【20代当選議員の挑戦】
第6回 「働くママ」から議員へ。Uターンして感じる地元の「息苦しさ」とは (2016/3/11 一般社団法人ユースデモクラシー推進機構 代表理事 仁木崇嗣)
兵庫県の中南部に位置する人口約4.8万人の小野市。神戸市や姫路市のベッドタウンとしての機能を持ち、1970年代~80年代にかけて特に宅地化が進められた同市は、兵庫県有数の伝統工芸都市として知られ、播州そろばんや播州刃物で有名です。そんな小野市の市議会議員選挙で、得票率10.1%と圧倒的な支持を得てトップ当選された平田真実さんにお話を伺いました。
「正直に言うと、私は小野市が大好きではありません」
- 仁木
- まずは、平田さんのことについて教えてください。平田さんは、東京にお住まいの時期もあったとか。
- 平田
- はい。私は、県内の大学を卒業後、化粧品販売の会社に就職しました。その後、主人の会社勤めの関係もあり、結婚を機に退職し、1年ほど東京に住んでいた時期があります。しかし、自分の夢を諦め会社勤めをしていた夫が、日々暗い顔で自宅に戻ってくるのを見て、家庭があるから又は子どもがいるから夢を諦めなければならないということに、私自身も疑問が湧いてきました。里帰り出産した際に、私の両親からの助言もあり、小野市に戻って、私が働こうと決意しました。
- 仁木
- ご主人はその後会社を辞めて、東京から故郷の小野市にUターンされたのですね。
- 平田
- そうです。私の仕事が決まってからUターンしてもらいました。男性だから一家を支えないといけないなんて決まっていないということに初めて気が付き、1人目の子どもが生後2カ月の時に私自身が再就職活動を始め、神戸市の会社に就職が決まり、そこで約5年間働くことになりました。授乳しながらの就職活動で、胸が張ってとても辛かったのを思い出します(笑)。2人目を26歳の時に授かり、今は二児の母です。
- 仁木
- お子さんがおられる中で、小野市のご実家から神戸市まで毎日通勤されていたのですか?
- 平田
- はい。一家を養うとなると条件も限られるので、何社も応募し、何社も書類選考で落ちました。本当は子育てとの両立を考え、土日休みが希望でしたが、ことごとく落ちました。就職活動開始2カ月後に採用通知を出してくださった神戸でのシフト制勤務の仕事に決め、働き始めました。悠長に就活に時間をかけてもいられないので。神戸電鉄で片道1時間強かけて通勤していました。
- 仁木
- そのような多忙な日々の中で、立候補しようと思ったきっかけは何だったのですか?
- 平田
- 実は、立候補を決意したのは、その通勤電車の中だったのです。
- 仁木
- 長時間の通勤に耐え切れなくなったとか?
- 平田
- それもありますが(笑)、そもそも手に職も無い私のような普通の女性が、この近辺でキャリアを積んで稼いでいくことができる仕事が無いということにもどかしさを感じました。そして、長時間電車に乗っていると、いろんな人がいますよね。座る人や立つ人、いろんなところから乗ってきて、目的地も別々。その中で、マナーが悪い人もいれば、それに我慢する人もいる。でも皆同じ車両に乗って、同じ方向へ向かっているわけです。
- 平田
- それで、ふと思ったんです。自分や子どもたちがこれからも住むであろう小野市も一つの電車みたいなみたいなものじゃないかって。色々な人が住んでいて、色々な意見がある。
- 仁木
- なるほど。続けてください。
- 平田
- 正直に言うと、私は小野市が大好きではありません。自分の街が大好きだから立候補するという話はよく聞きますが、私はその類ではありません。電車の中でマナーの悪い人にイラッとしても黙っていたら何も変わらないのと同じように、何も行動しなければ、私は小野市が好きでないまま変わることは無いんじゃないかと思ったんです。何もしなくても電車と同じように進んでいくものだとは思います。でも、その中の人たちが気持ちよく乗れるようにする方法があるんじゃないかと、そういう思いがふつふつと沸いてきました。
- 仁木
- 自分が住む街を電車に例えると面白いですね。確かに進む速度の違いはあるにしろ、地方自治体は、ある程度ひかれたレールの上を走っていると言えるのかもしれません。一方で、仕事を辞めることに不安はありませんでしたか?
- 平田
- その時の職場では、店舗のスタッフ約20人を中立的に補助し、店舗を良くしていくというミッションが与えられていたのですが、様々な意見をとりまとめて、上司に提案していく仕事を通して、もっと大きなことに挑戦したいという思いが大きくなってきました。
- 仁木
- そうなのですね。東京からUターンされて、さらに二児の母ともなると意識が変化していくものなのでしょうか。
- 平田
- 少しの間ですが、東京に住んだことで小野市を客観的に見ることができるようになったと思います。その上で、この子たちは小野市を好きになるんだろうかって。私みたいになるのではなく、小野市が大好きだと思って育つよう、自分が動くことで何か変えられるかもしれないと思いました。
「息苦しさ」が若者のやる気を奪う
- 仁木
- 先ほど、小野市が大好きではないとおっしゃいましたが、それはどうしてですか?
- 平田
- ハード面とソフト面でそれぞれあって、まず、ハード面では、商業施設や娯楽施設といった若者の関心が向きやすい場所が「小野市には何も無い」と昔から感じて育ってきました。買い物ですら、隣の市に行くという感じで、車が1人1台無いと何もできない社会です。若者の刺激になる娯楽が無い。神戸まで1時間強かかると言いましたが、都市部との公共交通機関の時間的なつながりが弱く、小野に住んだまま就職をして生涯を終えるとなると選択肢が限られる現状があると思います。
- 仁木
- それは地方が抱える共通の課題かもしれません。
- 平田
- ソフト面では、これも地方共通かもしれませんが、私個人としてはあらゆる施策は民間主導で進めるべきだと考えていますが、民間側に意識が高い人が少ないのと、ボランティア精神が強すぎるというのを感じます。
- 仁木
- ボランティア精神が強すぎるとはどういうことでしょうか?
- 平田
- はい。例えば、私も関わらせていただいている働くママをサポートするNPOがあるのですが、全国的に展開し、企業スポンサーも得て、事業収益もしっかり上げている団体です。そういった取り組みに対して、「何でボランティアじゃないの?」というふうに見られることがあります。
- 仁木
- 社会貢献=ボランティアという図式が染み付いているのでしょうね。時間を持て余している高齢世代は、それでいいのかもしれませんが、社会起業家の参入障壁を高めたり、継続的な取り組みにできないことになる恐れがありますよね。
- 平田
- 他にも若い人が何か新しいことを始めると、周りの目が厳しくなるといった「息苦しさ」を感じます。結局、若い人のやる気を奪うことは、全体の活力を低下させることに繋がるのではないでしょうか。
議会人の仕事の進め方は古い
- 仁木
- 議会に入ってからはどうですか?議会活動でも「息苦しさ」を感じることはありますか?
- 平田
- そうですね。和を乱さないように行動しなくてはならないという無言の圧力を感じますし、仕事の進め方が古い気がします。
- 仁木
- 具体的にどういった様子か教えてもらえますか?
- 平田
- 自分の考えを発信することに消極的で、議員の仕事をオープンにしたがらない雰囲気がある上、市役所に出勤することが仕事だという風潮があります。パソコンのスイッチを入れると出勤とカウントするというシステムを知った時は衝撃的でした。
- 仁木
- すごいですね…。
- 平田
- 市民とのコミュニケーションや外部での情報収集よりも、市役所へ出勤することが目で見える成果として評価され得るのは疑問を抱きます。これは、議会だけでなく、市民の皆様も同様に評価している部分があるのかもしれません。
- 仁木
- まるで部活動のようですね。
- 平田
- 民間を経験した身として感じることは、議員の仕事にも1日1日に税金がかかっているのに非効率なことが多いと思います。にもかかわらず、公式の場で議員同士が議論できる機会が無く、本質的な部分が疎かにされていると感じます。議会運営についてはもっとオープンにするべきです。他にも暗黙のルールに囚われ、私もそうですが、新人議員が働きづらい環境になっていると思います。この点は、私が挑戦したい改革の一つです。
- 仁木
- 議会は市民に対して完全にオープンであるべきですし、多様性を担保するためにも、どんな人でも議員として働きやすいルールであるべきですよね。民間経験のある新人議員として市民感覚で議会の最適化に貢献できると良いですね。
今の子育て支援策では子どもは増えない
- 仁木
- 他に平田さんの問題意識は何がありますか?
- 平田
- やはり自分や自分の周りにそういった方が多いからですが、子どもが居ても働ける環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。
- 仁木
- 産みたいだけ子どもを産んで育てられる社会が理想ですよね。
- 平田
- 少子化の問題に触れますと、子育て支援策で子どもが増えるかといえば、そうでは無いと思います。自分もそうだったのですが、例えば医療費無料等の子育て支援の施策は、ラッキー、有難いと思う程度のことです。子育て支援が手厚いから産もう!となる人は少ないのではないでしょうか。
- 仁木
- まさにそのとおりですね。子育て支援策の出生率に与える影響を調べた会計検査院の研究でも、財政コストわりに効果が小さいという結論が述べられていたと思います。
- 平田
- そういうことですよね。自分の体験としても、これまで一番影響を与えた労働環境やそれに伴う経済状況に関して、小野市としてはどのようにサポートできるのか研究していきたいと考えています。個人的には、場所にとらわれずに働くことができるリモートワークといった新しい働き方に可能性を感じています。男女問わず労働環境を良くするために自分ができることを追求していきたいです。
若者がワクワクする街に。地元の三十路が「息苦しさ」を変える
- 仁木
- 最後に、平田さんが議会の外で地域のために取り組んでいることがあれば教えてください。
- 平田
- ちょうど今月の19日に地元の30歳を対象にした「三十路ピクニックパーティ」というイベントを開催するために有志メンバーで準備をしているところです。
- 仁木
- それはどういったイベントなのですか?
- 平田
- 何かに挑戦している人と30歳を迎える人の交流イベントで、30歳という節目に刺激を感じてもらい、何か新しいことに挑戦するきっかけにしてもらうことを目的としていいます。
- 仁木
- 「ピクニックパーティ」というネーミングには、ピクニックのように屋外に出る、つまり、新しい世界に一歩を踏み出すという意味が込められているのでしょうか?
- 平田
- いえ、資金不足のためテーブルや椅子を準備できず、ピクニックシートを持参してもらってわいわい楽しく集うイベントにしたいと思っていただけです(笑)。でも、そういう意味もいいですね。そうします(笑)。
- 平田
- ちなみに、小野市の行政決算を見ると成人式98万円に対して、65歳を対象とした「第二の成人式」という催しに350万円がかけられているのですが、私たちは税金を一切使わずに、自分たち自身でイベントを実現させ、一人でも多くこの北播磨地域に活動的な若者を増やしたいと考えています。
- 仁木
- 素晴らしいですね。また成果をお聞かせください。成功をお祈りしています!これからも地元の「息苦しさ」を吹き飛ばすエネルギッシュな取り組みを地元の若者を巻き込んで進めていってください。応援しています。
- 平田
- ありがとうございます。私たちの行動が地域の活性化につながると信じて、仲間と一緒に頑張ります!
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