SIF2019分科会―1億2千万人通りの「働き方改革」 (2019/12/30 政治山)
11月30日に東京国際フォーラムで開かれた「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2019」の分科会、『1億2千万通りの「働き方改革」 わたしも会社も豊かになる、新時代の働き方改革』のレポートをお届けします。
「働き方改革」と国レベルで叫ばれるようになったのは2016年からですが、その背景には、長時間労働、少子高齢化、人口の減少、テクノロジーの進化という社会の変化がありました。こうした社会の変化に対応する「働き方改革」を通して、(1)正社員と非正規労働者の格差縮小、(2)年齢や性別による格差縮小、(3)労働者不足の解消、(4)生産性の向上、(5)雇用の流動化や多様化といった成果を実現することが目指されています。ただし、負担が増える経営者側と、収入が減る場合もある労働者側の双方に、積極的に受け入れられていない一面もあり、改革に取り組んでいる企業は全体の4割以下という実情にあります。
しかし、労働者の副業や兼業の解禁といった働き方の幅を広げることによって、親の介護や育児、起業など、個人の持つ様々なニーズに応える社会を作っていくことができます。またその一方で、そうしたプライベートな活動が企業にも好影響を与えて、さらなる成長が実現できる可能性もあります。そのような働き方改革について具体的に考えてみようというのが、この分科会のテーマでした。
分科会ではまず、参加者全員で「価値観の違い」トランプゲームが行われました。このゲームを楽しむことを通して、自分の価値観を見つめ直し、他者の価値観に気づいて、相互理解を深めることができた参加者たちに、「副業の伝道師」とも呼ばれる中村龍太サイボウズ株式会社社長室長が明るく語り始めました。
中村氏は、2013年にマイクロソフトからサイボウズに転職後、副業を開始。現在は、サイボウズとコラボワークス、NKアグリで働くポートフォリオワーカー。2016年の「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」で副業の実態を説明し、厚生労働省のモデル就業規則を副業解禁に導いた人物です。
国レベルでは2016年でしたが、サイボウズで働き方を変えようという取り組みが始められたのは、そのずっと前の2005年のことでした。この頃、成果至上主義に走ったサイボウズのマネジメントは崩壊し、社員の離職率は28%にまで膨れ上がっていました。その最悪の状態から、「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」という人事方針へサイボウズは大きく転換します。これは、従業員一人ひとりの個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬が実現されればよいという考え方であり、公平性よりも個性を重んじることで、一人ひとりの幸福を追求しようという考え方でした。
その後、離職率は劇的に低下していき、10年後には5%にまで低下することとなったのでした。そして、2012年には副業が解禁されます。その理由は、(1)本格的な副業だけでなく、ネットオークションやアフィリエイトで利益を得る場合もある。(2)家事・育児、趣味、地域活動など、収入の有無にかかわらず社会人は誰しも複数の活動をしているということでした。そこから、「なぜ制限が必要?一度解禁してみよう」という発想が生まれ、「会社の資産を毀損する可能性のある場合を除き、副業を行うことができる」と就業規則を改正。その翌年に入社した中村氏は、積極的に副業活動を始めたのです。
現在のサイボウズでは、約1割ほどの社員が、カレー屋、YouTuber、カメラマン、NPOでの勤務、経営コンサルといった様々な副業に取り組んでいます。一方、中村氏が考える複業は、副収入を得るためのサブ的な副業ではありません。それは、本業と並列・パラレルな関係にあるもので、自分らしい個性的なキャリアを積むことを目的とした、安心感と貢献感と幸福感をもたらしてくれるものだということを中村氏は説明しました。
続いて、NPO法人2枚目の名刺代表の廣優樹氏が登壇。廣氏は、組織や立場を超えて、社会を創る活動に取り組む「2枚目の名刺」を持つことが、人や社会の変化を同時に生み出すことを提唱。2009年に2枚目の名刺を立ち上げて、商社で事業開発の仕事に取り組みながら、この活動を続けています。2枚目の名刺というのは組織や立場を超えて、社会のこれからを創る「二枚目な社会人」が持つ名刺であり、自分らしい働き方、学び方であり、社会とのつながりの形であると廣氏は説明します。
社会人がチームを組んで、NPOの事業推進に一緒に取り組むNPOプロジェクトでは、メンバーが自ら手を挙げてプロジェクトに参画し、スキルや経験ではなく、共感を重視して作業を進めていく。こうした多様なバックグラウンドを持つメンバーとの協働を通して、NPOのリーダーと社会人が出会う場として、このプロジェクトは設定されているのです。
個人が所属する組織の境界を往還しつつ、自分の仕事・業務に関連する内容について学習、内省することを越境学習と呼ぶますが、まさしく、2枚目の名刺の活動で実践されているのは、こうした越境学習であり、その学習を通して人々の意識が少しずつ変わっていくことが目指されています。
2枚目の名刺を持っている人は、組織に帰る所があるので、こうした活動と学習を通して得た気づきを、その場で生かすことができます。一人ひとりの2枚目の名刺をそっと後押ししながら社会に変化を届けて行くという活動を、これからも続けていくと廣氏は主張しました。
大上段に振りかぶった上からの議論ではなく、こうした実践に根差した小さな活動の継続こそが、徐々に働き方への意識を改革していくことを予感させる内容豊かな分科会でした。
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