生物学的性別の理解と社会的性差の解消に関する考察 (2019/4/11 明治大学情報コミュニケーション学部 専任講師 後藤晶)
女性のからだに対する理解
ここでは女性の「からだのつくり」に関する理解について考えたいと思います。
PMSとは、月経前症候群と呼ばれるもので、月経開始の3~10日前から生じる身体的・精神的に不快な症状のことを指し、PMSによって生活の質に影響を及ぼすことが言われています。
例えば、近畿大学と大塚製薬による調査では、2014年に近畿大学体育会クラブ所属の女性アスリートの44.3%が、PMS等の症状により練習や試合に対する何らかの障害を自覚していることが明らかとなりました。
これは社会的性差であるジェンダーではなく、生物学的な性別としての男女の違いであり、女性の体に対する理解は男性・女性ともに必要なことには間違いありません。特に、男女共同参画社会の実現のためには生物としての男性・女性に対する知識・相互理解は必要不可欠です。
今回、政治山では大塚製薬と共に「「女性活躍と女性の健康に関する」意識調査」として調査を行いました。ここではその結果をもとに、更年期障害とPMSの認知の差異について検討したいと思います。
まず、はじめに更年期障害とPMSの違いについて確認しておきましょう。
- 【概要】
- 更年期障害…閉経前5年間と閉経後5年間を併せた10年間を「更年期」といい、更年期に現れるさまざまな症状の中で他の病気に伴わないものを「更年期症状」する。特に症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」と言う。
- PMS…月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失する。
- 【原因】
- 更年期障害…女性ホルモンの低下および身体的・心理的・社会的因子が複合的に関与。
- PMS…明確な原因は不明だが、排卵のリズムによる女性ホルモンの変動。
- 【主な症状】
- 更年期障害…(1)血管の拡張と放熱に関係するほてり、発汗等(2)その他のめまい、動悸など(3)気分の落ち込み、意欲の低下など。
- PMS…(1)情緒不安定、イライラ、抑うつなどの精神症状(2)のぼせ、食欲不振・過食などの自律神経症状(3)腹痛、頭痛、腰痛などの身体的症状。
- 【治療法】
- 更年期障害…(1)十分な問診に基づいた心理療法、生活習慣の改善を狙う(2)その他の治療として a.少量のホルモン補充療法、b.漢方療法、c.向精神薬の使用。
- PMS…(1)薬によらない治療として、症状と向き合う、仕事の負担を減らすなど(2)薬による治療として a.排卵の抑制、b.諸症状への対処的療法、c.漢方療法など。
公益財団法人日本産科婦人科学会(2018a; 2018b)より引用
更年期障害 / 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)
いずれも女性ホルモンに関連することとして、および症状としては類似性が認められます。しかし、更年期障害は更年期にある女性が対象になりますが、PMSは月経がある女性に発生するものです。したがって、早ければ小学生からでもPMSの状態になることがあります。
女性は場合によって、PMSから更年期障害へと50年近く悩まされる可能性があります。さて、我々は更年期障害やPMSについてどの程度知っているのでしょうか? 以下では、更年期障害とPMSについて、それぞれ言葉と症状についての認知状況について確認したいと思います。
更年期障害という言葉
はじめに。更年期障害という言葉について考えてみましょう。
全般的に更年期障害という言葉は広く知られています。さらに、性別ごとに見てみると、全般的に高年齢者ほど更年期障害に対して良く知っているという回答が多く見られます。特に女性による認知が高いのはその症状特有のものであると考えられます。
更年期障害の諸症状
続いて、更年期障害の具体的な症状に対する認知について確認しましょう。これについても更年期障害という言葉の認知と同様の傾向が見られます。
PMSの認知は非常に低い
はじめにPMSという言葉の認知について確認しましょう。全体的には「全く知らない」という方が大半です。更年期障害に比べてPMSは圧倒的に認知度が低い傾向にあります。続いて、男女と世代差の組み合わせについて詳細に検討してみましょう。
全般的に女性の方がPMSという言葉の認知が高いことがわかりますが、最も認知度が高い40代女性でも30%程度が知りません。したがって、男性のみならず女性にも未だ十分には認知されていない概念と言っても差し支えないでしょう。
また、比較的新しく認知されてきた概念であるために、男女ともに高年者の認知が低い一方で、20代・40代の女性の認知が比較的高いなど世代による傾向の差異が認められます。
いわゆる上司世代(役員や管理職等)が部下世代の健康事情や身体の特徴を十分に認知・理解していない状況では、部下世代の労働環境の悪化にも繋がるおそれがあります。
女性活躍の阻害要因が「わからない」ことが問題
現在、安倍内閣では働く場面で活躍する女性を応援する女性活躍推進施策が行われています。今回の調査では女性活躍という観点から、どの様な要因が現代社会における女性活躍を抑制する要因となっているのか探る調査項目を設定いたしました。以下には男女別および世代別に結果を示しています。
全般的な傾向として育児環境の整備および労働環境の整備が大きな課題である一方で、如実に示されているのは「職場男性による女性の不理解」でしょう。男性が女性の身体について正しい知識を得て、理解を深めることが必要であると考えられていることは間違いありません。
また、「女性の身体に関する正しい知識」は単純に女性から男性に対して求められているものではなく、男性も求めているものであると考えられます。一方で、現状ではそのような機会が十分に用意されていないのかもしれません。
一方、男女共に60代を除く全世代において上位5位以内に「わからない」という回答が示されています(60代は共に6位)。男性に限らず、女性自身もなぜ女性活躍社会の促進が阻害されているのかわからないというのが現状であると考えられます。
我々の他者に対する評価は、何らかのバイアスの影響を受けています。労働市場では男性に比べて女性が給与面で不利な状況に置かれていることは様々なデータが明らかにしています(例えば内閣府男女共同参画局)。これは女性の方が簡単に会社を休んだり辞めてしまうという代表的、もしくは典型的な印象をもとに意思決定を行ってしまう代表性ヒューリスティックの影響も認められる現象であると考えられます。
社会的性差(Gender)の解消は現代社会において重要な課題であることは間違いありません。一方で、生物学的性差(Sex)の存在は否定できません。どのような生物学的な差異があるのか、しっかりとした知識と理解を前提として社会的性差の存在しない社会の制度設計を考えていくことが求められるでしょう。
さらに進んだ話へ
ここでは今回の調査で明らかになったことの一部を整理しました。一方で、具体的な社会的な性差の解決策や知識が与えるバイアス等について十分に言及していません。ジェンダー問題を解決するための一つのアプローチとして、行動経済学を用いた行動デザイン的なアプローチの可能性があります。ダイバーシティ研修が効果をもたらさない理由などが行動経済学の観点から議論されていますので、興味のある方はぜひ『WORK DESIGN(ワークデザイン) 行動経済学でジェンダー格差を克服する』(イリス・ボネット著/NTT出版)などをご参考になさってください。
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