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「町村総会は憲法違反?」…政府からの回答がナナメ上すぎた件 (2018/3/1 神奈川県横須賀市議会議員 小林伸行)

 かねて「町村総会は憲法違反ではないか?」という声があちこちから挙がっていた。ところがこの度、国から正式に「違憲ではない」旨の回答が出された。その理由が、あまりにも意外だったため、皆さんにお知らせしておきたい。

日本国憲法

「町村総会」って何?

 株式会社の場合、株主なら誰でも参加できる「株主総会」を年1回以上開き、経営にとって重要なことを決めている。同様に町や村においても、住民なら誰でも参加できる「町村総会」を開催して、議会の代わりにまちの大事なことを決めることができる。ただし、この方式をとっている町村は、現在ない。

 ときに昨年、高知県大川村が議会を廃止して町村総会への移行を検討しているというニュースが各種メディアで報じられ、我々、政治家の業界では静かなブームとなった。ここ政治山でも、何度も取り上げられてきた。

【緊急取材】人口最少の村で全国唯一の直接民主制は実現するか

 多くの同業者の受け止めとしては、「言われてみれば、確かにそんなのあったな。でも、海外では住民が全員参加でモノゴトを決めたりするとは聞いていたけど、日本でも本気で検討しているまちがあるんだなあ」といったところではなかっただろうか。

町村総会の違憲疑惑!?

 ところで、鋭い議員仲間がいて「町村総会は憲法違反ではないか?」と言うのだ。つまり「憲法では市町村に議会を置くことを定めているのに、それより下の地方自治法で議会を置かないことを認めるのはおかしい」ということだ。憲法98条でも、憲法違反の法律は無効だとされている。調べてみると、他にも何人もの方が、同様の疑義を呈していた。

 念のため、関係する条文を引用しておく。

●日本国憲法
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
●地方自治法
第八十九条 普通地方公共団体に議会を置く。
第九十四条 町村は、条例で、第八十九条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。
第九十五条 前条の規定による町村総会に関しては、町村の議会に関する規定を準用する。

 なるほど、確かに矛盾している。

なぜか気になる町村総会

 私が働く横須賀市は市なので、町村総会などそもそも関係ない。だが、その後も何故だか私はずっとこの問題が気になっていた。あまりにも気になったので、地方自治法を書いた人たちがどんな理由で町村総会が憲法に沿っていると考えたのか、自分なりに2つの仮説を立ててみた。ちなみに昨年、自分のBlogでも記事にしている。

【仮説1】町村総会は、より民主度の高いものだから憲法の意図を包含するため。
 憲法の第八章・地方自治は、地方公共団体を住民の統治下に置くために設けられたと解することができる。この意図からすれば、代理人である議員を選んだうえでの間接民主主義より、有権者全員が参加できる直接民主主義のほうが、より正確に民意を反映できるし、意思決定の正統性が高い。つまり、民主度が高い。そうであれば、議会を置く場合よりもさらに、町村役場に住民がガバナンスを利かせることができる。これは、憲法の精神をより汲んでいるため、違反とは言えない。

【仮説2】町村総会も「議会」だから。
 この論は乱暴だが、あえて論を立ててみる。
 地方自治法で「議会を置かず」と言っているのに、町村総会が「議会」だと主張するのは、確かに論理破綻しているとしか言いようがない。だが、「地方自治法九十四条に瑕疵がある」と見なして、「町村総会も、全有権者が議員となった議会である」と捉えれば、憲法と町村総会の間に矛盾はなくなる。

議事堂

※写真はイメージです

さて、結論はいかに

 さて、いったん仮説を立ててしまうと、どちらなのか白黒はっきりさせたくなってしまった。そこで、旧知の早稲田夕季代議士(神奈川4区)に相談したところ、快く引き受けて頂き、「質問主意書」という形で政府の見解を質して下さった。

「町村総会」にかかる地方自治法の合憲性に関する質問主意書

 今般、これに対する政府の答弁書が提出されたのだが、実に意外だった。短いので、全文引用する。

 衆議院議員早稲田夕季君提出「町村総会」にかかる地方自治法の合憲性に関する質問に対する答弁書一及び二について

 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第九十四条の規定による町村総会は、憲法第九十三条第一項にいう「議事機関」としての「議会」に当たるものと考えている。

 つまり、仮説2だったのだ。この回答は、全く想定外で、目からウロコが落ちるようなシンプルな解の導き方だった。

 ただし、政府の立場に立って考えてみれば、意外なようで、実はかなり穏当な答弁なのかもしれない。

 第一に、仮設1のような立場に立つと、憲法解釈の問題になってしまう。ただでさえ、憲法9条と集団的自衛権や、憲法89条と私学助成の問題など、憲法解釈には様々な見解がある。新たな解釈上の対立を招くことは避けたいだろう。

 第二に、法体系をあまり揺らがせない。憲法で「議会を置く」としているのに対し、地方自治法で議会を置かない場合について定めていることを正当化しようとすると、綻びが大きい。一方、「地方自治法で議会の一形態である町村総会について明示したが、ついつい言葉のアヤで「議会を置かず」などと書いてしまった」とするほうが安定する。

 ただし、上記のような政府見解が示された以上、今後、国会議員のみなさんは地方自治法を改正して条文の齟齬を解消することが求められるだろう。

一件落着……のはずが

 というわけで、長々と書いてきたが、つまり結論はこうだ。

 「実は、町村総会も議会だった」

 最後に、小さなことのようで、国のかたちを定める憲法に関わる問題であり、自治体のかたちを定める地方自治法にも関わる問題について、真摯に対応してくださった代議士に感謝しつつ筆を置きたい。

 ……あれ!? ところで、町村総会も議会だというならば、市議会でも住民全員が議員ということにして「市総会」が可能となってしまうのではないか? そうなったら、自分の存在価値はなくなる。だから気になっていたのか……。

 国会議員のみなさん、法の整理をよろしくお願いいたします。

横須賀市議会議員 小林伸行

著者プロフィール横須賀市議会議員 小林伸行(こばやし のぶゆき) 2011年4月より横須賀市議会議員。地域情報誌と環境コンサルティングに携わるが、地域の疲弊と日本の将来を憂い、政治を志す。政策秘書試験合格後、国会議員公設秘書として修行し、マニフェスト大賞でも5年連続で受賞するなど政策派として活躍。
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