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日本でも液体ミルクの製造許可を―熊本地震を機に高まる声 (2016/7/22 政治山)

関連ワード : 子育て 災害 熊本地震 

 母乳か粉ミルクか…授乳にあたって日本では現在、2択しかありません。母乳が出なければ粉ミルクに頼るほかありませんが、お湯が作れない環境だったり、哺乳瓶が消毒できない環境だったりしたら…想像するだけで、怖い話です。

災害時に重宝―お湯や消毒の必要なし

 ところが、地震や台風でライフラインが遮断されれば、こうした不安は現実となります。お湯がなくても、消毒する手段がなくても、乳児にミルクを提供できる環境を整えることは、災害大国の日本にとって、世界のどこの国よりも喫緊の課題といえます。

 欧米には「液体ミルク」という第3の選択肢が用意されています。常温で賞味期限が平均5カ月もあるため、災害に備えて常備しておくこともできますし、粉ミルクを作る環境や時間がないときに液体ミルクで代用することもできます。

液体ミルク

フィンランドやアメリカ、韓国製の液体ミルク。
乳首のキャップを直接容器にセットして飲めるタイプもあるので、緊急時でもすぐに授乳が可能

熊本地震でフィンランドのメーカー5000個を無償提供

 4月14日に発生した熊本地震で、不安は現実のものとなりました。建物にひびが入るなどした熊本市民病院では患者を急きょ県外に搬送しましたが、避難所に駆け込んだ妊娠中の女性や乳児を抱えるお母さんは不安を訴えました。

 この事態にいち早く対応したのは、フィンランドの乳製品メーカー「ヴァリオ」でした。日本フィンランド友好議員連盟などの働きかけもあり、液体ミルク約5000個を無償提供し、熊本県益城町や西原村などの保育所に配られました。

横浜市の主婦・末永さんが2年前から署名活動

 2年前、横浜市の主婦・末永恵理さんは、「赤ちゃんがすぐ飲める乳児用液体ミルクを日本でも買えるようにしてほしい」と、市民団体『乳児用液体ミルクプロジェクト』を設立しました。オンライン署名賛同サイト「Change.org」で「おでかけにも備蓄にも使える便利な乳児用液体ミルクを、日本でも製造してください!」として賛同を募っています。

「Change.org」の署名ページ

 当時、ご自身も生後6カ月の乳児を育てていた末永さん。妊娠中に、欧米で愛用されている液体ミルクが、日本にないことを知り、行政の認可と国内メーカーの製造ラインを確立するために立ち上がりました。

海外ではスーパーやドラッグで販売

 液体ミルクの利便性について、末永さんは「稀釈せずに付属の乳首をつけてそのまま飲ませる事ができる個包装型の液体ミルクは、外出などにとても便利で、海外ではスーパーやドラッグストアなどで簡単に手に入ります」と語っています。

 そして、「通常の粉ミルクの使い方は、哺乳瓶を洗浄→熱湯、薬剤、蒸気などで消毒→ミルクを計量し哺乳瓶に入れる→70度以上のお湯でミルクを溶く→衛生的な水を足して適温に調整というプロセス。思ったより、手がかかりますね。出かけるともなれば、消毒済み哺乳瓶を2、3個、粉ミルク、お湯を入れた魔法瓶、水…の重くてかさばる調乳セットを持ち運ぶことになります」として、粉ミルク利用の制約を説明します。

 「一方、液体ミルクは個包装なので衛生的ですし、かさばりません。また、調乳済みで手間もかからず、室温のまま飲ませてOK。赤ちゃんが泣いたらすぐにあげられるので、夜間や風邪などしんどい時の授乳にも良さそうです」と訴えています。

末永さん(右)

乳業メーカーに関係資料を渡し、液体ミルクの研究開発を働きかける末永さん(右)と後藤さん(左)

都知事選の公約にも

 熊本地震への無償提供に一役買った、日本フィンランド友好議員連盟の会長である小池百合子・衆院議員(当時)の呼びかけで5月25日、自民党本部にて第1回目の勉強会「液体ミルクについて考える会」が行われました。末永さんも招かれ、液体ミルクについての基本情報を説明し、出席した約10人の国会議員は真剣に耳を傾けました。

 こうした報道もあり、Change.orgでの賛同数は熊本地震の発生前後で1万2500から4万に急増しました。地道に活動を続ける末永さんのもとに、「一緒に活動したい」と申し出たミルク育児中の会社員・後藤智園さんも合流。2人は今後、規制改革会議や議連の会合などで必要性を訴えていく意気込みで、要望があれば積極的に勉強会も開く方針です。

 小池氏は7月14日告示の東京都知事選に立候補し、公約の中で「災害時にも使える乳児用液体ミルクの普及を図る」と明記しました。出馬会見の際、「液体ミルクの国内製造を訴えています。日本は粉ミルクの国。第一に母乳ですが、液体ミルクはそのまま赤ちゃんが飲めるということで、東日本大震災、そして今回の熊本地震でも大変重宝されたと聞いております」とアピールしました。

<著者> 上村 吉弘(うえむら よしひろ)
株式会社パイプドビッツ 政治山カンパニー 編集・ライター
1972年生まれ。読売新聞記者、国会議員公設秘書の経験を活かし、永田町の実態を伝えるとともに、政治への関心を高める活動を行っている。
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