 あくまでも私案ですが、周囲に知られず、自然な形でカウンセラーやソーシャルワーカーと1対1で話せる機会を設けられないか検討すべきと考えています。貧困はセンシティブな問題ですし、親は認めたくない、周囲には見られたくない、そして子どもは無自覚であることも少なくない、そんな中で貧困に陥っていないか察知する必要があります。そのためには、プライバシーを守る形でのリーチアウトも必要です。

 新聞配達で睡眠時間が足りない、勉強よりアルバイトに割く時間が長いといった話も、親はしてほしくないと思うかもしれませんが、そういった事象をきっかけに実情を理解する必要があります。

 カウンセラーの設置と相談しやすい環境作りのほかにも、子どもの貧困をキャッチするためには、子どもの相談窓口の一本化が必要なのではないかと思います。

 いじめや虐待の相談窓口は公的なものだけでも100以上あって、担当大臣ですら把握できていなかったという話もあります。110番や119番に倣い、例えば123番のような、子どもでも覚えやすい番号と、誰でもアクセス出来る窓口が必要なのではないでしょうか。

 貧困は、いじめや虐待などの問題と連動しているケースも少なくありません。私自身子どものころに両親が離婚し母子家庭で育ちました。まだ離婚が少なかった時代で、支援等も充実しておらず、お世辞にも豊かとはいえませんでした。家計を支えるため母が働きに出るとその噂は瞬く間に広まり、私が小学校に上がってすぐにいじめの対象になりました。コンパスの針の部分でランドセルを切り裂かれるなど暴力は徐々にエスカレートし、学校生活は病院通いからスタートしました。

 また、私の家と児童養護施設が近かったこともあり、そこの子どもと一緒に登校するのが日課でしたが、その子たちも一緒にいじめられました。歩くことに困難を抱えるダウン症の子や目の不自由な子もいたりして、なにがしかの障害のある子どもが多かったのですが、いじめや差別も貧困もつながっているのではないかと段々と気づき始めました。

 子どもの貧困が生み出す問題は多岐にわたり、その程度もケースによって様々です。そういうことの対策という意味でもワンストップの分かりやすい窓口が必要ではないかと思います。なぜ3食食べられないのだろうと疑問に感じても、貧困が理由なのか虐待が理由なのか、子どもには分かりません。ただおなかが空いている、そんな子どもたちが相談できるような窓口が必要なのではないでしょうか。

【本山】 日本財団ではいじめ対策にも取り組んでいますが、やはりいろいろな課題が複合的に絡み合っています。第三の居場所に通う子どもにも、貧困であるだけでなく、ひとり親家庭や外国籍の親御さん、学校でいじめにあっている子もいます。学校に行きづらくなり、不登校になり、勉強もできなくなって遅れていくといった悪循環に陥っていきます。

 親としても子どもを十分に見てあげる時間がとれず、子どもの学校でのストレスが原因で親子関係にも悪影響を及ぼすこともあります。それを受けて親のストレスが極度に蓄積され、周囲に頼る人もいないことで、子どもへの暴力、ネグレクトなどにつながるといったことを防ぐ必要があります。

 地方自治体と連携する際には組織の縦割りが取り組みを妨げることもあり、やっていることがばらばらで情報を共有できていなかったりといった壁もあります。それを突破してトータルでサポートしていく体制づくりが重要です。

【牧山】 組織内の縦割りだけでなく、同じ目的を共有しているはずの組織間の関係も重要ですね。私は特別養子縁組の推進にも取り組んでいて、その際に感じたのですが、同じ社会的養護の重要な機能を担っている近隣の児童養護施設同士の関係が良好でなかったことがあって、とても残念に感じていました。行政の縦割りだけでなく、様々な組織間の壁も乗り越えていかなければなりません。

牧山議員と本山氏

子どもの貧困対策は社会の好循環につながる

【牧山】 今回の法改正に関し、与野党全会一致で法改正から閣議決定まで進んだのは一つの成果ですが、法改正を受けた新大綱では具体的な施策には十分に踏み込めていないという指摘もあります。新大綱成立から一定期間は事業の進捗を見なければなりませんが、私個人としても、議連としても、これまでと同じペースではいけないと感じています。

 次の大綱改正を待っていたら、最初の大綱制定時には10歳だった子が20歳になってしまいます。その間にも格差は広がっていくわけで、大事な成長期に一人一人の貧困の子どもたちは救われることのないまま大人になってしまいます。ピッチを上げて取り組みを加速させたいと思います。

 社会に出てからの格差是正も必要ですが、せめて人生のスタートラインに立つとき、機会はできる限り平等に提供できるようにするべきと思います。

【本山】 子どもの貧困に対する継続的な支援として、長期間学校が休みとなる時期の対応も重要です。学校の給食があれば、せめて一日一食は栄養バランスの取れた食事をとることができますが、長期の休みとなると栄養バランスが崩れたり明らかに栄養が不足したりするケースがあります。夏休みなど養育ができていない家庭の場合は、最悪40日間放置されることもあります。それを防ぐために第三の居場所は学校が休みの日も平日は開設しています。

 第三の居場所は初めての開設から3年経ったこともあり、効果の検証に取り掛かっています。PDCAでいうとC(チェック)に当たりますね。自治体と協力して学力テストや生活習慣などの変化について分析検証をしていて、定量的なデータをもとに政策提言をして、制度改革や予算措置につなげていきたいと考えています。

【牧山】 そのような調査は、公的機関が支援または主体となって、全国で継続的に実施すべきですね。なるべく短いスパンで定期的に、網羅的に実施すべきで、そこに予算を投じるべきです。志の高いNPOの支援も積極的に行い、担い手を増やしていく必要があります。

【本山】 やはり事業の推進には首長のリーダーシップが重要ですし、議員や市民の声も大事だと思います。子どもの貧困は社会全体で取り組むべき課題で、私たちも優先度の高い事業として推進しています。もちろん日本財団だけで解決することは難しいので、政府や自治体、地域の社福やNPOと一緒に取り組んでいきます。

 私たちは、子どもの貧困を放置した場合の経済的損失は40兆円以上になるというレポートも出していますが、国と地域の明るい未来のためには、やはり対策が必要です。

【牧山】 OECD諸国の中で子どもに関する公的な予算がもっとも低い日本ですが、子どもの貧困対策に取り組むことは、社会的に良い連鎖を生むと信じています。子どもの貧困対策は、非正規社員の待遇改善や不安定な働き方の改革、結婚や妊娠で女性のキャリアが閉ざされることのない制度と環境作りにもつながっていきます。

 ほとんどのケースで子どもの貧困と親の貧困は連動しているわけで、これを改めることで社会はよくなると思います。私自身、子どもの貧困対策の担い手の一人として、国政における積極的な働き掛けに加え、先進事例となるモデルづくりにも貢献していきたいと考えています。

牧山 弘恵(まきやま ひろえ) [ホームページ]

牧山弘恵氏

立憲民主党 参議院議員

国際基督教大学(ICU)卒業後、TBSに入社。同社退社後、渡米。1991年米国のトーマス・クーリー法科大学院卒業。1993年米国司法試験に合格後。2007年7月、参議院議員選挙にて初当選。2019年3度目の当選を果たす。元政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員長。二児の母親。現在は参議院で環境委員長、倫理選挙特別委員会委員、国際経済・外交調査会委員を務める。
牧山弘恵氏プロフィールページ

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